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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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077・聖女到来

(あ……)


 僕は茫然と、奴の手に輝く黒い光点を見つめた。


 それは、前に山道で見た光――その時は、奴の放ったその黒い光線と僕の『光合成』の力を乗せた剣閃がぶつかり合い、その余波だけで山道が崩れてしまう程だった。


 もし、その威力が直撃したら……?


(はは……)


 乾いた笑いが心の中で漏れる。


 もう、無理だ……。


 今は『光合成』も使えない。


 もし使えても、間に合わない。


 どこの誰だか知らないけれど、本当に『神樹』を、その若葉が生えている僕を枯ら(ころ)したいらしいね。


 僕の青い瞳は、奴を睨む。



 ――何なんだ、お前は?



 見つめ、ぶつけたその疑念に、けれど、銀髪青肌の青年はただ笑みを深くするのみだ。


 ジジ……ッ


 その青い手のひらで、黒い光点が震える。


 集まり、凝縮した力が限界を迎えようとしていた。


 つまり、発射直前で、


(く、そぅ……っ)


 それを見つめ、僕は唇を噛む。


 ただ、心の中を、大好きなあの人の笑顔が通り抜けていく。



「……クレティーナさん」



 その名が、口からこぼれた。


 同時に、


 パァン


 黒点から、髪の毛のように真っ直ぐな黒い光線が僕へと射出された。


 自分の死を予感する。


 不思議と時間感覚が伸び、その接近がはっきりと見えてしまう。


 あれが届いた瞬間、僕は……。


 絶望しかけた――その時、



「――神樹の慈悲の花は、其(そ)を守らん」



 澄んだ声が、周囲に響いた。


 キィン


 瞬間、僕の正面に白い光の大輪の花が咲き、黒い光線を受け止めた。


(――え?)


 驚く僕の前で、


 ドパァアン


 膨大な2つのエネルギーがぶつかり、弾け、巨大な爆発が巻き起こった。


(うわぁっ!?)


 僕は反射的に両手で顔を庇い、けれど、生まれた白と黒の混じった爆炎は、僕の正面にある『白い光の花』に遮られ、僕の元まで届かない。


 爆風が土煙を広げ、そして、流していく。


 あ……。


 白い光の花の咲いた後ろ側、僕がいる付近だけが無事で、それ以外の地面が大きく吹き飛び、岩盤が抉られ、白い蒸気を上げながら焼け溶けていた。


(…………)


 ゴクッ


 思わず、唾を飲む。


 そして、僕の前には今も『白い光の花』が咲いている。


 でも、今の凄まじい攻撃を防ぎ、力を使い果たしたのか、その光の花びらがヒラヒラ……と、1枚ずつこぼれ落ち、やがて、その姿は溶けるように消えてしまった。


 いったい、何が……?


 見れば、空中にいる青い肌の青年も驚きの表情だった。


 その時、



「――大丈夫だったかね、若木様?」



 と、声が聞こえた。


(え?)


 そちらへと、顔を上げる。


 巨大な崖に挟まれた広い渓谷の底の大地、僕の正面に、数十人の一団がいて、その先頭の巨大な騎士の肩に座る7~8歳ぐらいの可愛い女の子がいた。


 白い神官服。


 長い金髪が風に揺れ、青い瞳が僕を見ている。


 幼い手には、自身の身長よりも長い錫杖が握られ、その先端は今、僕の方へと向けられていた。


(え……誰?)


 僕は、目を丸くする。


 その幼女の周囲には、神官らしい法衣姿の人々が並ぶ。


 神官たちの持つ錫杖の先は幼女1人に向けられていて、けれど幼女以外、全員、息が荒く、とても消耗した様子だった。


 そして、彼らの背後には、


(あ……)


 武装した王国騎士が――ここまでの旅で、護衛として同行してくれていた20人の騎士隊の皆さんがいた。


 あの大柄な将軍さんの姿もある。


 そして、騎士隊の中に、騎士ではない武装した3人の女性の姿も見えた。


 その1人。


 槍を手にした美女が、長い緑色の髪をなびかせ、騎士を押しのけ慌てた様子で前に出てくる。


 泣きそうな表情で、



「――シーナっ!」



 そのずっと聞きたかった声が、僕の鼓膜を震わせた。


 瞬間、頭が真っ白になり、全身の痛みを忘れる。


 純粋な感情だけが溢れてくる。


 自然と涙がこぼれ、


(う……あ……)


 そちらに走ろうとして、


 ベショッ


 いうことを聞かない僕の身体は、その場で足をもつれさせ、地面に転倒してしまう。


 泥と土に汚れた顔を上げ、



「ク……クレティーナさぁん……っ!」



 その名を、僕は必死に叫んだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 長い髪をなびかせ、彼女が駆けてくる。


