「みんなでいると、どこでもたのしい」
二月。
空気はまだ冷たいけど。
少しずつ、春の匂いが混ざり始めていた。
ある日の夜。
優月が、宿題をしながら突然聞いてきた。
「ねえ、ぱぱ」
「ん?」
「“家族”って、いつから家族になるのかな」
僕は少し手を止めた。
難しい質問だった。
結愛は隣で、プリンのフタを頭に乗せてる。
自由。
僕は笑いながら答える。
「うーん……」
「うん」
「“一緒にいたい”って思った時からかも」
優月は、静かに聞いている。
僕は続けた。
「血がつながってるとかだけじゃなくて」
「うん」
「笑ったり、ケンカしたり、“おかえり”って言える場所になったら、家族なんじゃないかな」
優月は少し考えてから、にこっと笑った。
「じゃあ、うち、さいきょうだね」
僕と唯ちゃん、吹き出す。
たしかに。
騒がしさでは最強かもしれない。
その週末。
家族みんなで、水族館へ行くことになった。
結愛、前日から大興奮。
「ぺんぎんさん!」
「いるよー」
「くらげさん!」
「いるよー」
「ぷりん!」
「いないよ!?」
朝から大笑い。
水族館へ入ると。
青い光が、静かに揺れていた。
大きな水槽。
泳ぐ魚たち。
結愛は、目をまん丸にして見上げている。
「すごぉ……」
優月も、静かに魚を見つめていた。
少し大人っぽい顔。
クラゲのコーナーでは。
ふわふわ漂う光を見ながら、優月がぽつりと言う。
「なんか、ゆめみたい」
唯ちゃんが微笑む。
「ほんとだね」
その時。
結愛、突然ダッシュ。
「ぺんぎーん!!」
ペンギンコーナー発見。
僕たち、追いかける。
結愛はガラスにぺたっと張り付いていた。
しかも。
ペンギンと同じ歩き方してる。
優月、爆笑。
「ゆあ、似てる!」
結愛、得意げ。
「なかま!」
夕方。
お土産コーナー。
優月は、小さなクラゲのキーホルダーを選んでいた。
結愛は――
巨大ペンギンぬいぐるみ。
「おおきい!」
いや大きすぎる。
僕が抱える係になった。
帰り道。
電車の中。
結愛はペンギン抱いて爆睡。
優月は、窓の外を見ながら小さく呟く。
「たのしかったね」
「うん」
「なんかさ」
優月は少し笑った。
「みんなでいると、どこでもたのしい」
僕は、その言葉を聞きながら思った。
きっと。
場所じゃないんだ。
高いホテルとか。
すごい旅行とかじゃなくて。
“誰と笑ったか”が、思い出になる。
家へ帰ると。
唯ちゃんが、今日撮った写真を見返していた。
ペンギン真似する結愛。
クラゲを見つめる優月。
僕の腕で寝る結愛。
笑ってる僕たち。
唯ちゃんは、その一枚一枚を見ながら優しく笑う。
「いい日だったね」
僕は頷いた。
本当に。
何気ない一日なのに。
ちゃんと“宝物みたいな日”だった。




