“描きたい”って思えることが、きっと一番大事なんだろうなって。
水族館から帰った数日後。
リビングのテーブルには、優月のスケッチブックが広がっていた。
クラゲ。
ペンギン。
そして――
家族の絵。
結愛は、自分が描かれているページを見つけて大喜び。
「ゆあだ!」
絵の中の結愛は、ペンギンみたいに手を広げて笑っていた。
僕は思わず笑う。
「そっくり」
結愛、得意げ。
「かわいい?」
「うん、かわいい」
すると。
優月が少し恥ずかしそうに言った。
「学校でね、絵を展示するんだって」
「えっ、すごいじゃん!」
唯ちゃんも目を輝かせる。
優月は、嬉しいけど緊張してる顔だった。
「でも、変だったらどうしよう……」
僕は、スケッチブックを見ながら言う。
「優月の絵って、“好き”が見えるから好きだよ」
優月は、きょとんとする。
「好き?」
「うん。“楽しい”とか、“かわいい”とか、“大事”って気持ち」
優月は、少し黙ってから笑った。
「そっか」
その週末。
家族みんなで、優月の絵の展示を見に行くことになった。
学校の廊下には、たくさんの絵。
元気いっぱいの絵。
カラフルな絵。
その中に。
優月の絵があった。
タイトル。
『だいすきなひ』
描かれていたのは、水族館で笑ってる家族。
クラゲを見上げる僕たち。
ペンギンの真似してる結愛。
優しく笑う唯ちゃん。
そして。
その絵の真ん中には、大きな笑顔の優月自身がいた。
僕は、その絵を見た瞬間。
なんだか胸が熱くなった。
唯ちゃんなんて、少し泣きそう。
「……いい絵だね」
優月は、照れながら笑った。
「えへへ」
その時。
結愛が、絵を指差して言う。
「ぱぱ、ころんでない!」
家族全員、大爆笑。
たしかに珍しい。
帰り道。
優月は、少しだけ誇らしそうに歩いていた。
でも。
急に僕へ聞いてくる。
「ほんとに、よかった?」
僕は立ち止まる。
そして、優月の頭を優しく撫でた。
「うん」
「どこが?」
僕は笑った。
「“楽しかった”が、ちゃんと伝わった」
優月は、その言葉を聞いて安心したみたいに笑った。
夕方。
家へ帰ると。
結愛が、突然画用紙を持ってきた。
「ゆあもかく!」
数十分後。
完成。
ぐるぐる線。
謎のピンク。
そして中央に大きく。
『ぷりん』
芸術だった。
優月、笑い転げる。
唯ちゃん、お腹抱えてる。
僕も吹き出した。
でも。
結愛は満足そう。
「かけた!」
その笑顔を見ながら、僕は思った。
上手とか下手じゃなくて。
“描きたい”って思えることが、きっと一番大事なんだろうなって。




