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その十一

女性スタッフは、ニヤニヤしながら僕たちを見ていた。

「へぇ〜、唯がこんな顔するんだ」

「もう、うるさい!」

唯ちゃんは耳まで真っ赤になっている。

店ではいつも余裕そうなのに、今は完全に調子を崩していた。

スタッフの女性は僕をちらっと見て、意味深に笑う。

「大事にしてあげなよ?」

そう言い残して去っていった。

唯ちゃんはしばらく固まったあと、深いため息をつく。

「……終わった」

「何が?」

「絶対あとでいじられる」

僕は笑いながら缶コーヒーを渡す。

「人気者なんだね」

「違うし」

そう言いながらも、唯ちゃんは少し嬉しそうだった。

朝の風が静かに吹く。

唯ちゃんの髪が揺れて、シャンプーの甘い香りがふわっと届いた。

僕は何気なく聞く。

「今日、このあとどうするの?」

唯ちゃんは少し考える。

「寝るつもりだったけど……」

そして、いたずらっぽく笑った。

「まだ帰りたくないかも」

その言葉に、胸が熱くなる。

「じゃあ、どこか行く?」

「行きたい」

「どこ?」

唯ちゃんは少し悩んでから、小さく言った。

「水族館」

「水族館?」

「うん。クラゲ見るの好きなの」

意外だった。

でも、なんとなく似合うと思った。

静かに漂うクラゲは、どこか唯ちゃんに似ている。

「じゃあ行こう」

「ほんとに?」

「うん」

唯ちゃんは子どもみたいに笑った。

「やった」

その笑顔を見た瞬間、思う。

この人は本当は、

こんなふうに無邪気に笑える人だったんだって。

駅へ向かう道。

唯ちゃんは眠そうに目をこすりながら歩いている。

すると急に、僕の袖を軽く掴んだ。

「……ちょっとだけ、このままでいい?」

「うん」

「人多いから」

たぶん、それは言い訳だった。

でも僕は何も言わず、その手をそっと握り返す。

唯ちゃんは少し驚いたあと、照れくさそうに笑う。

朝の街の中。

僕たちは恋人みたいに並んで歩いた。

いや――

その時の僕にはもう、

恋人以上に大切な存在になっていた。

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