絵画教室3
一月。
冬の空気はまだ冷たい。
でも。
優月は毎週の絵画教室を、すごく楽しみにしていた。
土曜日の朝なんて、特に早い。
「まだ時間ある?」
って、出発一時間前に聞いてくる。
結愛は、そんな優月を見ながら笑う。
「ゆづき、えのひだとげんき」
たしかに。
その日は、顔つきが少し違う。
絵画教室へ着くと。
今日は、机の上にたくさんの果物が置かれていた。
りんご。
みかん。
バナナ。
そして。
プリン。
……なぜ。
結愛、即反応。
「ぷりん!!!」
先生、笑ってる。
今日のテーマは、“見たままを描く”。
静物画だった。
優月は、真剣な顔でプリンを見つめている。
結愛も横でじっと見てる。
たぶん食べたい。
先生が言う。
「形だけじゃなくて、“光”も見てみようか」
優月は、小さく頷く。
それから。
鉛筆をゆっくり動かし始めた。
丸いガラス。
少し光るスプーン。
プリンの柔らかそうな色。
影。
優月は、前より観察する時間が長くなっていた。
“上手に描こう”じゃなくて。
“ちゃんと見よう”としてる感じ。
その時。
先生が、優月の後ろでふっと笑う。
「優月ちゃん、見るの上手になったね」
優月、少しびっくり。
「見る?」
「うん。“これどうなってるんだろう”って、ちゃんと考えてる」
その言葉に。
優月は少し照れながら、またプリンを見る。
結愛は、隣でソワソワ。
「まだたべない?」
ダメです。
数十分後。
絵が完成していく。
優月の描いたプリンは、なんだか本当に甘そうだった。
つやつやしてる。
今にも揺れそう。
先生も感心していた。
「おいしそう〜」
結愛なんて、本気で言う。
「ほんもの!?」
優月、大爆笑。
そのあと。
先生がみんなの絵を並べてくれた。
同じプリンなのに。
描く人によって全然違う。
明るいプリン。
静かなプリン。
元気そうなプリン。
優月は、その景色を見ながら小さく言った。
「同じなのに違うんだ」
先生が頷く。
「絵って、“見えたもの”じゃなくて、“どう見えたか”が出るからね」
その言葉に。
優月は、しばらく自分の絵を見ていた。
帰り道。
空から、小さな雪が降り始めた。
結愛、大騒ぎ。
「ゆきぃぃ!!」
でも。
優月は、雪を見ながらぽつりと言う。
「雪も描きたいな」
僕は笑う。
「描けばいいじゃん」
優月は、少し嬉しそうに頷いた。
その夜。
家へ帰ると。
優月は、窓の外を見ながらスケッチブックを開いていた。
白い雪。
街灯の光。
静かな夜。
その横顔は、なんだか少しだけ“大人”に見えた。
その時。
後ろから結愛が顔を出す。
「ぷりんのゆきもふらせて!」
優月、吹き出す。
結局。
どんな芸術の時間でも、結愛は結愛だった。




