こういう普通の日を、どれだけ笑えるかなんだろうなって。
四月。
新しい春。
優月は五年生になった。
結愛は年長さん。
朝。
新しい名札をつけながら、優月は少し照れくさそうに笑う。
「なんか、ほんとにおねえさんって感じ」
僕は頷く。
「もう立派なお姉さんだよ」
すると横から。
結愛がランドセルを背負って登場。
「ゆあも!」
いや、まだ早い。
しかもランドセル大きすぎて後ろに倒れた。
「うわぁ!」
僕と優月、慌てて支える。
唯ちゃん、朝から笑い崩れてる。
そんな春の日。
優月の学校で、“将来の夢を絵にする”という課題が出た。
優月は、机に向かってずっと悩んでいた。
クレヨンを持っては止まる。
描いては消す。
僕が隣に座る。
「むずかしい?」
優月は小さく頷く。
「なんか……ほんとにできるかなって」
「絵本作家?」
「うん」
少し不安そうだった。
僕は、優月のスケッチブックを見る。
そこには。
笑ってる家族の絵。
優しい色。
見てるだけで温かくなる絵。
僕は笑った。
「優月の絵ってさ」
「うん」
「見ると、安心する」
優月は、きょとんとする。
僕は続ける。
「それって、すごい才能だと思う」
しばらく静かだった。
それから優月は、少し照れながら笑う。
「……そっか」
その夜。
優月が描き上げた絵を見せてくれた。
そこには。
大きな本を開いて、子どもたちに読み聞かせしている未来の優月。
周りには、笑顔。
そして端っこには――
転んでる僕。
「なんで未来でも!?」
優月、大爆笑。
「必要かなって!」
必要なの!?
結愛まで指差して笑う。
「ころぶぱぱ!」
未来永劫キャラ固定だった。
数日後。
休日に家族みんなでピクニックへ行くことになった。
桜は散り始めていたけど。
春の風が気持ちいい。
結愛は、シャボン玉に大はしゃぎ。
「まてぇぇ!」
追いかけて転ぶ。
通常運転。
優月は、レジャーシートの上でスケッチブックを開いていた。
風景を描いている。
唯ちゃんが、その横をそっと覗く。
「なに描いてるの?」
優月は少し笑った。
「いま」
その言葉に。
僕は、なんだか胸が温かくなった。
“今”。
この時間を。
優月は、ちゃんと大事にしてる。
しばらくして。
優月が描き終えた絵を見せてくれた。
そこには。
桜の下で笑う家族。
シャボン玉を追いかける結愛。
お弁当を並べる唯ちゃん。
そして。
シートにつまずきそうな僕。
「もうわざとだろ!」
優月、笑いすぎて息できてない。
でも。
その絵の中の僕たちは。
みんな笑っていた。
春の風の中で。
なんでもない時間の中で。
幸せそうに。
僕は、その絵を見ながら思う。
きっと。
人生って、“特別な日”だけじゃない。
こういう普通の日を、どれだけ笑えるかなんだろうなって。




