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マラソン大会

三月。


少しずつ寒さがやわらいできた頃。


優月が、学校から帰ってくるなり言った。


「来週、マラソン大会ある」


その瞬間。


結愛、びっくり。


「ずっとはしるの!?」


たぶんイメージが過酷すぎる。


優月は苦笑い。


「そんなずっとじゃないよ」


でも。


実は、優月は少しだけ不安そうだった。


走るのは、そこまで得意じゃない。


夜。


夕飯のあと。


優月がぽつりと言う。


「途中で疲れそう……」


僕は笑う。


「疲れてもいいんじゃない?」


優月、きょとん。


「マラソンって、“最後まで走る”のがすごいんだと思う」


順位だけじゃなくて。


止まりたくなっても進むこと。


それだけで、十分頑張ってる。


すると。


優月は、小さく頷いた。


その日から。


夕方、少しだけ一緒に走ることになった。


近所の公園。


冷たい風。


優月は、一生懸命走っている。


結愛も参加。


でも。


数秒後。


「あきた!」


早い。


そのまま鳩追いかけてる。


自由すぎる。


優月は、笑いながら走っていた。


途中。


息が切れて立ち止まる。


「はぁ……つかれた……」


僕は隣で歩きながら言う。


「無理に速くなくていいよ」


優月は、呼吸を整えながら空を見る。


夕焼け。


少し赤い空。


「でも、去年より走れるかも」


その声は、少しだけ前向きだった。


そして。


マラソン大会当日。


快晴。


少し冷たい朝。


校庭には、たくさんの子どもたち。


保護者たち。


結愛は、なぜか超応援モード。


「ゆづきぃぃ!!がんばれぇぇ!!」


声がでかい。


周りの人、ちょっと笑ってる。


優月、恥ずかしそう。


でも。


少し嬉しそうだった。


スタートの合図。


子どもたちが、一斉に走り出す。


優月も、その中にいる。


最初は少し緊張した顔。


でも。


だんだん、自分のペースで走り始めた。


途中。


苦しそうな瞬間もあった。


顔が赤い。


息も荒い。


それでも。


止まらない。


前を向いてる。


僕は、その姿を見ながら思った。


“頑張る”って、こういう顔なんだなって。


ラスト。


ゴールが近づく。


結愛、全力で叫ぶ。


「ゆづきぃぃぃ!!」


優月、最後だけ少しスピードを上げた。


そして――


ゴール。


その瞬間。


優月は、その場でしゃがみ込む。


「つかれたぁ……」


でも。


笑ってた。


すごく。


順位は真ん中くらい。


でも。


僕たちにとっては、十分かっこよかった。


唯ちゃんが、タオルを渡しながら笑う。


「頑張ったねぇ」


優月は、汗を拭きながら小さく頷く。


「最後まで走れた」


その顔は、少し誇らしそうだった。


帰り道。


結愛が、突然言う。


「ゆあもらいねんでる!」


僕と優月、顔を見る。


そして。


同時に吹き出した。


「三秒で止まりそう」


結愛、超不満。


「とまらないもん!」


でも。


数秒後。


「……たぶん」


家族全員、大爆笑。


春が近づく空の下。


山本家の笑い声は、今日も元気だった。


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