それは、まだ誰も食べたことない。
十一月のある金曜日。
夜。
僕が仕事から帰ると。
結愛が、なぜかソワソワしていた。
「ぱぱ!」
「ん?」
「きょうね!」
すごい勢い。
「おすし!」
……なんの話。
すると。
優月が笑いながら説明してくれた。
「今日、学校で“好きな食べ物”の話してたんだって」
なるほど。
結愛、胸を張る。
「ゆあ、おすしたべたい!」
唯ちゃんが笑った。
「じゃあ、みんなで行っちゃう?」
その瞬間。
結愛、ジャンプ。
「やったぁぁ!!」
ということで。
急きょ、家族で回転寿司へ行くことになった。
夜の回転寿司。
明るい店内。
流れていくお皿。
結愛、入った瞬間から大興奮。
「まわってるぅぅ!!」
優月も、ちょっと嬉しそう。
「なんか久しぶりだね」
席に座ると。
結愛、タッチパネル連打しそうになる。
「まってまって!」
僕、慌てて止める。
危うくプリン十個注文。
唯ちゃん、大笑い。
最初に来たのは、たまご寿司。
結愛、真剣な顔で食べる。
もぐもぐ。
数秒後――
「おいしぃぃ……」
幸せそう。
優月は、サーモンを食べながら笑った。
「お寿司って、なんか特別感あるよね」
たしかに。
同じ外食でも、“今日は楽しい日”って感じがする。
その時。
注文したお寿司が高速レーンで到着。
ビューン。
結愛、びっくり。
「はやっ!!」
取ろうとして焦る。
でも。
勢い余って醤油こぼす。
「あぁぁ!!」
優月、笑い崩れる。
唯ちゃん、慌てて拭いてる。
僕まで吹き出した。
やっぱり山本家だった。
途中。
優月が、小さく僕へ聞く。
「ぱぱは何が好き?」
僕は少し考える。
「えんがわかな」
すると。
結愛が真顔。
「おとなだ……」
なんで。
優月、大爆笑。
そのあと。
みんなでデザートタイム。
結愛、もちろんプリン。
迷いゼロ。
しかも。
運ばれてきた瞬間、拍手してる。
「ぷりんきたぁぁ!!」
周りのお客さんまで少し笑ってた。
でも。
結愛は気にしない。
超真剣に食べてる。
その横で。
優月が、ふと小さく言った。
「なんかさ」
「ん?」
「こういう普通の日、好き」
僕は、その言葉を聞いて少し嬉しくなった。
特別な旅行じゃなくても。
大きなイベントじゃなくても。
みんなで笑って。
同じテーブルを囲む。
それだけで、“いい日”になる。
家族って、そういうものなのかもしれない。
帰り道。
外は少し寒かった。
でも。
みんな、お腹いっぱいでぽかぽかしてる。
結愛は、僕の手を握りながら眠そうに呟いた。
「また、おすしたべたい……」
僕は笑った。
「いいね」
すると。
結愛、半分寝ながら続ける。
「つぎは……ぷりんのおすし……」
家族全員、大爆笑。
たぶん。
それは、まだ誰も食べたことない。




