この旅で、少し増えた気がした。
シンガポール三日目。
今日は、動物園へ行く日だった。
朝から結愛、やる気満々。
「ぺんぎんさんいる!?」
昨日も見た。
でも。
何回でも会いたいらしい。
外へ出ると、南国の空気。
少し湿っていて、植物の匂いがする。
優月は、周りを見ながら嬉しそうだった。
「なんか、全部が新しいね」
動物園へ入ると。
広い。
とにかく広い。
木も大きい。
鳥の声も、日本と違う。
結愛は、地図を逆さまに持ちながら先頭を歩いていた。
「こっちー!」
絶対違う。
案の定、迷う。
僕まで一緒に迷う。
優月、笑いながら言う。
「ぱぱと結愛、方向音痴チームだ」
否定できない。
最初に見たのは、キリン。
長い首。
ゆっくり動く姿。
結愛、真剣な顔。
「くび、ながすぎない?」
たしかに。
優月は、その横でスケッチしていた。
最近、本当に絵を描くのが楽しそうだった。
次はゾウ。
大きな体。
ゆっくりした動き。
結愛は、少し怖がりながらも興味津々。
「おっきぃ……」
唯ちゃんが優しく笑う。
「結愛くらいの時、優月も同じ顔してたよ」
優月、びっくり。
「えっ、そうだった?」
僕は頷く。
「泣きそうになってた」
優月、赤くなる。
結愛、大爆笑。
でも。
そのやり取りが、なんだか嬉しかった。
“昔の優月”を、今の結愛が笑ってる。
時間って、ちゃんと繋がってるんだなって思った。
昼過ぎ。
動物園のベンチで休憩。
みんな少し疲れてる。
でも。
結愛だけ元気。
突然、立ち上がる。
「あっ!!」
指差した先。
そこには――
ペンギングッズ売り場。
「またぁ!?」
家族全員、笑う。
結局。
小さなペンギンのキーホルダーを買った。
結愛、大事そうに握ってる。
夕方。
帰る前に、大きな観覧車へ乗ることになった。
ゆっくり上がっていく景色。
街が小さくなる。
空がオレンジ色に染まっていく。
結愛は、窓にぴったり。
「たかぁぁい!」
優月は、静かに景色を見ていた。
そして、小さく言った。
「ねえ」
「ん?」
「わたし、大人になっても旅行したい」
僕は笑う。
「いいね」
優月は続ける。
「いろんな景色、見たい」
その目は、まっすぐだった。
たぶん。
世界を知るって。
“行きたい場所”が増えることなんだろう。
その時。
結愛が突然。
「ゆあも!」
「どこ行きたい?」
結愛、真剣に考える。
「ぺんぎんのおうち」
家族全員、大爆笑。
でも。
その願いは、結愛らしくて可愛かった。
夜。
ホテルへ戻る道。
街の光を見ながら、僕は思う。
旅行って。
景色を見るだけじゃなくて。
“家族の新しい顔”を見つける時間なのかもしれないって。
優月の夢。
結愛の好奇心。
唯ちゃんの笑顔。
全部。
この旅で、少し増えた気がした。




