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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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080・教皇の語る真実

(青き魔人……)


 その単語にふと思い浮かんだのは、あの青い肌の青年だ。


 見れば、他のみんなも同じ想像をした表情をしている。


 教皇様は、


「ええ、先日、皆さんを……いえ、『神樹の若木』様を襲った存在のことです」


 と、頷いた。


(やっぱり)


 レオナックさんが問う。


「あれは、何者じゃ?」


「…………」


「護国の神樹を枯らしたのも、アレであろう。その正体を、教会は知っておったのか?」


「ええ」


 認める、王国教会の最高責任者。


 僕らは息を飲み、王国の防衛を担うダレイオス将軍は表情を険しくする。


 教皇のマレナさんは、少し申し訳なさそうな顔をする。


 代わりに、聖女のシャルさんが口を開く。


「教会の機密や」


「だが」


「言っとくが、その正体は教会でもほんの一握りの上層部しか知らん。その意味、わかるか?」


「…………」


「教会の役目は、人々の安寧を守ること」


「…………」


「せやけど、もし『青き魔人』の存在が世に知られば、その安寧は消える。それぐらい、やばい情報なんや。王国に知らせて、もしどこかから漏洩したらどうなる? 王国の人間全員、絶対に秘密を守れる連中と思うんか?」


「ぬぅ……」


 将軍さん、言い返せず。


 確かに、秘密を守るのは大変だ。


 つい口を滑らせたり、スパイが情報を抜いたり、漏洩の危機は色々あるだろう。


 最大の防衛策は、


(できる限り、秘密を少数のみで管理する)


 つまり、教会がしたように。


 と、レオナックさんが言う。



「――やはり、魔族か?」



(!)


 魔族。


 前に話していた人類の天敵種。


 魔族に虐げられる人類を憐れみ、神々は『神樹』を大地に植え、それにより人類は繫栄し、逆に魔族は絶滅したという。


(その、生き残り?)


 彼女は前に、そんな予想を口にしていた。


 僕らは、答えを知る教会の人間――教皇様と聖女を見る。


 聖女は、目を伏せる。


「ちゃう」


 と、一言。


 ……違うの?


 でも、教皇様は、


「けれど、半分は正解です」


 と、続けた。


(え? どういうこと?)


 2人からの思わぬ答えに、僕らは全員、困惑してしまう。


 教皇様は言う。


「魔族は、絶滅しました」


「…………」


「1500年前に栄えた古代オーパィル魔法王朝の時代には、すでに魔族はこの世になく、その事実は多くの文献でも確認されています」


「…………」


 でも、


(それなら、半分正解の意味は?)


 と、僕は彼女を見つめる。


 教会を統べる妙齢の美女は、静かに息を吐く。


「人は罪深い……」


「…………」


「神々より神樹の加護を得た人々は、逆に自分たちを虐げた魔族を虐殺し、種としての滅びを与えました。そして、それ以上の罪を犯したのです」


「それ以上の……罪?」


「ええ」


 目を丸くする僕に、彼女は頷く。


 と、聖女が口を開く。


「魔族は、優れた生き物や」


「え?」


「神樹で弱体化されなければ、人類より遥かに優れた知能と肉体、魔力を宿した生命体や。その事実は変えられん」


「あ、うん」


「やからの、1500年前、栄華を極めた古代オーパィル魔法王朝の増長した連中は、その優れた生命体である魔族の能力さえ手に入れようと研究を始めての。……あろうことか、滅んだはずの魔族の蘇生を成功させよったんや」


「……は?」


 蘇生?


(人類の天敵の魔族を……っ!?)


 は、はぁああ~っ!?


 僕は愕然。


 真実を知る教皇様以外の皆も、その目を見開いていた。


 教皇様は、沈痛な声で言う。


「無論、それらの魔族の肉体には『隷属』の処置が施されていたそうです」


「隷属……」


「はい。命令に逆らえば、死ぬように」


「…………」


「また同様に、神樹の影響で弱体化しないような、特殊な処置も施されたとか。それらの実験過程で、多くの蘇った魔族は苦痛の中に死に、大量の失敗作が処分されたそうです」


「っ……」


 何だそれ?


 確かに、相手は人類の天敵。


(でも、だからって、その生命や魂を弄ぶような真似をするなんて……あり得ないっ!)


