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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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078・安心の背中

(ん……)


 大好きな人の指が、僕の髪を梳く。


 気持ちいい……。


 そんな僕に、クレティーナさんも優しく微笑み、見守る仲間の2人も穏やかな表情だった。


 と、その時、



「――大丈夫かね、若木様?」



 と、幼い声がした。


(え?)


 目を開き、振り返る。


 見れば、巨大な相撲取りみたいな神殿騎士が僕らの方へと近寄り、その肩に座る幼女が僕のことを見下ろしていた。


 ピョン


 幼女は肩から降り、地面に着地する。


(聖女……)


 僕もクレティーナさんの腕を離れ、彼女と向き合う。


 お互い青い瞳で、しばし見つめ合う。


 ……何だろ?


 何となく、親戚の子にあったような不思議な感覚がある。


 僕が『神樹の若木』で、相手は『神樹の信奉者』だから……?


 よくわからない。


 でも、幼女は興味深そうに「ふ~ん?」とジロジロ、僕を上下に眺めてくる。


 と、レオナックさんが、


「今回の助勢、感謝するぞ、聖女殿」


「ん?」


 幼女は、赤毛の美女を見る。


 パタパタ


 小さな手を振り、


「ああ、かまへんよ。ウチら、教会の人間が神樹様を守るんは当たり前のことやからね」


「ふむ」


「むしろ、教会の思惑で、こんな僻地に呼んで悪かったと思うとるんよ」


 と、しょんぼりする。


(ええと……)


 ちょっと可愛い。


 そして、ふと見れば、その金髪幼女の後ろで、大きな神殿騎士さんと補佐の神官さんたちも頭を下げてくる。


 う~ん、


(まぁ、確かに?)


 こんな人気のいない岩山に呼び出されたおかげで、枢機卿・大司教派の連中に岩を落とされるし、あの青い肌の青年にも殺されかけるし、挙句に崖下の迷宮に落ちるしで、色々と大変な目に遭ったのは事実だった。


 だけど、


(全然、教会のせいじゃないよね?)


 実際、僕を狙った奴らや僕の運が悪いだけ。


 むしろ、目の前の幼女など、その対処に出されたある意味、被害者の1人だろう。


 だから僕は、


「あの、助けてくれてありがとう」


 と、お礼を言った。


 幼女は「え?」と僕を見る。


 僕は言う。


「あの時、君の魔法がなかったら、僕、死んでた」


「…………」


「確かに大変な思いもしたけれど、でも、今、僕は生きてる。君が守ってくれたおかげだよ。だから、ありがとう」


「若木様……」


 驚く彼女に、


 ニコッ


 僕は笑う。


 途端、彼女は「はうっ」と眩しそうに目元を隠し、よろめく。


 見れば、後ろの神殿騎士さんと神官さんたちも地面に跪き、両手を合わせてこちらを拝み始めた。


(???)


 僕は首をかしげる。


 すると、背後のパルシュナが、


「本当、コイツ、顔はいいのよ、顔は……ったく」


 と、小声でぼやく。


 ? ……何の話よ?


 僕はキョトンとし、年上の美女2人は苦笑する。


 やがて、幼女は息を吐き、気を取り直したようにもう1度、僕と向き直る。


 姿勢と表情を正して、


「改めて、自己紹介や」


「あ、うん」


「ウチは、奉樹の神聖教フィーンレイド教会の聖女を務めております『シャル』いう者(もん)や。以後、よろしゅうに」


 シャン


 錫杖を鳴らし、一礼する。


 幼いけど、凄く綺麗な所作である。


(うん)


 僕も頷き、


「僕はシーナ。よろしくね、シャル」


 と、右手を出した。


 彼女は「へ?」と、その手を見る。


 戸惑ったように赤毛の美女を見て、レオナックさんは苦笑しながら頷いた。


 それを見て、幼女はオズオズと僕の手を握る。


(ん……)


 小さい手だ。


 でも、意外と温かい。


 幼女だから、体温高いのかな?


