008・仲間との合流
森を歩き、約1時間ほど経過した。
その時、
ザワザワ
(ん……?)
周囲の木々や草花が、何かざわめいているように感じた。
隣の美女に変化はない。
多分、僕だけが感じている感覚。
何だ、これ?
木々や草花が、声なき声で言う。
――遠くから、何かが凄い速さでこちらに近づいているよ?
と。
(へ?)
僕は足を止める。
植物たちが忠告してくれた方角を見る。
足を止めた僕に、クレティーナさんが驚く。
「シーナ?」
「…………」
「どうしました?」
「――何か来る」
「え?」
「向こうから」
僕は、そちらを小さな人差し指で示す。
彼女は、目を瞠る。
数秒し、信じてくれたのか、美しい女冒険者もそちらを見ると、警戒するように槍を構えた。
草木のざわめきは続く。
(うん……)
僕には、葉っぱが生えている。
多分、周囲の植物が僕を同族だと思って、警告してくれたんだろう。
植物って、優しいね。
そして、
――来るよ。
最終警告。
同時に、森の木々の奥に、何かが見えた。
馬……?
いや、
(竜だ!)
駝鳥みたいな2足歩行の竜だ。
数は3頭。
しかも、全頭に鞍と手綱があり、内、2頭の上には人影がある。
(だ、誰だ?)
僕は緊張し、
「――レオナック、パルシュナ」
カシャッ
緑髪の女冒険者は呟き、構えていた槍を下ろした。
(え?)
彼女を見る。
その綺麗な横顔には、安堵が滲んでいる。
僕の視線に気づき、
「大丈夫。あれは、私の仲間です」
と、笑った。
おお~?
◇◇◇◇◇◇◇
ドドッ ドッ
太い足爪が地面を抉り、3頭の2足竜が停まる。
同時に、
「姉上!」
「パル」
1人の少女が竜の背から跳躍し、クレティーナさんへと抱き着いた。
(わっ?)
僕、びっくり。
少女は、僕と同じぐらいの年齢。
癖のある紫色の髪に、軽量な革鎧、腰の左右に2本の短剣を差している。
顔は、かなり美形。
目は、クレティーナさんと同じ紫色で、
(あ……妹さん?)
と、僕は気づく。
今、『姉上』と呼んでいたし、間違いないだろう。
その妹さんは、
「姉上、無事でよかった。心配したのよ~」
と、泣き笑いだ。
クレティーナさんも優しく微笑み、妹の髪を撫でる。
と、竜の背から、もう1人が降りた。
トッ
小柄な美女だ。
年齢は、24~25歳かな?
豊かな赤毛の髪に、金色の瞳をしている。
胴体を覆う黒鎧に、柄の長い巨大な戦斧を背負っていた。
(……何だろう?)
背は小さい。
でも、目力が強く、背丈以上に大きく感じる。
彼女は、
「無事で何よりじゃ、ティナ。そちらは問題なかったか?」
と、通りの良い声で聞く。
緑髪の美女は、
「まぁ、何とか」
「ふむ?」
「それより、レオ、パル。2人はどうしてここに? 合流ポイントは、まだ先では?」
「うむ、ちと状況が変わっての」
「状況?」
「消息不明となっていた先遣の調査騎士隊を発見した。全員、死体でな」
「まぁ……」
少し驚く、クレティーナさん。
えっと、
(先遣の調査騎士隊? 死体で発見?)
なんか、物騒な話。
その時、
「……何、コイツ?」
少女が、ようやく僕に気づく。
(あ、ども)
赤毛の美女も僕を見て、それから、クレティーナさんを見る。
「ティナ、この子供は?」
「シーナです」
「シーナ?」
「ええ、森で発見し、保護しました。そして、私の命の恩人です」
「恩人じゃと?」
仲間2人は顔を見合わせる。
クレティーナさんは、僕との出会いを彼女たちに説明する。
2人は驚く。
「ほう、そんなことが」
「ちょ……紅爪の大魔熊なんて、北の山岳地にいる魔物でしょ!? 何で、そんな魔物がこの森まで来てんのよ!」
「本当に」
妹に頷き、
「シーナがいなければ、私も死んでいました」
と、僕を見る。
白い手が、僕の髪を撫でる。
(えへへ)
美人の飼い主に撫でられる子犬の気分。
僕の様子に、クレティーナさんも優しく微笑んでくれる。
それから、
「シーナ」
「ん?」
「こちらが、私の妹のパルシュナ。もう1人がリーダーのレオナック・オルンです」
「あ、うん」
紹介され、僕は頷く。
2人に、
「こんにちは」
と、挨拶。
レオナックさんは「ふむ」と頷く。
パルシュナさんは、
「ふ~ん、記憶喪失ねぇ~?」
と、胡散臭そうに僕を見る。
2人とも半信半疑……というか、妹さんの方は7割、疑っている感じ。
(あはは……)
まぁね?
