しょうがっこうでも、ぷりんたべれるかな」
三月の終わり。
保育園のおわかれ会の日。
朝から結愛は、少しだけ緊張していた。
でも。
靴下を左右逆に履いてた。
緊張より通常運転だった。
唯ちゃんが直してあげながら笑う。
「今日は特別な日だね」
結愛は、こくんと頷く。
優月も、少しお姉さんっぽい顔で言った。
「がんばってね」
結愛、照れ笑い。
保育園へ向かう道。
空は、春の青。
小さな花が揺れている。
でも。
結愛は、いつもより静かだった。
保育園に着くと。
先生たちが優しく迎えてくれる。
教室には、子どもたちの絵や写真がいっぱい飾られていた。
結愛が小さかった頃の写真もある。
泥だらけで笑ってる写真。
給食で口の周りベタベタの写真。
僕と唯ちゃん、思わず笑ってしまう。
「大きくなったねぇ」
式が始まる。
歌を歌って。
ありがとうを伝えて。
先生たちのお話を聞く。
結愛も、一生懸命前を向いていた。
でも。
途中で。
先生が言った。
「みんな、本当に大きくなりましたね」
その瞬間。
結愛の目に、涙がじわっと浮かんだ。
僕は、少し驚いた。
結愛は、泣きながらもちゃんと座っていた。
優月も、隣で静かに見ている。
式が終わると。
結愛は、先生へぎゅっと抱きついた。
「ありがとう……」
先生も、目を赤くして笑う。
「こちらこそ、ありがとう」
その光景を見た瞬間。
僕まで、胸がいっぱいになった。
帰り道。
結愛は、卒園でもらったお花を大事そうに抱えて歩いていた。
少し泣いたあとだから、目が赤い。
でも。
ちゃんと笑ってる。
「ゆあ、がんばった」
僕は、優しく頭を撫でる。
「うん。すごく頑張った」
その時。
優月が突然言う。
「結愛、かっこよかったよ」
結愛、ぴたっと止まる。
「ほんと?」
「うん」
優月は、本当に嬉しそうに笑った。
「なんか、おねえさんだった」
その言葉に。
結愛の顔が、ぱぁっと明るくなる。
「えへへ!」
単純。
でも。
その笑顔が、たまらなく愛しかった。
夜。
家で小さなお祝いパーティー。
ケーキ。
ジュース。
そして。
結愛の大好きなプリン。
「やったぁぁ!!」
完全復活。
優月が、ふと結愛へ聞く。
「保育園どうだった?」
結愛は、少し考える。
それから。
小さく言った。
「たのしかった」
その一言に。
たくさんの思い出が詰まってる気がした。
笑った日。
泣いた日。
友達と遊んだ日。
全部。
ちゃんと結愛の中に残ってる。
僕は、その笑顔を見ながら思う。
子どもたちは。
こうやって少しずつ、“自分の思い出”を増やしていくんだなって。
その時。
結愛が突然。
「しょうがっこうでも、ぷりんたべれるかな」
家族全員、大爆笑。
やっぱり最後は、それだった。




