山本家の絵本
二月の終わり。
ある夜。
優月は、こたつでスケッチブックを開いたまま考え込んでいた。
鉛筆は持ってる。
でも。
今日は、なかなか描き始めない。
僕は声をかける。
「どうした?」
優月は、少し迷いながら言った。
「……絵本作ってみたい」
僕と唯ちゃん、少し驚く。
「絵本?」
優月は、小さく頷いた。
「山本家のお話」
その瞬間。
結愛、飛び起きる。
「ゆあでる!?」
もちろんそこ。
優月は笑った。
「いっぱい出るよ」
すると。
結愛、超嬉しそう。
「やったぁぁ!!」
その日から。
優月の“絵本づくり”が始まった。
タイトルは――
『やまもとけのはるなつあきふゆ』
すごく優月らしい名前だった。
最初のページ。
春。
庭に小さな花が咲いてる。
結愛が泥だらけ。
唯ちゃんが笑ってる。
僕はジョウロ持ってる。
次のページ。
夏。
みんなで花火。
流れる汗。
夜空。
アイス。
結愛の顔に、なぜかスイカついてる。
優月、大笑いしながら描いてる。
秋のページには。
焼き芋。
紅葉。
お寿司屋さん。
そして、流星群。
冬のページには。
鍋。
ラーメン。
雪。
みんなでこたつ。
ページをめくるたび。
山本家の思い出が、絵になっていく。
優月は、本当に楽しそうだった。
ある日。
絵画教室にも、その絵本を持って行った。
先生は、一ページずつゆっくり見てくれる。
そして。
最後のページを見たあと、優しく笑った。
「優月ちゃん、“好き”を残せる人なんだね」
優月は、少し照れた顔。
「残す?」
先生は頷く。
「楽しかった時間って、放っておくと少しずつ忘れちゃう。でも、絵にすると残るんだよ」
優月は、静かに自分の絵本を見る。
たぶん。
その時。
“描く意味”が少し分かった気がしたんだと思う。
家へ帰ると。
結愛がいつものように飛んでくる。
「できた!?」
優月は、完成したページを見せた。
結愛、真剣に読む。
まだ全部読めないけど。
絵を見ながら、一生懸命理解してる。
そして。
自分が出てくるページで大笑い。
「これゆあ!!」
そのあと。
最後のページを開いた。
そこには。
春夏秋冬の真ん中で、笑っている山本家。
下には、小さな文字。
『みんなでいると、まいにちがおもいで』
リビングが、少し静かになる。
唯ちゃんは、優しく笑っていた。
僕も、胸がじんわり温かくなる。
優月は、少し恥ずかしそうに言う。
「なんか……描きたかった」
僕は、優月の頭をそっと撫でた。
「すごくいい絵本だと思う」
その時。
結愛が突然。
「つぎは、ぷりんのえほん!」
全員吹き出す。
優月なんて笑いながら言う。
「絶対プリンしか出てこないじゃん」
でも。
結愛は本気だった。
その夜。
リビングの机には、一冊の小さな絵本。
まだ手作りで。
少し曲がってて。
クレヨンの跡も残ってる。
でも。
そこには確かに、“山本家の時間”が詰まっていた。




