こういう帰り道を、“幸せだったな”って思えることなのかもしれない
キャンプの翌朝。
鳥の声で目が覚めた。
……はずだった。
実際には。
「ぱぱぁぁ!!」
結愛のジャンピング起床アタック。
みぞおち直撃。
「ぐふっ!?」
朝から致命傷。
優月、寝袋の中で大笑い。
唯ちゃんなんて、もう写真撮ってる。
「最高の朝だねぇ」
僕だけ瀕死だった。
テントの外へ出ると。
朝露がキラキラしていた。
少し冷たい空気。
遠くの山。
静かな景色。
優月は、紙コップのココアを飲みながらぼんやり空を見ていた。
「なんかさ」
「ん?」
「ここ、時間ゆっくりだね」
僕は頷く。
時計も。
テレビも。
いつもより気にならない。
ただ。
“今ここ”だけがある感じだった。
朝ごはんはホットサンド。
結愛、なぜか自分で作りたがる。
結果――
具、全部はみ出す。
「おおぉ……」
でも本人、大満足。
「できた!」
炭みたいな部分もあったけど。
みんなで笑いながら食べた。
朝食のあと。
近くの小川へ遊びに行く。
水が透き通っていて、すごく綺麗だった。
結愛は、速攻で靴びしょ濡れ。
「つめたぁい!」
でも笑ってる。
優月は、水辺の石を拾っていた。
「みて」
手の中には、丸くて白い小石。
「なんか、かわいい」
唯ちゃんが微笑む。
「優月、そういうの見つけるの上手だね」
優月は少し照れながら、その石をポケットへ入れた。
その時。
僕、川の石で滑る。
「あっ」
ズシャァッ!!
尻もち。
水しぶき。
静止。
そして――
家族全員、大爆笑。
結愛なんて立てないくらい笑ってる。
「ぱぱ、またぁぁ!」
優月、涙出てる。
唯ちゃん、スマホ構えてる。
「撮れた」
終わった。
でも。
僕もつられて笑ってしまった。
なんだか。
こうして笑われるのも、悪くない。
帰る前。
みんなで、川辺へ並んで座った。
風が気持ちいい。
結愛は、僕の肩にもたれて眠そう。
優月は、空を見ながらぽつりと言った。
「ずっと今日ならいいのに」
その言葉に。
僕は静かに笑った。
「そう思える日があるって、幸せだね」
優月は、小さく頷いた。
きっと。
楽しい時間ほど、終わるのが少し寂しい。
でも。
終わるからこそ、宝物になる。
帰り道。
車の中。
結愛は爆睡。
優月も、うとうとしていた。
唯ちゃんが、小さな声で言う。
「また思い出増えたね」
僕は、バックミラー越しに子どもたちを見る。
寝顔。
少し日焼けしたほっぺ。
疲れてるのに、幸せそうな顔。
僕は静かに頷いた。
人生って。
大きな成功とかじゃなくて。
こういう帰り道を、“幸せだったな”って思えることなのかもしれない。




