その十
朝方。
薄いカーテンの隙間から、白い光が部屋に差し込んでいた。
唯ちゃんは、僕の肩にもたれたまま眠っている。
小さな寝息。
無防備な横顔。
いつも強がっている唯ちゃんが、今だけは安心しきった顔をしていた。
僕はその寝顔を見ながら、そっと髪を撫でる。
すると唯ちゃんが、うっすら目を開けた。
「……おはよ」
掠れた声。
「おはよう」
唯ちゃんは少しぼーっとしたあと、急に恥ずかしくなったみたいに顔を隠す。
「やば……寝ちゃってた」
「気持ちよさそうだったよ」
「見ないでよ……」
そう言いながら笑う顔は、どこか年相応の女の子だった。
それから支度をして、二人で店の外へ出る。
朝の街は、夜とは別世界みたいに静かだった。
酔っぱらいも、ネオンも消えて、
空だけが淡い水色に染まっている。
唯ちゃんは少し寒そうに肩をすくめた。
「朝の空気って、なんか好き」
「わかる」
「夜が終わった感じするから」
僕たちは並んで歩く。
店の外を、こうして一緒に歩くなんて不思議だった。
仕事の関係でも、お客と店員でもない。
ただ、同じ朝を歩いている二人だった。
コンビニの前を通ると、唯ちゃんが急に立ち止まる。
「肉まん食べたい」
「朝から?」
「朝だから」
僕は笑って、二人分買った。
店の前のベンチに座って、湯気の立つ肉まんを頬張る。
唯ちゃんは幸せそうに目を細めた。
「おいしい……」
その顔を見ているだけで、胸が温かくなる。
唯ちゃんはふと空を見上げた。
「ねえ」
「ん?」
「こういうの、夢だったんだ」
「肉まん?」
「違うよ」
唯ちゃんは笑う。
「好きな人と、普通に朝を過ごすこと」
その言葉に、僕は何も言えなくなる。
唯ちゃんは少し照れたみたいに、肉まんをかじりながら続けた。
「なんかさ、店の中だと、どうしても“唯ちゃん”を演じちゃうから」
「……うん」
「でも今は、ちゃんと私でいられる気がする」
朝日が、唯ちゃんの横顔を優しく照らしていた。
その時。
店の前を通った女性スタッフが、こちらを見て驚いた顔をする。
「えっ、唯? 珍し」
唯ちゃんは少し焦ったように笑う。
「ち、違うの! この人は……」
言葉に詰まる唯ちゃん。
僕は思わず笑ってしまう。
すると唯ちゃんは顔を赤くして、僕の腕を軽く叩いた。
「笑わないでよ!」




