沖縄旅行から数日後。
沖縄旅行から数日後。
山本家では――
まだ沖縄が終わっていなかった。
リビングの机には、お土産。
冷蔵庫には紅芋タルト。
そして。
優月のスケッチブックには、沖縄の絵が増え続けていた。
結愛なんて、毎日言う。
「おきなわ、あったかかったねぇ」
完全に余韻。
その日の夜。
夕飯を食べ終わったあと。
優月が、静かに画用紙を広げた。
僕は聞く。
「また描くの?」
優月は頷く。
「旅行の絵本、作りたい」
その言葉に。
唯ちゃんが嬉しそうに笑った。
「絶対いいの出来る」
結愛も、すぐ参加。
「ゆあもかく!!」
数秒後。
クレヨンを逆向きに持ってる。
危ない。
優月は、最初のページを描き始める。
空港。
飛行機。
ワクワクした結愛。
少し眠そうな僕。
笑ってる唯ちゃん。
その絵を見ていると。
旅行の始まりの空気まで思い出してくる。
ページをめくるたび。
沖縄の時間が戻ってくる。
青い海。
ジンベエザメ。
虹。
離島。
夕日。
そして。
砂浜に描かれたプリン。
優月は、笑いながらそのページを描いていた。
「結愛、沖縄でもプリン描いてたもんね」
結愛、得意げ。
「たいせつだから」
謎理論。
でも。
その一言が、なんだか山本家らしかった。
途中。
優月の手が止まる。
最後のページ。
何を描くか迷っていた。
唯ちゃんが聞く。
「どうする?」
優月は、少し考えてから言った。
「帰ってきたところ描こうかな」
それから。
静かに描き始める。
夜のリビング。
スーツケース。
眠そうな結愛。
テーブルの上のお土産。
そして。
“ただいま”って空気。
その絵は、派手じゃなかった。
でも。
すごく温かかった。
下には、小さな文字。
『たびは、おわっても、おもいではのこる』
僕は、その言葉を見て少し驚いた。
優月、ちゃんと“残す”ことを覚えてるんだなって。
絵で。
言葉で。
思い出を形にしてる。
その時。
結愛が突然、自分の絵を見せてきた。
そこには――
巨大なジンベエザメとプリン。
なぜ融合した。
優月、大爆笑。
唯ちゃん、お腹抱えてる。
僕まで吹き出した。
結愛は真顔。
「おきなわぷりんざめ」
新種誕生。
夜。
完成した絵本を、みんなで読む。
ページをめくるたび。
「あったね〜」
「これ笑ったよね」
そんな声が増える。
たぶん。
旅行って、“その時”だけじゃなくて。
帰ってきてから、何回も楽しくなるものなんだと思う。
その時。
結愛が、眠そうに言った。
「また、みんなでいこうね」
優月は、小さく笑って頷いた。
「うん」
窓の外には、春の夜空。
でも。
山本家の中には、まだ少し沖縄の風が残っている気がした。