 ザザァッ


 地面の土を削りながら停止し、素早くしゃがむと、倒れている僕を抱きかかえた。


「シーナ……っ」


「うん……」


 泣きそうな彼女に、僕は笑う。


 でも、僕も泣いていた。


 怪我した僕を気遣うように、壊れやすい何かを扱うように、クレティーナさんは僕を優しく抱き締める。


(ああ……)


 もう安心だ。


 そんな気持ちになってしまう。


 と、数秒遅れて、レオナックさん、パルシュナも、僕らの元へとやって来る。


「シーナっ」


「アンタ、生きてるのね!?」


 と、2人が言う。


 僕は笑い、けど、


 ケホッ


 咳き込み、赤い血をこぼす。


 3人は青褪め、


「ポーションじゃ!」


 と、赤毛の美女が叫ぶ。


 姉妹の姉は僕を抱えていたので、妹の方が慌てて腰のポーチから小瓶を取り出す。


 蓋を剝ぎ取り、


「姉上!」


「はい。――さ、シーナ。ゆっくり飲んでください」


(ん……)


 瓶の口を当てられ、


 コクッ


 僕の喉を、液体が流れる。


 食道を通り、胃の中に辿り着いたと感じた瞬間、お腹を中心に心地好い熱が全身に、それこそ手足の末端まで広がっていく。


 その感覚と共に、


(あ……痛みが)


 凄い、本当に楽になった。


 僕の安らぐ表情の変化に、3人も安心した顔になる。


 最後に、


 バシャッ


「おまけよ」


 と、少女がもう1本、ポーションの液体を僕の顔と身体にぶち撒ける。


(ほわっ!?)


 僕は、びっくり。


 その様子に、彼女は意地悪く「ふふんっ」と笑った。


(く……っ)


 でも、悪ぶって見せても、実際の行動は僕を案じての追加ポーションなのである。


 全く、ツンデレ少女めっ。


 赤毛の美女は苦笑する。


 そして、クレティーナさんは僕の怪我が治ったことを確かめ、


「……ああ、よかった」


 ギュッ


 再び、今度は強く抱き締める。


(ん……)


 僕も、強く抱き返す。


 確かな感触、甘い匂い、その温もり……うん、夢じゃない。


 死ぬ前に見る走馬灯なんかじゃない。


 間違いなく、彼女はここにいる――そう感じられることが嬉しくて、気づけば、僕の目からまた勝手に涙の粒が流れてしまう。


 見れば、彼女も泣いている。


 他の2人も、


「ふんっ! 本当、心配かけてっ」


「ああ、よく生き延びたの」


 と、1人はそっぽを向き、もう1人は僕の髪を少し乱暴に撫でる。


 僕も、2人を見る。


 すると、その時、


 ドパァアン


(!?)


 その2人の遠い背後で、再び巨大な爆発が起きた。


 慌てて視線を向ければ、夜空に浮かぶ青肌の青年が再び『黒い光線』を放ち、それを金髪幼女が『白い光の花』を咲かせて、先程と同じように防いでいる光景があった。


 白と黒のエネルギーの奔流が空中で弾け散り、強い爆風が吹き荒れる。


 砕けた大地の大岩が、


 ゴッ ガァン


 僕らの横の地面を転がり、吹き飛んでいく。


(おお……)


 僕は、青い目を丸くする。


 クレティーナさんが僕を庇うように抱きながら、流星の槍を構える。


 更にその前に、


 ガシャッ


 魔炎の戦斧を手にしたレオナックさん、雷双剣を両手にしたパルシュナが並ぶように立つ。


 僕を守る態勢だ。


 そして、青肌の青年は、三度(みたび)、黒い光線を放つ。


 パォッ


 けれど、



「――神樹の慈悲の花は、其を守らん」



 大柄な騎士の肩に乗る幼女が呟き、その錫杖の先を空に向ける。


 周囲の神官も、一斉に自分たちの持つ錫杖の先を幼女に向け、そこから白い光のようなものが流れると、幼女に集まり、彼女の錫杖の先に清浄な純白の輝きが集束した。


 そして、空中に『白い光の花』が咲く。


 純白の花と黒い光線がぶつかり、


 ドパァアン


 再びの大爆発。


 大地は砕け、吹き飛んだりするけれど、『白い光の花』の後ろにいる騎士隊や僕らは皆、誰1人、被害を受けることはなかった。


 僕は青い目を瞠り、


「あの子は……?」


 と、茫然と呟く。


 1番近くにいる緑髪の美女が答える。


「私たちの協力者です」


(協力……者?)


