最初から立派じゃなくていい。 “好き”を大事にしてたら。 きっと、少しずつ形になっていくんだろうなって。
九月。
新学期が始まった。
朝の空気が、少しだけ秋っぽい。
でも。
結愛はまだ夏気分だった。
「プールはいりたい!」
ランドセル背負いながら言ってる。
季節感が迷子。
そんなある日。
優月が学校から、少し難しい顔で帰ってきた。
「ただいまー……」
声が小さい。
僕は気づく。
「どうした?」
優月は、ランドセルを置いてから言った。
「今日ね、クラスで“将来の夢”の話したの」
僕は笑う。
「いいじゃん」
でも。
優月は少し困った顔。
「みんな、“ちゃんとした夢”があった」
サッカー選手。
お医者さん。
パティシエ。
いろんな夢。
優月は、少し下を向く。
「わたし、“絵を描くの好き”しかない」
その声は。
ちょっと自信をなくしているみたいだった。
僕は、少し考える。
それから、ゆっくり聞いた。
「“好き”って、だめ?」
優月は、きょとん。
「え?」
「好きって、すごいことだと思うよ」
優月は静かに聞いている。
僕は続けた。
「だって、“好き”があると、人って頑張れるから」
優月は、少し黙った。
その時。
結愛が、おやつ食べながら突然言う。
「ゆあ、ぷりんすき!」
空気クラッシャー。
でも。
家族全員、吹き出した。
僕は笑いながら言う。
「ほら。結愛も本気だよ」
結愛、胸を張る。
「うん!」
優月も、つられて笑った。
それから、小さく言う。
「……そっか」
その週末。
優月は、スケッチブックを持って公園へ行った。
秋の風。
赤くなり始めた葉っぱ。
遊ぶ子どもたち。
優月は、静かに絵を描いている。
僕は、少し離れたベンチから見ていた。
その横顔は、真剣で。
でも。
どこか楽しそうだった。
しばらくして。
優月が絵を見せに来る。
そこには。
笑って走る結愛。
風に揺れる木。
空。
そして、小さく描かれた僕と唯ちゃん。
全部。
優しい色だった。
僕は、自然に言った。
「優月の絵って、“優しい”ね」
優月は、少し照れながら笑う。
「ほんと?」
「うん。見てると、安心する」
優月は、その言葉を聞いて少し嬉しそうだった。
その時。
遠くから結愛の声。
「ぱぱぁぁ!!」
見ると。
どんぐり拾いすぎてポケット破けてた。
「あぁー!!」
どんぐり大散乱。
優月、笑い崩れる。
唯ちゃん、しゃがみ込んで笑ってる。
僕も吹き出した。
秋の公園に、家族の笑い声が広がる。
その音を聞きながら。
僕は思う。
夢って。
最初から立派じゃなくていい。
“好き”を大事にしてたら。
きっと、少しずつ形になっていくんだろうなって。




