上手い下手より、“残したい”って気持ちが大事なんだよ」
おじいちゃんとおばあちゃんが帰った次の日。
朝の食卓。
なんだか少し静かだった。
結愛が、ぽつりと言う。
「……なんかさみしい」
唯ちゃんが笑う。
「昨日いっぱい遊んだからね」
優月も頷く。
「おうち広く感じる」
たしかに。
昨日まで笑い声が増えていた分、静けさがちょっとだけ目立った。
その時。
ピンポーン。
みんな止まる。
結愛、目まんまる。
「じぃじ!?」
そんなわけ――
玄関を開けると。
おじいちゃんだった。
しかも一人。
僕も驚く。
「えっ!?」
おじいちゃん、少し困った顔。
「スマホ忘れた」
家族全員、大爆笑。
リビングのテーブルに、しっかり置いてあった。
おじいちゃん、自分で笑ってる。
「歳だなぁ」
すると。
結愛が、急におじいちゃんの手を引っ張る。
「こっち!」
また庭ツアー開始。
昨日も見た。
でも。
結愛の中では、“今日の庭”は別物らしい。
「みて!」
指差した先。
昨日より少しだけ赤くなったトマト。
おじいちゃんは、しゃがみ込んでじっと見る。
それから、優しく笑った。
「ほんとだ。育ってるな」
結愛、誇らしそう。
その時。
優月が、スケッチブックを持ってきた。
「ねえ、おじいちゃん」
「ん?」
「これ描いたの」
開かれたページには。
昨日のみんなの絵。
笑ってるおばあちゃん。
手巻き寿司を崩した結愛。
変な顔で笑ってる僕。
そして。
庭でトマトを見てるおじいちゃん。
おじいちゃんは、しばらく黙って絵を見ていた。
それから。
静かに笑った。
「……いい絵だなぁ」
その声は、なんだか少し優しかった。
優月は、少し照れながら聞く。
「ほんと?」
「うん」
おじいちゃんは、ゆっくり頷く。
「ちゃんと“楽しかった”が残ってる」
その言葉に。
僕は少し驚いた。
優月が描いてるものを、ちゃんと分かってくれてる気がした。
その時。
結愛が突然聞く。
「じぃじも、えかける?」
おじいちゃん、少し考える。
「昔はなぁ」
「ほんと!?」
「でも、全然うまくなかった」
結愛、爆笑。
優月まで笑ってる。
すると。
おじいちゃんが急に言った。
「でもな」
「うん?」
「上手い下手より、“残したい”って気持ちが大事なんだよ」
その言葉に。
優月が静かに目を丸くした。
僕も、なんだか胸に残った。
絵も。
写真も。
思い出も。
“忘れたくない”から残すのかもしれない。
昼前。
今度こそ、おじいちゃん帰宅。
でも。
帰る前に、庭を振り返って言った。
「また来る頃には、もっと育ってるな」
結愛、元気いっぱいに頷く。
「うん!!」
車が見えなくなったあと。
優月がぽつりと呟く。
「おじいちゃん、なんかかっこよかったね」
僕は笑った。
「昔からあんな感じ」
優月は、スケッチブックを抱えながら小さく笑う。
「また描こうっと」
その顔は、なんだか少し嬉しそうだった。
僕は思う。
言葉って。
誰かの“好き”を、もっと大きくすることがあるんだなって。