 と、握手するシャルは、不思議そうに僕を見つめ、


「なんや、若木様はずいぶんと親しみのある性格なんやねぇ……」


「え? そう?」


 僕は、青い目を丸くする。


 その反応に、シャルは苦笑し、


「ああ、うん。なんや、普通の子供相手にしてるような気分やわ。なんか、もっとこう近寄り難い神様相手にするぐらいに気負ってたんやけどなぁ」


「…………」


「あ、悪い意味やないで」


「うん……」


「むしろ、ウチは好きやよ?」


「そう? ありがと」


「ほら、そこで礼を言う。ほんま、面白い若木様やな」


 ケラケラ


 と、おかしそうに笑われる。


(ええと……)


 僕も、少し驚いてる。


 なんか、青肌の青年と戦ってる時は神秘的な雰囲気だったのに、今は全然、印象が違う。


 でも、うん、


(僕も、こっちの方が話すの楽かも……)


 と、正直、思う。


 僕の3人の仲間も、


「シーナはこういう子です」


「うむ」


「見た目詐欺師なのよね……」


 なんて言う。


 いや、何が詐欺師なのよ?


 最後の評価に僕は不満だけど、シャルは「言い得て妙やな」となぜか納得したように笑って頷いていた。


 ……げ、解せぬ。


 僕も言う。


「シャルも小さいのに、凄く大人びてるよね?」


「へ?」


「?」


「ああ~、そうやね」


 と、恥ずかしそうに笑う。


(? 何、その反応?)


 不思議に思っていると、クレティーナさんがソッと僕の横に近づき、耳打ちする。


「あの、シーナ」


「うん?」


「実は、聖女シャルは見た目こそ若いのですが、御年24歳の成人女性なんですよ?」


「…………」


 へ……24歳って、


(嘘ぉ!?)


 僕は愕然と、目の前の幼女を凝視してしまう。


 真実が伝わったと気づいたのか、見た目7~8歳の幼女な24歳の年上女子は、少し照れ臭そうにはにかむ。


 自分の顔を指差し、


「生まれつき、神聖魔法の回復力が強くてな? ウチ、あんま年取られへんねん」


「へぇ……」


「ま、永遠の幼女ちゃんやな」


「…………」


 永遠に子供のまま……?


(それは良いことなのだろうか?)


 少し困惑する。


 だけど、彼女は明るい笑顔で。


(……うん)


 もしかしたら、色々と葛藤はあったのかもしれないけれど、でも、今の彼女はそれを受け入れ、生きているように感じる。


 だから、僕も頷き、


「じゃあ、お互い、見た目詐欺師だね」


「ぷは……あははっ、若木様、言うなぁ~」


 パシパシ


 大笑いし、僕の肩を叩く。


 痛い痛い。


 でも、何だか、僕も笑ってしまう。


(なるほど)


 これが『聖女』、か。


 今後、協力関係になろうというのに、うん、好ましいなと素直に思える相手だったよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らが聖女と話している間、


(あ……)


 王国騎士隊の20人は、僕を中心に円陣を組み、周辺警戒を行ってくれていた。


 わぁ、ごめんっ。


 すっかり気が抜けていたけど、ここは山間の深い渓谷の底で、たった今、襲撃に遭った通り、全然、安全な場所じゃなかった。


(本当に安全な場所へ、すぐ移動しなきゃ)


 と、気を引き締める。


 そんな僕らの方へ、


 ガシャッ


 鎧の音を響かせ、ダレイオス将軍が1人やって来た。


 僕の前に来ると、


「申し訳ありませぬ」


 突然、跪き、首(こうべ)を垂れる。


(へ……?)


「護衛の任を任されておきながら、御身を危険に晒してしまいました。弁解のしようもありませぬ。またその責任は将軍たる我1人のもの。どのような処罰もお受けいたしますゆえ、どうか部下には寛大なる慈悲をお願いいたします」


「え……あ」


「…………」


 ま、真面目かっ。


(いやいや、あのね?)


 確かに、僕、滑落しちゃったけど、でも、将軍さんたち騎士隊の皆さんは、魔物の襲撃や教会の悪い人たちからの攻撃にはきちんと対応してたんだ。


 問題は、


(あの青い肌の奴だよ)