 僕は憤る。


 同い年のパルシュナは青褪め、年上の美女2人と王国の将軍は感情を殺したような表情をしていた。


 教皇様は瞳を伏せる。


 胸の前で、慰霊のような、神に祈るような手の所作をする。


 聖女のシャルさんは、淡々と、


「人体実験を受けた多くの魔族が生き返らせられたことを呪い、早く死なせてくれと泣き叫んだいう文献が残っとるよ」


「…………」


「ほんま、人っちゅうんは……罪深いの」


 と、息を吐いた。


 全員、沈黙する。


 その静寂の中、幼い容姿の聖女が顔を上げた。


「けどな」


「?」


「いたんや、成功例(・・・)が」


「え……?」


 僕は、目を瞬く。


 見つめる僕らを見返し、シャルさんは言う。



「――長年の実験と研究で、神樹の力でも弱体化せず、魔族本来の優れた能力を発揮できる存在が実際に生まれてしもたんや。……んで、その個体名が『青き魔人』と記録されとるんよ」



 ◇◇◇◇◇◇◇



(!)


 成功例が『青き魔人』?


 人間でも魔族でもない、新しい『魔人』という存在ってこと……?


 幼い聖女は、言葉を続ける。


「成功例となった『青き魔人』は12体、存在した。そして、古代オーパィル魔法王朝の連中は、神々の理を越える力を手にしたと歓喜したそうや」


「…………」


「ま、泡沫(うたかた)の夢やけどな」


「泡沫……?」


「阿呆な話やで。その12体の『青き魔人』の反乱によって、古代オーパィル魔法王朝はあっさりと崩壊、滅亡したんや」


「へ……?」


 思わず、間抜けな声が漏れた。


(え? 滅亡?)


 1500年前の人類最盛期の魔法王朝が……たった12人の『青き魔人』によって滅亡したの?


 僕らは唖然。


 パルシュナも驚いたように言う。


「で、でも、『隷属』の魔法は?」


「無効化された」


「無効化……」


「当然や。相手は魔族やぞ? 本来の能力を発揮すれば、人類の魔法は解析できるし、自分の肉体の改造も行える。それぐらい、知性と魔力制御の根本的能力が桁違いな生き物なんや」


「…………」


「驕った人間は、ほんま、碌なことをせんわ」


 と、シャルさんは吐き捨てる。


 せ、聖女さん……?


(なんか、古代の人だけじゃなく、現代の枢機卿みたいな人への憤りも混じってるような……そんな気もする)


 と、教皇様が宥めるように、その小さな背を叩く。


 気づき、シャルさんも息を吐く。


 そして、教皇様は僕らを見て、言う。


「もうおわかりでしょう? 魔族に対し非道を行った人類、そして、それを庇護した神々に対し、その12体の『青き魔人』がどのような感情を抱くのか……その負の感情の大きさが……」


「…………」


「魔人たちは、我らを憎んでいます」


「…………」


「そして、魔を排し、人々を守る神樹という存在を……」


「…………」


「実際に1500年前、誕生した12体の『青き魔人』は人類を滅ぼすため、各地にある『神樹』を破壊し始めました。その結果、各地の魔物の活性化が起き、増長した愚かな古代の魔法王朝は滅び、人類の文明は衰退していくことになります」


「…………」


「ですが、今尚、人の世は続いている。――それがなぜか、わかりますか?」


(え?)


 突然の問いに、僕は青い目を瞬く。


 でも、確かに。


 人類最盛期の古代文明を滅ぼせる12人の魔人が暗躍して、だけど、現在も人類は滅亡せず、いまだ繁栄と生存ができている。


(何でだろう……?)


 全員、答えに迷う。


 と、その時、


 ジッ


 教会の2人が、真っ直ぐ僕を見ていた。



 ――頭から『葉っぱ』を生やした僕のことを。



 そして、教皇様の口が開く。


「1500年前、古代魔法王朝の文明が崩壊し、12体の『青き魔人』の破壊と殺戮の行動によって、人類は確かに滅亡の危機にありました」


「…………」


「ですが、その時、現れたのです」


「現れた……?」


 何が?


