教師の仕事
冬休み前の最後の一週間。
朝。
まだ薄暗い時間に、僕は静かに起きる。
キッチンへ行くと、唯ちゃんが眠そうに笑った。
「今日も早いね」
僕は頷きながら、ネクタイを締める。
教師の朝は早い。
教室を開けて。
プリントを準備して。
授業の確認をして。
生徒たちが来る前に、一日を整える。
リビングでは、結愛が半分寝ながら言う。
「ぱぱ、おしごと?」
「うん」
すると。
結愛が、小さな手を伸ばす。
「がんばって」
その一言だけで。
なんだか力が出る。
学校へ着くと。
廊下には、朝の静かな空気。
でも。
チャイムが鳴ると、一気に賑やかになる。
「おはようございまーす!」
元気な声。
眠そうな声。
走ってくる足音。
僕は、教室の前で笑う。
「走らないよー」
でも。
たぶん自分も昔やってた。
授業中。
真剣にノートを書く子。
ぼーっと窓を見る子。
分からなくて困ってる子。
いろんな子がいる。
教師って、“教える仕事”でもあるけど。
“見つける仕事”でもある気がする。
誰が困ってるか。
誰が頑張ってるか。
誰が無理して笑ってるか。
ちゃんと気づける人でいたい。
昼休み。
職員室へ戻ると、少しだけ静かな時間。
でも。
次の瞬間、生徒が飛び込んでくる。
「先生ー!」
「聞いてください!」
結局、休憩じゃない。
でも。
その時間が、嫌いじゃなかった。
放課後。
夕日が差し込む教室。
静かになった机。
僕は、一人で黒板を消しながら思う。
子どもって。
毎日少しずつ変わっていく。
急に笑うようになったり。
急に背が伸びたり。
急に、大人みたいなことを言ったり。
たぶん。
家で見てる優月や結愛も同じなんだろう。
学校から帰る頃には、外はもう暗い。
玄関を開ける。
すると――
「ぱぱぁぁ!!」
結愛が飛んでくる。
優月も、「おかえり」と笑う。
唯ちゃんの作る夕飯の匂い。
温かい部屋。
その瞬間。
僕は思う。
教師としての自分も。
父親としての自分も。
どっちも、“誰かの成長を見てる時間”なんだなって。
夕飯の時。
優月が聞いてくる。
「今日、生徒さんたちどんな感じだった?」
僕は少し笑う。
「給食のプリンで争ってた」
結愛、即反応。
「ぷりん!?」
早い。
唯ちゃん、大笑い。
僕も笑った。
学校でも。
家でも。
毎日いろんなことがある。
でも。
誰かと笑える日は、やっぱりいい日なんだと思う。