 あれは、想定外。


 アイツさえいなければ、護衛は充分、機能していたのだ。


 と、伝えると、


「いえ、どのような不測の事態があろうと御身を守るのが、我らの役目でありますれば……」


「…………」


 が、頑固。


 昔馴染みのレオナックさんも呆れ顔だ。


 美人姉妹は、姉の方は困ったような表情で、妹の方はどうでも良さそうな様子である。


 と、幼女が、


「あんな、将軍さん」


「ぬ?」


「あれの相手、普通の人間には無理やで? 将軍さんらが出会ったんは、もう天災みたいなもんや」


「しかし」


 将軍さんは言い募る。


 でも、幼女は小さな手を伸ばし、言葉を止める。


 チラッ


 僕を見て、


「それに、若木様、困っとる」


「む……」


「本人が『いい』言うとるんやから、素直に感謝し頷いとき。自己満足で若木様の心を痛めさせたら、それこそ護衛失格やで?」


「…………」


 彼も僕を見る。


(あ、うん)


 コクコク


 僕は何度も首を縦に振る。


 そんな僕を見据え、やがて、将軍さんは息を吐いた。


「かたじけない」


「ううん」


「若木殿の、その慈愛の御心に感謝いたす」


 と、立ち上がる。


 しかめられていた表情も、ようやく綻んでくれた。


(ん、よかった)


 僕も安堵し、笑顔になる。


 聖女のシャルさんも満足そうに笑い、3人の美女、美少女も穏やかな表情だ。


 それにしても、


「あの青い奴、何だったんだろう?」


 と、僕は呟く。


 皆が僕を見る。


「あの時、教会の悪い人と一緒に僕を襲ってきたけど、あれ、もしかして、仲間だったりしたのかな?」


「あ~、ちゃうちゃう」


 パタパタ


 僕の予想に、幼女は小さな手を横に振る。


「違うの?」


「うん、ちゃうわ。ただの偶然」


「…………」


「というか、アレはそんな人間と共闘できるような生易しい存在とちゃう。落雷や竜巻なんかは人間の都合で起きんやろ? それと一緒や」


 そう言い切る。


(…………)


 ずいぶん、詳しい様子。


 僕は聞く。


「もしかして……アイツの正体、知ってるの?」


「知っとるよ」


「!」


 あっさり答えた。


 彼女以外の全員が驚く。


 レオナックさんが厳しい眼差しで、聖女を見る。


「本当か?」


「ま、今更、隠さんよ」


「ならば――」


「ただ、今は言えん」


「何?」


「一応、教会の特級秘匿事項でな。マレナの……あ~、教皇様の口からしか、教えたらいかんのよ。ウチが言えるのは、ここまでや」


 ジッ


 2人は、視線をぶつけ合う。


(おお……)


 野生の獣同士が睨み合ってるような緊張感がある。


 僕らは固唾を飲む。


 やがて、


「……わかった。あとで教皇には詳しく話してもらうぞ」


 と、金印の冒険者が折れた。


 教会最強と云われる聖女も「そうしてもらい」と頷く。


(ふぅ)


 空気も落ち着く。


 やがて、話も終わり、僕らは移動を開始する。


 今の話に出てきた教皇マレナ・クインタールの待つオーガストの丘の古き神殿へと渓谷の底の大地を歩き出したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ズルッ


(わっ?)


 歩いていると、何度か足を滑らせた。


 その度、


「大丈夫ですか、シーナ」


「あ、うん。ありがとう、クレティーナさん」


 と、隣の彼女に支えられ、助けられる。


 う~ん、申し訳ない。


(何か、足が狙ったように動いてない感じなんだよね。何でだろう?)


 怪我も治ってるのにさ。


 と、内心、首をかしげてしまう。


 見ていた少女も、「アンタ、鈍臭いわね~」と呆れている。


 うう……。


 レオナックさんも少し不思議な様子だった。


(しっかりしろ、僕の足)


 パシパシ


 軽く叩く。


 と、クレティーナさんが、


「慌てないで、シーナ。滑落してから5日間も経っているのですから、蓄積した疲労もありますよ」


「え……5日?」


 僕は、青い目を丸くする。


 驚き、


「僕、5日間も迷宮にいたの?」


「え?」


 と、今度は彼女が紫色の目を丸くする。


 他2人も僕を見て、


「は? 迷宮?」


「どういうことじゃ?」


「あ、うん」


 そっか。


(3人は、僕が滑落したあと、そのまま渓谷の底を彷徨っていたと思っているんだね)


 と、気づき、説明する。


 すると、


「地下遺跡ぃっ!?」


「5日間、光合成なしですか!?」


「牛頭人身の魔物じゃと!?」


 全員、酷く驚く。


 おお、そんなに……?


