「このひまわり、ぷりんたべるかな」
それから数週間。
山本家の朝は、少し変わった。
まず。
結愛がカーテンを開ける。
そして。
庭へダッシュ。
「おおきくなってるー!!」
毎朝それ。
優月も、学校へ行く前に必ず庭を見るようになった。
「昨日より葉っぱ増えてる」
唯ちゃんは、水やりをしながら嬉しそう。
僕は――
きゅうりを一本踏みかけた。
「あぶなっ!」
優月、即ツッコミ。
「ぱぱ立入禁止!」
ひどい。
でも否定できない。
ある朝。
結愛の叫び声が庭から聞こえた。
「できてるぅぅ!!」
みんな慌てて外へ出る。
すると。
小さな赤いミニトマト。
ついに実っていた。
結愛、目キラキラ。
「とまとぉ……!」
宝石みたいに見てる。
唯ちゃんが優しく笑った。
「収穫してみる?」
結愛、超真剣に頷く。
小さな手で。
そーっと。
ぷちっ。
取れた。
「とれたぁぁ!!」
大歓声。
優月まで拍手してる。
その日の朝ごはん。
初収穫のミニトマト。
結愛、じーっと見つめてる。
「たべるの、もったいない……」
珍しい。
でも。
意を決して食べる。
もぐもぐ。
数秒後――
「おいしいぃぃ!!」
家族全員、笑った。
唯ちゃんが、小さく言う。
「自分で育てると、特別だね」
優月も頷く。
「なんか、“頑張った味”する」
その表現が、優月らしかった。
午後。
優月は、庭のスケッチを描いていた。
伸びたきゅうり。
揺れるひまわり。
笑ってる結愛。
その横顔を見ながら、僕は聞く。
「優月、最近いっぱい描いてるね」
優月は少し笑った。
「だって、毎日ちがうんだもん」
たしかに。
植物って、少しずつ変わる。
昨日より伸びて。
昨日より花が開いて。
気づかないくらいゆっくりだけど。
ちゃんと前へ進んでる。
その時。
結愛が庭から走ってくる。
「ぱぱ!」
「ん?」
「きゅうり、おっきくなってた!」
僕は笑った。
「ほんと?」
結愛、両手広げる。
「こーんな!」
絶対そんな大きくない。
優月、大爆笑。
唯ちゃん、笑いながら写真撮ってる。
夕方。
ひまわりが、一輪だけ咲いた。
大きな黄色。
空へ向かって開く花。
みんなで並んで見上げる。
結愛が、小さく言った。
「わらってるみたい」
優月も頷く。
「うん。太陽みたい」
唯ちゃんは、その花を見ながら静かに笑った。
僕は思う。
花って。
咲く瞬間だけじゃなくて。
毎日水をあげて。
待って。
大事にした時間ごと、綺麗なんだなって。
その時。
結愛が突然。
「このひまわり、ぷりんたべるかな」
家族全員、大爆笑。
結局。
最後はいつも通りだった。