 教皇様は、1拍、間を置き、そして、静かに言う。



「――『青き魔人』の手により倒された『神樹』の幹から、頭頂に『光の葉』を生やした少年が」



 え……ええぇえっ?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕は、驚きに固まってしまう。


 周りの皆は一斉に、僕と僕の頭に生えた『光る葉っぱ』を見つめてくる。


 教会の古き記録を知る教皇様は、


「1500年前、人の姿を模した神樹――すなわち『神樹の少年』がこの世に顕現しました」


「…………」


「その大いなる神樹の力を宿した少年は、人々を守らんとしたそうです」


「…………」


「その日より『神樹の少年』と『青き魔人』たちによる長き闘争の歴史が始まりました。そして愚かな人類に変わり、神樹の少年は12体の青き魔人を1体、また1体と滅していってくださったと記録されています」


 おお……。


(1500年前の葉っぱ少年は、強かったんだね?)


 同じ葉っぱが生えた者同士、僕は尊敬してしまう。


 みんなも同じ表情で、もう1人の教会関係者――シャルさんも情報を追加する。


「ウチら『奉樹の神聖教会』の前身の組織もな、実は、その『神樹の少年』と共に『青き魔人』と戦う人間の義勇兵の集まりやったんや」


(へ~?)


 そうだったんだね。


 その1500年前の義勇兵だった集団が、長い年月で奉樹の神聖教会に形を変えたのか。


 ……凄い変化。


 同時に思う。


 教皇様や聖女のシャルさんは、僕を尊重し、大事にしてくれる。


 でも、同じ教会に所属する枢機卿と大司教は、同じ『神樹の少年』である僕を暗殺しようと企み、ツンデレ少女曰くの『生臭坊主』も大勢いるとか。


(……月日の流れって、怖いね)


 内心、僕、遠い目だよ。


 と、レオナックさんが気を取り直したように問う。


「その闘争の結末はどうなったのじゃ?」


「…………」


「1500年後の今も、あの『青き魔人』は存在した。では、その当時の『神樹の少年』はどうなったのじゃ?」


(あ……)


 僕らはハッとなる。


 そうだよ。


 フィーンレイドの『護国の神樹』を枯死させ、僕を狙ったのが1500年前の『青き魔人』の生き残りなら、その『神樹の少年』は……?


 全員の視線が、教皇様に集まる。


 彼女は、薄い緑色の瞳を伏せる。


 そして、



「――天に召されました」



(!)


 僕は固まる。


 同い年の少女も目を見開き、年長の人たちは表情を厳しくする。


「確かに『神樹の少年』は大きな力を持っていました。ですが、12体の『青き魔人』との長き闘争の中で、彼の肉体は傷つき、弱まり、そして、3体目の『青き魔人』を倒したあと、4体目との戦いの中で力尽きたのです」


「……っ」


「今から、1300年ほど前の話です」


 1300年前……。


(つまり、彼は200年間、人類を守り、『青き魔人』たちと戦い続けたのか)


 その偉大さを思い、心と身体が震える。


 赤毛の美女も、唇を引き結ぶ。


 少し間を置き、


「では、この世には9体の『青き魔人』が残されたのじゃな?」


「はい」


「ならば、なぜ今、この人の世は滅んでおらぬ?」


 と、際どい問いを口にする。


 その答えは、



「――『青き魔人』の怨嗟よりも、『神樹』の慈悲が上回ったからです」



 と、教皇様。


(神樹の……慈悲?)


 僕らは困惑。


 すると、聖女のシャルさんが口を開く。


「当然、『神樹の少年』がお隠れになられたあと、『青き魔人』らは人類を滅ぼそうとしたんや」


「…………」


「けどな、奴らが人類が集まる各地の『神樹』を倒すたび、その地から『光の葉』を生やした少年少女が現れ、人々を守るため、『青き魔人』と戦ってくれたんや」


「!!!」


 僕は、青い目を瞠る。


(まさか……)


 シャルさんは僕を見て、


「ここに若木様がおるのと同(おんな)じや」


「…………」


「神樹の少年……若木様は1人やなかった。1300年前からも、神樹は朽ちるたび、新たな『若木』様を生み出して、死して尚、罪深い人類を守り続けてくれたんや」


 教会所属の2人以外、全員、言葉がない。


(僕1人じゃなかった……)


 1500年も前から何人もの『葉っぱの生えた子供』が生まれて、人々のために戦ったのだと言う。


 手が震え、


 ギュッ


 思わず、その小さな両手を強く握り合わせる。


 教皇様は静かに教えてくれる。


「教会の記録によれば、この世に生まれた『若木』様はシーナ様を除き、9人となります」


「…………」


「その9人中、現在も存命なのは御1方のみ」


「え……1人?」


「はい。他の8人は、魔人との長き闘争の中で……」


「…………」


「そして、現在、存命中の『若木』様は、今から9年前、フィーンレイドの隣国アーウェンの『護国の神樹』が奴らに倒壊させられた折に顕現なされた少女です」


「9年前……?」


(それ、結構、最近の話じゃないかっ)


 僕は驚き、


 ガタッ


 そんな僕以上に、隣の姉妹が驚き、青褪めた表情だった。


(え……何?)