 僕は、彼女を見る。


 その年上の美貌も、僕を見返す。


 少し辛そうに、


「あの日、シーナが滑落したあと、私たちはすぐ救助に向かうつもりでした」


「…………」


「ですが、地理に不慣れであり、魔物やあの敵性存在のことを考えると、人手と戦力が足りませんでした。そこで急ぎ『オーガストの丘の古き神殿』に赴き、フィーンレイド王国教皇に会うと救援の協力を求めたのです」


「あ……」


「はい。その結果、教皇マレナ・クインタールは、自身の持つ最大戦力(・・・・)を与えてくださいました」


 彼女は、視線を前方に向ける。


 その先にいるのは、大柄な神殿騎士の肩に乗る金髪の幼女。


 爆発の荒れ狂う風圧で長い髪がなびき、けれど、幼くも神秘的な美貌は落ち着いたまま、上空の敵を静かに見つめている。


(…………)


 静謐な、けれど、重い存在感。


 ゴクッ


 僕は、唾を飲む。


 その横で、僕の大好きな人が口を開く。



「――王国教会の誇る最強の神聖魔法の使い手であり、レオナック・オルンと同格とされる戦いの御子……あれが『聖女』です」



 ◇◇◇◇◇◇◇



(あの子が……?)


 各国に1人しかいない、教会で1番の神聖魔法の使い手……確か、フィーンレイド王国の聖女の名前は『シャル』だっけ。


 僕はもう1度、その子を見る。


 まだ、幼い女の子だ。


 だけど、


(うん……雰囲気がある)


 どこか神秘的で浮世離れした空気があり、レオナックさんやダレイオス将軍と同じ、一般人とは違う存在感のようなものを感じる。


 幼女は、何度も錫杖を振る。


 ドパァン ドパパァン


 空中に幾輪も『白い光の花』が咲き、黒い光線を何度も弾いている。


 爆発が繰り返す。


 と、その時、


 ドサッ


 聖女の周りの神官の1人が、真っ白い顔色で地面に倒れた。


(え?)


「魔力切れね」


 パルシュナが呟く。


(魔力切れ?)


 驚く僕に、


「いかに聖女とはいえ、あれほどの威力の攻撃を防ぐのじゃ。複数人の魔力を集束し、より強固な防御魔法を展開しておったのじゃろう。その補佐役が1人、脱落したということじゃ」


「補佐役……」


「このままでは、ジリ貧じゃの」


 と、レオナックさん。


(え、あ……そうなの?)


 た、大変じゃないか。


 僕は慌てるけど、


「大丈夫です」


「え?」


「彼女も、この状況をただ受け入れる訳はありません。何しろ今、この場にいるのは『聖女』だけではないのですから」


 と、クレティーナさんは微笑む。


 僕は、青い目を瞬く。


 その聖女は、チラッと倒れた神官を見る。


 そして、僕と同じ青い色の瞳は、今度は、自分たちと同じ前線に立つ騎士隊の1人――ダレイオス将軍へと向けられた。


 視線に気づき、将軍さんは頷く。


 幼い聖女も頷き返す。


 ズシャッ


 銀髪の大将軍は、聖女の咲かせる白い花の手前ギリギリまで大きな足を踏み出し、前に出る。


 手にした斧槍(ハルバード)を振り被り、



「――闘神(とうしん)、降来(こうらい)」



 と、呟く。


 途端、斧槍が輝き、


 ビキッ


 それを握る将軍さんにも光が流れると、太い手足の筋肉が一回り膨れ上がり、凄まじい圧力を感じさせた。


(っ……武具の魔法?)


 そう気づく。


 次の瞬間、将軍さんは前に踏み込み、両手に構えた斧槍を目の前の地面へと抉るように叩きつけ、そのまま前方へと振り抜いた。


 ゴパァン


(!?)


 大地が破砕し、その大小の岩の瓦礫が砲弾となり、上空の青肌の青年に飛ぶ。


 人間とは思えぬ膂力。


(まるで、破壊用の重機みたいだ!)


