「たぶん、“また大事にしたい”って思えるためかな
八月の終わり。
夏休み最後の日。
なんだか少しだけ、空が静かだった。
結愛は、床に転がりながら叫んでいる。
「なつやすみおわらないでぇぇ……」
完全に燃え尽き症候群。
優月は、宿題の最終チェック中。
でも。
顔はちょっと寂しそうだった。
僕が聞く。
「夏休み、楽しかった?」
優月は笑った。
「うん。すっごく」
それから、少し考えて続ける。
「でも、終わるのちょっとさみしい」
その気持ち、よく分かる。
楽しかった時間ほど、終わる時に胸がきゅっとする。
その日の夜。
みんなでベランダに出た。
夏の終わりの風。
少しだけ涼しい。
遠くで、誰かの花火の音が聞こえる。
結愛は、手すりにあごを乗せながらぽつり。
「せみ、へったね」
優月も空を見上げる。
「秋くるのかな」
僕は、二人の横顔を見ながら思う。
こうやって。
子どもたちは、季節で時間を覚えていくんだなって。
その時。
優月が突然言った。
「ねえ」
「ん?」
「“終わる”って、なんであるんだろ」
難しい質問だった。
僕は少し考える。
それから、ゆっくり言った。
「たぶん、“また大事にしたい”って思えるためかな」
優月は、静かに聞いている。
僕は続ける。
「ずっと同じだと、気づけないことってあるから」
夏休み。
笑ったこと。
水族館。
花火。
宿題で騒いだ夜。
終わるから、“楽しかった”って思える。
そんな気がした。
優月は、小さく頷いた。
「そっか」
その横で。
結愛が突然聞く。
「じゃあ、ぷりんも?」
「なにが?」
「なくなるから、おいしい?」
家族全員、大爆笑。
唯ちゃんなんて、笑いすぎて涙出てる。
でも。
たしかに一理あるのかもしれない。
全部食べ終わるから、“もっと食べたい”って思う。
夏も、きっと同じだ。
夜。
寝る前。
優月が、夏休みの自由研究ノートを見返していた。
家族の好きなもの。
笑顔の絵。
小さな思い出。
ページをめくりながら、優月がぽつりと言う。
「来年の夏も、いっぱい笑いたいな」
僕は笑った。
「絶対笑ってるよ」
「なんで分かるの?」
僕は、少しだけ考えるふりをした。
それから答える。
「この家族だから」
優月は、その答えを聞いて嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ながら。
僕は静かに思った。
きっと。
未来って。
“また笑いたい”を繰り返していくことなのかもしれないって。




