“好き”って思えるものがあるって、すごいことなんだよ
七月。
蝉の声が、一気に増え始めた。
夏が来た。
ある日の夕方。
優月が学校から、大きな紙を抱えて帰ってきた。
「みてー!」
広げる。
そこには――
クラスの“将来の夢ランキング”。
男の子たちは、サッカー選手やゲームクリエイター。
女の子たちは、アイドルやケーキ屋さん。
その中に。
『絵本作家 優月』
ちゃんと書いてあった。
僕は思わず笑う。
「かっこいいじゃん」
優月は少し照れながらも、嬉しそう。
「えへへ」
でも。
少しだけ不安そうな顔もしていた。
夜。
ベランダでスイカを食べながら、優月がぽつりと言った。
「ほんとになれるかなぁ」
僕は、スイカの種を飛ばしそうになって止まる。
「絵本作家?」
優月は頷く。
「うん」
しばらく静かな風が流れる。
その時。
結愛が突然。
「ゆあ、ぷりんやさんなる!」
会話に飛び込んできた。
しかも。
スイカ食べながら。
自由すぎる。
僕は笑った。
「じゃあ、優月の絵本に、結愛のプリン出そうか」
結愛、目キラキラ。
「だす!!」
優月も吹き出した。
その笑顔を見ながら、僕はゆっくり言った。
「なれるかどうかよりね」
「うん?」
「“好き”って思えるものがあるって、すごいことなんだよ」
優月は静かに聞いている。
僕は続けた。
「だって、“好き”は、頑張る力になるから」
優月は、スイカを持ったまま小さく頷いた。
その横顔は。
少しだけ大人っぽかった。
その週末。
家族みんなで夏祭りへ行くことになった。
浴衣。
提灯。
屋台の匂い。
結愛は、もうテンション爆発。
「りんごあめぇぇ!!」
優月も嬉しそう。
唯ちゃんは、二人の浴衣姿を見てずっと笑っていた。
「かわいい……」
僕も思った。
本当に。
いつの間に、こんなに大きくなったんだろう。
金魚すくいでは。
結愛、秒で敗北。
「にげたぁ……」
でも。
優月が取った一匹を見せてくれた。
「いっしょにそだてよう」
結愛、即復活。
「きんぎょさん!」
屋台を回って。
花火を見て。
笑って。
その帰り道。
優月が、僕の隣を歩きながら言った。
「なんか今日、えほんみたいだったね」
僕は笑う。
「たしかに」
提灯の光。
浴衣の音。
笑い声。
全部、少し夢みたいだった。
その時。
前を歩いてた結愛が、突然振り返る。
「ぱぱー!」
「んー?」
「たこやきおとした!」
「えぇ!?」
見ると。
口の横にソースべったり。
優月、笑い崩れる。
唯ちゃん、ハンカチ持ちながら笑ってる。
結局。
最後はいつも通りだった。
でも。
そんな終わり方が、なんだかこの家族らしくて。
僕は、夜空を見上げながら思った。
きっと。
幸せって、“ちゃんと笑えること”なんだろうなって。