 僕は目を剥き、青い肌の青年も驚きの表情だった。


 青い両手を振り、


 バシィン


 円形状の黒い光が正面に広がり、瓦礫を防ぐ。


 けど、


「むん! ふん! ぬん!」


 ドパァン ドパパァン


 将軍さんの地面破壊による砲撃は止まらない。


 大きいものでは7メートルを超える瓦礫が空に舞い、青い肌の青年へと襲いかかっていく。


 バシッ バシィン


 途切れぬ砲弾に、青年も防御に徹してしまう。


 と、将軍さんは、攻撃の合間に騎士隊へと目線を向け、合図を送る。


(あ……)


 20人の騎士は、いつの間にか、大弓を構えていた。


 ドシュシュン


 20の矢が、空中の青年に飛ぶ。


 騎士隊は1人1人、射撃位置を変えていて、青年に対し、扇状に3段階の高さの差をつけて矢を放っている。


 青い肌の青年の表情が変わる。


 焦った表情で、


 ヒュッ


 と、回避行動に入った。


 恐らく、範囲が広く、正面だけの防御魔法だけでは防げないと判断したのだろう。


 ローブの灰色の布地を翻し、飛来する無数の矢を避ける。


 けれど、その瞬間、



「――ぬぅん!」



 ヒュボッ


 筋肉を盛り上げ、将軍さんは斧槍を投擲した。


 まるでクレティーナさんの『魔法の槍』のような速度で、回避した青年の移動先へと正確無比に飛んでいく。


 キュドン


 青年の右肩に命中し、その右腕が吹き飛んだ。


(う、わ……)


 僕は目を瞠る。


 緑色の血液が空中に舞い、青い肌の青年は、苦悶の表情で地上へと落下する。


 ドシャッ


 崩れるように、地面に着地。


 と、その瞬間、聖女が錫杖を振る。


 シャン



「――悪よ、滅べ」



 静かな声音。


 周囲の神官から白い光が集まり、聖女の錫杖の先端が白く輝く。


 空中に、白い花が咲く。


 でも、花の大きさは今までより小さく、その数は10以上に上り、次の瞬間、花は『純白の光弾』と化して地上に落ちた青い肌の青年へと殺到した。


 ドドドドォン


 真っ白な爆発が無数に起きる。


 その度、大地が震動する。


(お、お、お……)


 まるで、小規模地震だ。


 やがて、『白い花の光弾』は落ち終わり、連続した爆発も止まる。


 粉塵が落下地点を隠している。


(…………)


 全員、沈黙。


 王国最強の将軍は今は腰の長剣を抜き、騎士隊の20人も大弓を構えたまま、聖女シャルと神官たちも美しい錫杖の先を静かに粉塵の中心へと向け続ける。


 僕のそばの3人も同様、武器を向けたままだ。


 誰1人、警戒を解かない。


 と、次の瞬間、


 バサァッ


(!?)


 黒い翼が広がった。


 粉塵が流れ、その場に現れたのは、背中から4枚の黒い翼を生やした青い肌の青年の姿だった。


 灰色のローブは破れ、跡形もない。


 美しい裸身は傷だらけ。


 緑色の血液が青い肌を流れ、ポタポタと地面の上に落ちていく。


 でも、


(……生きてる)


 あれだけの攻撃を受けて、尚。


 その事実に、ゾッとする。


 右腕を失った青年は、左手で右肩を押さえ、その整った顔に静かな妖しい微笑を浮かべていた。


 4枚の黒い翼が動き、


 フワッ


 その姿が空中に浮き上がる。


 漆黒の羽毛が、周囲に散る。


 その光景は、まるで堕天使が空に舞うようで、あまりの美しさに思わずこの場の全員が見入ってしまう。


 と、赤毛の美女が真っ先に我に返り、


「逃すな、将軍!」


「!」


 弾かれるように将軍さんは合図を出し、騎士隊が大弓を構え、一斉に矢を射かける。


 でも、


 バヒュッ


 黒い翼が大きく羽ばたき、青年は射程外の上空へ。


 20本の矢は、その真下を通過する。


 青い肌の青年は、あっという間に空の高みに昇り、やがて、夜の闇に溶け込むように見えなくなってしまう。


 同時に、



『――はははははっ!』



 楽しげな、高らかな笑い声が周囲に反響した。


 …………。


 逃げられた。


 いや、


(僕らの方が、凌いだのかな……?)


 よくわからない。


 でも、絶体絶命の状況の中、僕自身は生き残れた。


 それは事実。


 今はそれだけで、 


(……うん、上出来だよね?)


 この数日間、真っ暗な迷宮の中で命の危機を感じながら、『光合成』を使えない12歳の子供が必死に足掻き、もがき、こうして今も生き延びてみせたのだ。


 もう、それで充分。


 それだけでいい……。


 自分を抱くクレティーナさんの腕を握り締め、僕は大きく息を吐く。


 気づき、


「シーナ……」


 ギュッ


 彼女ももう1度、僕を抱き締め直してくれる。


 その温もりの中で、僕も彼女に身を委ね、安心しながら自身の青い瞳をゆっくり閉じていったんだ。

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― 新着の感想 ―
取り敢えず危機を乗り越えられて良かった・・・そして同時に、聖女と将軍の強さのお披露目でしたね。かなりの強者でした・・・
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