知らない景色の中で笑うのは。 なんだか少しだけ、“冒険”みたいだった。
十月。
ある日の夜。
夕飯を食べている時だった。
テレビでは、海外の特集をやっていた。
青い海。
大きな街。
きらきら光る夜景。
結愛、テレビにくぎづけ。
「うわぁぁ……」
優月も、目を輝かせていた。
「すごい……外国だ」
その時。
唯ちゃんが、ぽつりと言う。
「いつか家族で海外旅行とか行ってみたいね」
一瞬、静かになる。
そして。
結愛、立ち上がる。
「いく!!」
即決。
早い。
僕は笑った。
「どこ行きたい?」
結愛、真剣に考える。
「ぺんぎん!」
国じゃない。
優月、大爆笑。
唯ちゃんも笑ってる。
でも。
優月は、少し考えてから言った。
「わたし、海外の美術館行ってみたい」
僕は少し驚く。
「いいねぇ」
優月は、照れながら続けた。
「あと、街とか描いてみたい」
その横顔が、なんだか少し大人っぽかった。
結局。
家族会議スタート。
地図を広げる。
スマホで調べる。
「ここきれい!」
「この食べ物おいしそう!」
「飛行機のるの!?」
結愛、テンション最高潮。
そして数週間後――
行き先決定。
シンガポール。
理由。
動物園もある。
水族館もある。
綺麗な街もある。
そして。
ペンギンもいる。
結愛、大歓喜。
出発当日。
空港。
大きなスーツケース。
人いっぱい。
結愛、ずっとキョロキョロしてる。
「ここ、もうがいこく!?」
まだ日本。
優月は、飛行機を見るたびに嬉しそうだった。
「ほんとに乗るんだね……」
その声には、ワクワクが詰まっていた。
飛行機の中。
結愛、窓側。
「くもぉぉ!!」
ずっと見てる。
機内食でも大興奮。
「そらでごはん!」
かわいい。
でも。
数時間後。
僕、少し酔う。
優月、即気づく。
「ぱぱ、大丈夫?」
唯ちゃん、苦笑い。
「飛行機でも転びそうな顔してる」
失礼。
そして到着。
夜のシンガポール。
空港を出た瞬間――
「わぁ……」
家族全員、声が漏れた。
高いビル。
光る街。
あったかい空気。
全部、日本と違う。
結愛なんて、口あきっぱなし。
ホテルへ向かうタクシーの中。
窓の外を見ながら、優月が小さく言った。
「世界って広いね」
僕は頷く。
「うん」
その時。
結愛が突然。
「ぺんぎんも、がいこくごしゃべるかな」
家族全員、大爆笑。
初日から、山本家は山本家だった。
でも。
知らない景色の中で笑うのは。
なんだか少しだけ、“冒険”みたいだった。




