プリンの絵本
春の雨の日。
外では、しとしと雨が降っていた。
山本家は、めずらしく静かな午後。
……のはずだった。
リビングで。
結愛が突然、大発表を始める。
「ぷりんのえほんつくる!!」
来た。
優月、吹き出す。
唯ちゃんも笑いながら聞く。
「どんなお話?」
結愛、真剣。
「ぷりんが、ぼうけんする」
壮大。
その瞬間。
優月の目が少しキラッとした。
「……それ、絵本にしてみる?」
結愛、固まる。
「ほんと!?」
ということで。
唯ちゃん&優月による、“結愛のプリン絵本プロジェクト”始動。
テーブルの上には、スケッチブック。
色鉛筆。
お菓子。
そして本物のプリン。
なぜ置いた。
結愛は、プリンを見ながら説明を始める。
「ぷりんね、あるくの!」
優月、笑いながらメモ。
「うんうん」
「それで、おそらとぶ!」
急展開。
唯ちゃんは、ストーリーを整理しながら聞いていた。
「プリンちゃんのお名前は?」
結愛、即答。
「ぷりりん!」
強い。
物語は、どんどん広がっていった。
ぷりりんは。
プリンの国に住んでいる。
でも。
世界一おいしい“きらきらカラメル”を探す旅に出る。
途中で。
パンケーキ山。
ゼリーの海。
クッキーの森を冒険。
どう考えても結愛の頭の中。
優月は、笑いながらどんどん絵を描いていく。
丸っこいプリン。
小さい手足。
ぴょこぴょこ歩いてる。
しかも。
ちょっと結愛に似てる。
その時。
唯ちゃんが、ふと聞く。
「ぷりりん、困った時どうするの?」
結愛は、少し考えてから言った。
「ともだちといっしょ!」
その答えに。
僕は少し驚いた。
結愛の中では、“一緒”が大事なんだなって。
優月は、その言葉を聞いて新しいキャラクターを描き始めた。
いちごミルクちゃん。
クッキーくん。
プリンを助ける仲間たち。
結愛、大興奮。
「かわいいぃぃ!!」
夕方になる頃には。
絵本の最初の数ページが完成していた。
『ぷりりんのぼうけん』
最初のページ。
小さなプリンが、朝日を見ながら立っている。
下には、優月の文字。
『ぷりりんは、せかいでいちばんキラキラをさがしていました。』
結愛、拍手。
「すごい!!」
唯ちゃんも、優しく笑っていた。
「ちゃんと絵本になってる」
優月は、少し照れながらも嬉しそうだった。
その時。
結愛が突然、本物のプリンを持ち上げる。
「ぷりりん、たべる!」
優月、大爆笑。
唯ちゃんまで笑い崩れる。
僕も吹き出した。
結局。
ぷりりんは食べられた。
でも。
絵本の中のぷりりんは、まだ冒険を続けている。
雨の音が響くリビング。
その真ん中で。
三人の笑い声と、色鉛筆の音が混ざっていた。
たぶん。
こういう時間が、“幸せ”っていうものなんだと思う。




