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蟹を食べに行く

春休みの終わり頃。


ある日の夕方。


テレビで、カニ料理特集をやっていた。


湯気。


真っ赤なカニ。


カニ鍋。


焼きガニ。


その映像を見た瞬間――


結愛、固まる。


「……かに」


目が本気。


優月も笑う。


「食べたくなった?」


結愛、小さく頷く。


「たべたい……」


すると。


唯ちゃんまで言い出す。


「わかる〜」


こうなると、もう止まらない。


数時間後。


山本家、カニ料理屋さんへ向かっていた。


夜のお店。


落ち着いた和風の雰囲気。


でも。


結愛だけ、遠足前の子ども。


「かに!かに!」


店員さん、ちょっと笑ってる。


席へ座ると。


目の前に、大きなカニ料理が並ぶ。


カニ鍋。


焼きガニ。


カニ天ぷら。


そして――


巨大なカニの足。


結愛、ぽかん。


「でか……」


優月、大爆笑。


僕も吹き出した。


まずは、焼きガニ。


網の上で、じゅわっと音がする。


香ばしい匂い。


唯ちゃんなんて、もう幸せそう。


「これはやばい……」


優月は、真剣に身をほぐしていた。


意外と器用。


その横で。


結愛、苦戦。


全然取れない。


「むずかしいぃぃ!」


僕が手伝うと。


ようやく、ぷるんと白い身が出てくる。


結愛、目キラキラ。


「おぉぉ……」


宝石みたいに見てる。


そして、一口。


数秒静止。


それから――


「おいしぃぃぃぃ!!」


また店中に響きそうな声。


優月、笑いすぎて机叩いてる。


唯ちゃんまで涙出てる。


でも。


本当に美味しかった。


カニって、“食べるまでが大変”なのに。


だからこそ、余計おいしく感じる。


途中。


優月が、カニを見ながらぽつりと言う。


「なんか、“冬のごちそう”って感じするね」


僕は頷く。


春だけど。


でも、なんだか特別感がある。


その時。


結愛が、カニの足を持ちながら聞く。


「これ、どこまでおおきくなるの?」


難問。


僕が少し考えていると。


優月が真顔で言う。


「家くらい」


結愛、固まる。


「……やばい」


唯ちゃん、大爆笑。


僕まで吹き出した。


途中。


カニ鍋が完成。


湯気がふわっと立つ。


みんなで囲む鍋。


それだけで、なんだか嬉しい。


結愛は、カニを食べながら幸せそうに言った。


「かにって、しあわせのあじ」


名言っぽい。


最後。


雑炊。


カニの旨みたっぷり。


優月が、一口食べて静かに言う。


「これ、優勝かも」


全員頷く。


帰り道。


みんな、お腹いっぱい。


春の夜風が気持ちいい。


結愛は、僕の手を握りながら眠そうに呟く。


「またかにたべたい……」


すると。


優月が笑いながら言った。


「次は、自分でむけるようになろうね」


結愛、半分寝ながら。


「……しゅぎょうする……」


家族全員、大爆笑。


山本家の春休みは。


最後まで、美味しくて賑やかだった。


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