僕の両親の家へ
三月の休日。
朝から、結愛がソワソワしていた。
理由は簡単。
今日は――
僕の両親の家へ遊びに行く日。
つまり。
おじいちゃんとおばあちゃんの家。
結愛は、朝ごはん中ずっと聞いてくる。
「まだいかない?」
「あと五分」
「まだ?」
せっかち。
優月は、そんな結愛を見て笑ってる。
「絶対お菓子狙ってるでしょ」
すると。
結愛、真顔。
「ばれた」
隠してなかった。
車で向かう途中。
外には、少しだけ春の気配。
梅の花。
柔らかい風。
冬が、少しずつ終わっていく。
実家へ着くと。
玄関が開く前から、おばあちゃんが出てきた。
「いらっしゃーい!」
結愛、全力ダッシュ。
「きたぁぁ!!」
抱きつく勢いがすごい。
おじいちゃんも、奥から笑いながら出てくる。
「元気だなぁ」
家の中へ入ると。
なんだか懐かしい匂い。
お茶の香り。
畳。
昔から変わらない空気。
僕は、帰ってくるたび少し安心する。
その時。
テーブルの上を見た結愛、固まる。
大量のお菓子。
「てんごく……」
また言ってる。
優月、大爆笑。
昼。
みんなでご飯。
おばあちゃんの料理は、相変わらず美味しい。
煮物。
卵焼き。
唐揚げ。
結愛なんて、ほっぺパンパン。
「おいひい……」
食べながら喋るから。
途中。
おじいちゃんが、古いアルバムを持ってきた。
「懐かしいの出てきたぞ」
嫌な予感。
開かれるページ。
そこには――
子どもの頃の僕。
変な髪型。
泥だらけ。
変顔。
優月、爆笑。
唯ちゃん、涙出てる。
結愛なんて机叩いて笑ってる。
「ぱぱ、へん!!」
ひどい。
僕は頭抱える。
すると。
おばあちゃんが笑いながら言う。
「昔から落ち着きなかったのよ〜」
完全にバラされてる。
その横で。
優月が、写真をじーっと見ていた。
「でも、ちょっと結愛に似てる」
全員、静かになる。
……たしかに。
特に笑ってる顔。
結愛は、きょとん。
「ゆあ、ぱぱ?」
優月、吹き出す。
午後。
庭へ出る。
小さい頃、僕が遊んでた庭。
今は、結愛が走り回ってる。
不思議な感じだった。
優月は、縁側に座ってスケッチブックを開いていた。
庭。
梅の木。
笑ってる結愛。
おじいちゃん。
おばあちゃん。
静かな春の光。
優月は、その景色をゆっくり描いていた。
僕は、その姿を見ながら思う。
時間って、ちゃんと繋がってるんだなって。
僕が子どもだった場所に。
今、自分の子どもたちがいる。
なんだか少し、不思議で嬉しかった。
帰る前。
おばあちゃんが、袋いっぱいにお菓子を持たせてくれる。
結愛、超笑顔。
「またくる!!」
おじいちゃんも笑う。
「いつでも来い」
帰り道。
結愛は、後部座席でお菓子を抱えたまま寝ていた。
優月は、今日描いたスケッチを見ている。
僕は、バックミラー越しにその姿を見る。
家族って。
“増えていく思い出”そのものなのかもしれない。
その時。
寝言みたいに結愛が呟いた。
「……ぱぱ、へんなかみ……」
優月、吹き出す。
唯ちゃんまで笑ってる。
僕だけ、ちょっと複雑だった。