僕も逆の立場なら、疑うかも。
と、姉が言う。
「パル。気持ちはわかりますが、シーナは私の恩人です。そのことを忘れないように」
「……へ~い」
パルシュナさんは、ぞんざいな返事。
僕を見て、
「ふん、礼は言うわ」
「あ、うん」
「でも、間抜け面ね。背もチビだし」
「……は?」
「姉上は人がいいけど、私の目は騙せないからね、おチビちゃん」
「…………」
ピキッ
な、なかなか言うじゃん?
パルシュナさん――いや、同世代だし、パルシュナと呼び捨てにしよう――を、僕は睨む。
彼女は余裕の顔で、
「ふふん、何よ?」
「…………」
「ん~?」
「……まな板」
ボソッ
僕は呟く。
少女は呆気に取られ、すぐに真っ赤になった。
ジャキッ
「こ、殺す!」
腰の2本の短剣を抜いた。
(おお?)
や、やるか!?
僕も、葉っぱ、出しちゃうぞ?
バチバチ
僕らは睨み合い、
「こら」
ベシッ
姉のチョップが、妹の脳天に落ちた。
「ぐへっ!?」
(わっ?)
「失礼はやめなさい。――シーナも、妹がごめんなさいね」
「う、ううん」
僕は、首を振る。
パルシュナは頭を押さえ、涙目で「うぐぐ……」と呻いていた。
お姉さん、強い。
(ぼ、僕も怒られないよう気をつけよう……)
と、心に刻む。
その間、赤毛の美女――レオナックさんは黙ったまま、僕らの様子を観察するように眺めていた。
と、クレティーナさんが言う。
「レオ」
「む?」
「シーナに関しては、私にお任せを。それよりも、先遣隊が全滅していたのですか?」
「うむ、そうじゃ」
赤毛の美女は頷く。
途端、空気が重くなる。
全員、神妙な雰囲気で。
僕は「あの……」と聞く。
「3人以外にも、調査の人がいたの?」
「ああ、はい。『護国の神樹』があるこの森は、本来、王国の管理下にあります。なので、まず王国騎士の調査隊が派遣されました」
「王国騎士……」
「ええ。ですが、半月前に連絡が途絶え、消息不明に」
「…………」
「その先遣隊の捜索も含めて、私たちに調査依頼が来ました」
「そうなんだ」
で、その先遣隊が全滅していた、と。
レオナックさんも言う。
「もう少し森の北側で、その死体を発見しての」
「…………」
「現状の森は、さすがにティナを単独行動させては危険な状況と判断し、合流を急いで、今、こうして無事に再会できたという訳じゃ」
「なるほど」
僕も頷く。
(この森、そんな危険だったのか)
何も知らないで、僕、今まで無事で本当よかったよ。
クレティーナさんは、
「しかし、騎士隊が全滅とは……」
「うむ。現場の痕跡からは、恐らく、1体の魔物にやられたようじゃ。大型の竜種かも知れぬ」
「竜種」
「できれば、会いたくないの」
「ですね」
大人の美女たちは頷き合う。
その様子を見て、ふと思う。
「あの」
「む?」
「何ですか、シーナ?」
「先遣の騎士隊が消息不明になったら、普通、別の騎士隊が捜索と調査に来ると思うんだけど……何で、冒険者のクレティーナさんたちに依頼が来たの?」
と、疑問を口にする。
だってさ?
王国だって、面子とかあるだろうし。
(王国所属の騎士が駄目で、じゃあ、民間の冒険者に依頼しようって……少し不思議じゃない?)
と、思ったんだけど。
2人は笑う。
「ふむ、そうじゃな」
「私たちは、少し特殊でして」
「特殊?」
僕は、キョトンとする。
そんな僕に、
「ふふん、驚け! なんと、ここにいるレオは、あの『金印の冒険者レオナック・オルン』その人なのよ!」
と、鼻息荒く、少女が言った。
ドヤァ
そんな表情。
でも、僕は、
「金印?」
「…………」
「ええと、それって何?」
と、首をかしげる。
少女は茫然とした。
プルプル
と、震え出し、
「こ、この、物知らずがぁあああ~っ!」
(おわぁあ!?)