 みんなの反応に、僕の方が困惑してしまう。


 騒ぎを聞き、ダレイオス将軍や聖女シャルさんまで事情を知ると、やはり3人と同じような反応を示している。


「よく無事で……」


「ほんまやで……」


 と、言葉をなくす。


(ええ、何で?)


 そう思い、話を聞くと、冒険者などが準備なく地下迷宮に閉じ込められた場合、その生存率は3割以下なのだとか。


 わ~、低い。


(よく生きてたね、僕)


 みんなも同じことを思っている表情だ。


 しかも、最後に戦った牛頭人身の魔物ミノタウロスは、白印3人が推奨の討伐レベルだとか。


 つまり、人喰鬼(オーガ)クラス。


 だから、赤印の僕が1人で――しかも、光合成もなしで――勝てる相手では本来ないらしい。


 でも、


「勝てたよ?」


 と、僕は言う。


 5人とも沈黙。


 と、赤毛の師匠が息を吐き、


「そうか」


「…………」


「そなたの成長は早いと思っておったが、全く……我の想像以上じゃな」


 と、苦笑する。


 クシャクシャ


(わっ?)


 その手で、乱暴に頭を撫でられる。


「よくやった」


(あ……)


 短い誉め言葉が、逆に心に刺さる。


 僕は笑い、


「うん!」


 と、元気に答えた。


 クレティーナさんは困ったような、でも嬉しそうな複雑な表情だ。


 その妹のパルシュナは僕が褒められ、どこか不満そうで、将軍さんと聖女の2人は穏やかな顔をしている。


 すると、ふと、緑髪の美女が気づいた顔をする。


「その間の食料は?」


「え? あ、うん。携帯食料と水筒の水と、遺跡で見つけた泥水だけかな」


「…………」


「泥水、意外と美味しかったよ」


 と、笑う。


 だけど、


(あれ?)


 全員の顔から表情が消えた。


 キョトンとする僕に、レオナックさんが静かな口調で問う。


「迷宮で、睡眠は取れたのか?」


「うん」


「そうか」


「でも、1人だったから眠り辛くて、1回でどのくらいの時間、寝れたのかもわからないんだけど……」


「何……?」


「最後に寝たの、いつだっけ?」


 と、思い返す。


 確か、ミノ戦の前だよね?


 あれは、3日目の朝で……いや、実際は5日だから……んん? もしかして、僕、5日間で2回しか眠ってない?


 今更、気づく。


(あはは……)


 僕の様子を、全員が見つめる。


 特に、クレティーナさんの視線が怖く、


「シーナ?」


 と、問い詰めるように名を呼ばれる。


 う……。


 この綺麗なお姉さんに弱い僕は、素直に今、気づいたことをお伝えする。


 途端、全員、青褪め、


「この阿呆弟子がっ!」


「いくらポーションで怪我を治しても、睡眠不足じゃ意味ないでしょうが! 根本で身体が壊れるわよっ!」


「だから、あんなに何度も転びそうに……っ」


「若木殿……」


「まさかの阿呆な子やなぁ……」


 と、口々に非難される。


(うう……そんな言わなくても~)


 僕、半泣きだ。


 やがて、僕は強制的にクレティーナさんに背負われることになった。


「ご、ごめんね」


「謝るぐらいなら、寝てください」


「……はい」


 しょぼん。


 そんな僕に、彼女は少し口調を和らげる。


「……もう、本当に心配したんですよ?」


「…………」


「今は、私がいます。私たちがいます。もう安全ですから、安心して眠ってくださいね」


「うん……ありがとう」


 最後に優しく言われ、僕も頷いた。


 温かく、大きな背中。


 甘やかな匂いのする綺麗な緑色の長い髪も、柔らかく僕の肌を撫でている。


(……うん)


 僕は、青い目を閉じる。


 深く息を吐き、


(ぁ……)


 瞬間、何かが途切れる感覚があり、そのまま自分の意識が深い闇に落ちていくのを感じる。


 ああ……うん。


 僕、本当に眠かったんだねぇ……。


 ……………………。


 …………。


 ……ぐぅ。

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― 新着の感想 ―
聖女であるシャルは清楚系の少女とか成人女性かと思ったから、「チャキチャキの関西弁キャラでロリ体系な成人女性」という中々に濃い属性なようで・・・これ、教皇様はどんなキャラで来るのやら・・・ ダレイオス将…
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