 僕は困惑し、


「では、アーウェン王国が……私たちの生国が滅んだのは……」


 クレティーナさんが震える声を漏らす。


(あ……)


 その意味を悟る。


 彼女たち姉妹は、隣国の出身だ。


 その生まれた国が大型魔獣に滅ぼされ、2人はフィーンレイド王国への難民となり、貧民街で辛苦の日々を強いられた。


 その大型魔獣が現れたのは、『護国の神樹』が倒壊し、加護が消えたから。


 そして、その倒壊の犯人は……。


 つまり、姉妹の人生を狂わせたのは……。


(ああ……)


 胸が、痛いよ。


 僕と同い年の少女は、強く唇を噛む。


 表情は変わらぬまま、けれど、その大きな瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれだした。


 赤毛の美女はそれに気づき、


 ギュッ


 少女の顔を隠すように抱き締める。


 彼女も抵抗しない。


 指1本動かさず、ただジッと何かに耐えている。


 妹と同じように姉の方も目の前の空間を一心に見つめ、微動だにしなくなっていた。


(……っ)


 ギュッ


 堪らず、彼女の手を握る。


 途端、彼女の指も万力のような強さで僕の手を掴む。


 メキッ


(っ)


 指が折れそう。


 でも、僕は何も言わず、彼女と手を繋ぎ続ける。


 姉妹の様子に何かを察したのだろう、教会の2人と将軍さんは沈痛な面持ちだった。


 しばらく、重い沈黙が場に落ちる。


 やがて、レオナックさんが少女を抱いたまま、


「つまり、アーウェン王国の滅亡も、奴らの仕業か」


「せやな」


 頷く聖女さん。


「犯人の青き魔人は、生まれた若木様が倒してくれた。けど、酷い怪我されてな。現在は聖教国ラーマンで保護され、長く療養されとるんや」


「ほう?」


(…………)


 僕以外の若木。


 確か、少女だと言うけど、


(もしかして、僕と同じ転生者なのかな?)


 それとも……?


 色々考え、けれど当然、答えは出ない。


 教皇様は言う。


「歴史上、多くの神樹が消え、多くの国が滅びました。その大半に『青き魔人』の悪意ある介入があったと我ら奉樹の神聖教会には記録されています」


「…………」


「そして今、人類が存続しているのは歴代の『若木』様のおかげだと」


「…………」


 皆の視線が、僕に集まる。


 今、1番新しい『神樹の若木』である僕に。


(…………)


 僕は、青い目を伏せる。


 息を吐き、


「その『青き魔人』は今、何体残っているの?」


 と、顔を上げた。


 教皇様は、静かに視線を合わせる。


「3体です」


「…………」


「多くの人々と若木様の犠牲の下、1500年の時をかけ、ようやく3体まで減らすことができました」


「うん」


 3体……か。


 あの恐ろしい力の持ち主が、あと3体もいる。


(でも……)


 ふと思う。


 初代の『若木』は、12体の魔人を相手に1人で立ち向かう状況だった。


 …………。


 ああ……それは、どれだけ怖かったろう?


 痛く、苦しかったろう?


 でも、最後まで逃げず、彼は戦い、その命を落とした。


 歴代の8人の若木が皆、同じようにそれを行い、9人目も生きているけど、戦いの中で深手を負い、命を落としかけている。


 正直、怖いけど、



(――逃げたくないな、僕も)



 と、感じる。


 僕の手を、彼女が握っている。


 強く、強く。


 この指に感じる痛みは、きっとクレティーナさんの心の痛みと同じで、だからこそ、余計に決意と覚悟が定まっていく。


(……うん)


 ああ、そうだ。



 ――この日、僕は、自分がこの世界に生まれた意味をようやく理解したんだ。

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― 新着の感想 ―
変に欲張ったせいで魔人を超える魔人を生み出しちゃったって訳か・・・神樹が枯れる度にシーナみたいな存在が生まれ、シーナも生まれたのはそういう事か・・・そしてクレティーナさん達にとっても因縁ある話であると…
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