突然、吠えた。
何だ、怖い、情緒不安定ですか?
驚く僕の前で、パルシュナの姉が妹を背後から取り押さえる。
「どうどう」
「ふしゅるる~!」
「…………」
獣か?
僕は半分怯え、半分呆れる。
レオナックさんは苦笑し、
「冒険者にはランクがあっての」
「あ、うん」
「下から、赤印、青印、白印、銀印、金印となる。我は、その1番上となる金印ランクなのじゃ」
「へ~、凄いんだ?」
「まぁの」
彼女は頷く。
と、姉に押さえられながら、
「お馬鹿!」
「?」
「金印は、フィーンレイド王国に3人しかいないの! レオは、十数万の王国冒険者の頂点の1人なのよ!」
「へぇ……!」
それは凄い。
僕は、赤毛の美女を改めて見る。
(なるほど)
背丈は小柄。
だけど、妙に存在感があり、大きく見えてしまう。
つまり、彼女は、
――王国最強の冒険者。
なのだ。
僕は言う。
「なんか格好いいね」
「そうか」
彼女は苦笑し、
「ふむ、こうした反応をされるのも珍しいの。何だか新鮮じゃ」
と、楽しげだ。
クレティーナさんは困ったように笑う。
その妹は、
「レオの立場は、国王様とも話せるし、その辺の貴族も頭を下げるぐらいなのよぅ」
と、なぜか半泣きだ。
(ふ~ん?)
あまり、ピンと来ないや。
でも、
「よくわからないけど、美人なのはわかるよ」
と、言う。
レオナックさんは金色の目を瞬き、キョトンとする。
すぐに大笑いした。
「くはははっ」
「?」
「なるほど、シーナと言ったか。そなたは大物じゃの」
「ええ?」
何が?
意味がわからない。
姉妹の方も、姉は苦笑し、妹は悔しそうにしている。
(???)
みんな、どうしたんだろうね?
やがて、レオナックさんが息を吐く。
「まあ、よい」
「…………」
「今のこの森に、子供を1人置いていく訳にもいかぬ。おぬしもこのまま同行させるぞ」
「あ、うん」
僕は頷き、
「ありがとう」
と、頭を下げる。
クレティーナさんは微笑み、妹は仏頂面。
レオナックさんも頷き、
「ただし、指示には絶対に従え」
「あ、うん」
「よし。――『護国の神樹』のある聖地までは近い。残りを一気に駆け抜けるぞ」
ビリッ
声量は大きくない。
でも、芯に響く。
僕も姉妹も、真面目な顔で頷いた。
タン
彼女たちは3頭の駝鳥みたいな2足竜の鞍に、華麗な動きで跨る。
(え~と、僕は……?)
と、迷い、
「シーナ」
目の前のクレティーナさんが微笑み、僕に手を伸ばしていた。
あ、同乗させてくれるみたい。
僕は頷き、手を握る。
グン
簡単に引き上げられ、彼女の前に座らされる。
(わぁ、視界が高い)
目の前には、竜の後頭部が見える。
綺麗な鱗。
と、お姉さんの白い手が、僕のお腹を押さえ、
「私に体重を預けて」
「あ、うん」
ギュッ
言われた通り、後ろに寄りかかる。
ムニッ
鎧越しに、お胸の弾力が伝わる。
お互いの身体が密着し、緑色の長い髪が揺れて、僕の剥き出しの腕や首の肌をサラサラと柔らかに撫でていく。
(…………)
す、少しドキドキする。
と、彼女が、
「シーナは、お日様の匂いがしますね」
「え?」
「あ、いえ」
なぜか赤い顔で、少し慌てる。
(???)
お日様……光合成のせいかな?
すると、
「よし、皆、準備はよいな。行くぞ」
「あ、うん」
「はい」
「いつでも~」
レオナックさんの声に、僕らは応じる。
彼女も頷き、前を見る。
豊かな赤毛が翻り、
「――はっ」
鋭い掛け声。
同時に、
ドンッ
3頭の太い足爪が地面を蹴ると、竜たちは凄い速さで森の中を駆けだしたんだ。
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