山本家の釣り大会は。 最後まで、賑やかだった。
十二月のある日。
朝。
まだ外が暗い時間。
僕は、ガサガサ準備をしていた。
すると。
布団から、もぞっと結愛が顔を出す。
「……どこいくの?」
眠そう。
僕は笑った。
「魚釣り」
その瞬間。
結愛、完全覚醒。
「つりぃぃ!?」
大声。
優月まで起きた。
実は。
唯ちゃんのお父さん――つまり、おじいちゃんが。
「今度みんなで釣りでも行くか」
と言い出したのだ。
ということで。
家族みんな+おじいちゃんで、冬の魚釣り大会開催。
朝の港。
冷たい空気。
白い息。
海から、少ししょっぱい匂いがする。
結愛は、防寒でモコモコ。
歩き方がペンギン。
優月、大爆笑。
おじいちゃんは、慣れた手つきで釣り道具を準備していた。
なんかかっこいい。
「まずはエサつけるぞ」
結愛、興味津々。
でも。
虫みたいなエサを見た瞬間――
「ひゃぁぁ!!」
逃げた。
優月、笑い崩れる。
僕まで吹き出した。
しばらくして。
みんなで釣りスタート。
海へ糸を垂らす。
静かな時間。
波の音。
カモメの声。
優月は、じーっと海を見ていた。
「なんか不思議」
「ん?」
「待ってるだけなのに、楽しい」
僕は笑う。
「たしかに」
その時。
結愛が突然叫ぶ。
「うごいたぁぁ!!」
竿がブルブル。
みんな大慌て。
「ゆっくり!ゆっくり!」
おじいちゃんが後ろから支える。
そして――
ぴちぴちっ!
小さな魚、ゲット。
結愛、目まんまる。
「とれたぁぁぁ!!」
港中に響く声。
優月も拍手。
唯ちゃんなんて動画撮りながら笑ってる。
結愛は、魚を見つめながら真剣に言った。
「……いきてる」
その声は、少しだけ驚いていた。
おじいちゃんが優しく言う。
「海で頑張ってたんだな」
結愛は、静かに頷く。
そのあと。
優月も挑戦。
しばらく待って――
ぴくっ。
「えっ」
また竿が揺れる。
優月、慎重。
ゆっくり巻く。
そして。
二匹目、成功。
優月、びっくりしたあと、すごく嬉しそうに笑った。
「釣れた……!」
その顔が、なんだか小さな冒険をクリアしたみたいだった。
昼。
みんなで、温かいおにぎりを食べる。
冷えた手。
海風。
でも。
その時間が、すごく気持ちよかった。
その時。
唯ちゃんが、海を見ながらぽつりと言う。
「こういう時間、いいねぇ」
僕は頷く。
急がない時間。
ただ、一緒にいる時間。
それだけなのに、ちゃんと楽しい。
その帰り道。
クーラーボックスを抱えた結愛が、急に聞いた。
「おさかなさん、たのしかったかな」
僕は少し笑う。
「どうだろうね」
結愛は、真剣に考えていた。
それから、小さく言う。
「ありがとうってする」
その言葉に。
僕は少し胸が温かくなった。
夜。
釣った魚を、みんなで食べた。
結愛、最初の一口を食べながら言う。
「おいしい……」
でも。
その顔は、いつもより少しだけ静かだった。
優月が、ぽつりと言う。
「自分で釣ると、大事に食べたくなるね」
僕は頷いた。
命をもらうって。
こういうことなのかもしれない。
その時。
結愛が突然。
「つぎは、まぐろつる!」
家族全員、大爆笑。
おじいちゃんなんて涙出るほど笑ってた。
山本家の釣り大会は。
最後まで、賑やかだった。




