「楽しかったことって、ちゃんと残る」
三月。
少しずつ暖かくなってきた頃。
優月の机の上には、色とりどりの折り紙や画用紙が広がっていた。
「いそがしい……!」
本人は真剣。
理由は――
“六年生を送る会”。
優月たちは、卒業するお兄さんお姉さんへプレゼントを作るらしい。
結愛も横で参加していた。
「ゆあもつくる!」
もちろん。
途中でノリを手につけすぎて大騒ぎ。
「とれないぃぃ!」
僕、救出係。
唯ちゃん、笑いすぎて作業進んでない。
そんな中。
優月は、一生懸命メッセージを書いていた。
『ありがとう』
『がんばってください』
その小さな文字を見ながら。
僕は思う。
優月は、少しずつ“誰かを応援できる人”になってるんだなって。
数日後。
送る会当日。
帰ってきた優月は、なんだか静かだった。
「どうだった?」
僕が聞くと。
優月はランドセルを置いて、ぽつりと言う。
「なんか……ないちゃった」
僕と唯ちゃんは、優しく笑う。
「そっか」
優月は、少し照れながら続けた。
「六年生がね、“たのしかった”って言ってて」
「うん」
「なんか、さみしくなった」
その気持ち、分かる気がした。
楽しかった時間ほど。
終わる時、少し切ない。
優月は、ソファへ座りながら呟く。
「ずっとこのままがいいのになぁ」
その言葉に。
僕は少しだけ胸がきゅっとなった。
きっと。
“変わっていくこと”を、優月は少しずつ感じ始めている。
僕は、優月の隣へ座った。
「変わるのって、さみしいよね」
優月は頷く。
僕は続けた。
「でもね」
「うん」
「思い出は、なくならないよ」
優月は静かに聞いている。
「楽しかったことって、ちゃんと残る」
「……ほんと?」
「うん」
僕は笑う。
「パパなんて、今でも子どもの頃のこと思い出して笑うよ」
優月は少し安心したように笑った。
その時。
結愛が突然登場。
頭に紙袋かぶってる。
「へんしん!」
僕と優月、吹き出す。
唯ちゃんなんて座り込んで笑ってる。
結愛は、そのまま壁にぶつかった。
「いたっ」
でも笑ってる。
家族全員、さらに笑う。
優月は、お腹を抱えて笑いながら言った。
「やっぱ、うちってへいわだね」
僕は頷く。
本当に。
泣いたり。
悩んだり。
ちょっと寂しくなったり。
でも最後は、誰かが笑わせてくれる。
夜。
寝る前。
優月は、窓の外を見ながらぽつりと言った。
「わたし、大きくなっても、いっぱい思い出おぼえてたい」
僕は、優月の頭を優しく撫でた。
「きっと忘れないよ」
だって。
思い出って、“特別な日”だけじゃない。
今日みたいに。
家で笑ったこと。
誰かに優しくされたこと。
そんな小さな瞬間が、ずっと心に残るんだと思う。
隣では。
結愛が、ペンギンぬいぐるみへ毛布をかけていた。
「ねんねだよー」
優しい。
でも数秒後。
自分が先に寝てた。
僕と唯ちゃんは、その寝顔を見ながら笑った。
きっと。
こういう夜も。
未来で思い出になるんだろうなって思った。




