五月
五月。
ゴールデンウィーク。
山本家は、少し遠くの水族館へ行くことになった。
朝から結愛はハイテンション。
「ぺんぎんいる!?」
まだ家。
優月は、リュックにスケッチブックを入れていた。
「クラゲ描きたいなぁ」
唯ちゃんは、お弁当チェック。
僕は――
高速道路を間違えかけた。
出発五分。
「ぱぱー!!」
優月のツッコミ、早かった。
でも。
そんなバタバタも含めて、もう山本家だった。
水族館へ着くと。
青い光。
大きな水槽。
ゆっくり泳ぐ魚たち。
結愛、目キラキラ。
「すごぉぉい……」
最初に見たのは、巨大なジンベエザメ。
結愛、口あきっぱなし。
優月は、水槽の前で静かに絵を描き始めた。
その横顔が、なんだかすごく大人っぽい。
僕は隣に座る。
「楽しい?」
優月は頷いた。
「うん」
それから、小さく笑う。
「なんか、水の中って静かで好き」
その言葉を聞いて。
僕も、水槽を見上げる。
たしかに。
青い光の中を魚たちが泳ぐ姿は、時間までゆっくりになる感じがした。
その時――
「ぱぱぁぁ!!」
振り返る。
結愛。
ペンギンエリアで全力ジャンプ中。
「ぺんぎんさんいるぅぅ!!」
完全に仲間見つけた顔。
しかも。
ペンギンの動きを真似して歩き始める。
ぺたぺた。
優月、笑い崩れる。
唯ちゃん、動画撮影開始。
僕までつられて笑ってしまった。
昼。
みんなでお弁当を食べる。
結愛は、ペンギンの話しかしない。
「ぺんぎんさん、あるいてた!」
「うん」
「かわいかった!」
「うん」
十回目。
でも。
そんな嬉しそうな顔を見ていると、何回でも聞けた。
帰る前。
大きなクラゲの水槽の前で、みんな少し静かになった。
ふわふわ漂う光。
幻想的な景色。
優月が、小さく言った。
「なんか夢みたい」
結愛も、ぽつり。
「そらとんでるみたい」
僕は、その二人の言葉を聞きながら思った。
子どもたちは。
ちゃんと自分の“感じたこと”を言葉にできる。
それって、すごく素敵なことだなって。
帰り道。
車の中。
結愛、秒で爆睡。
ペンギンぬいぐるみ抱えてる。
優月は、今日描いた絵を見せてくれた。
クラゲ。
ペンギン。
家族。
全部。
優しい色で描かれていた。
その絵を見ながら、僕は思う。
きっと。
優月の絵には、“楽しかった気持ち”がちゃんと残るんだろうなって。
その時。
寝ていた結愛が突然。
「……ぺんぎんさん……ぷりんたべるかな……」
家族全員、吹き出した。
夢の中でも自由だった。




