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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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072・北へ、王国騎士隊と共に

 王国最強の将軍が率いる騎士隊と、それが守る僕らの馬車は、王都フィーンドリアの東大門を抜け、石畳の街道を北東へと進んでいく。


 ドッドッドッ


 座席から、車輪と石畳のぶつかる振動が伝わる。


 窓から見ると、王都の長く白い城壁が徐々に遠ざかっていくのがわかった。


(……意外と速いね)


 結構、速度が出ている。


 でも、旅用の高級馬車だからか、車内の安定感は抜群だ。


 ちなみに、侯爵家の馬車と王国騎士隊の一団だったので、大門前の出都待ちの行列に並ぶこともなく、その横を素通りし、最優先で手続きしてもらえた。


 さすが、国家権力。


 渋滞中の車両や並んでいる人たちからの羨望の眼差しに、何だか申し訳なくなったよ。


 でも、同乗する少女は、


「ひゅ~♪ 気分いいわぁ」


 と、鼻歌交じりで、2人のお姉さんたちは苦笑していたっけ。


 ま、


(正直、僕も少し思うけど)


 でも、内緒だよ?


 あと、街道には他にも馬車や旅人が歩いているんだけど、騎士隊付きの貴族の馬車が走っていると気づくと、皆、急いで道を開けてくれる。


 まるで緊急車両って感じ。


 隣のお姉さん曰く、


「騎士隊の通行を邪魔すると、最悪、その場で処刑されることもありますから」


「え……そうなの?」


「はい、法的には可能です」


「…………」


「まぁ、実際は、あまり実例はありませんがね」


 と、穏やかに笑う。


 多分、冗談っぽくしてくれたんだろう。


 でも、


(あまり実例はないって……言い換えれば、少ないけど、実例があったってことだよね?)


 異世界、怖いなぁ。


 久しぶりに、前世との落差を感じたよ。


 ともあれ、王国騎士隊と馬車は街道を走り、やがて、いくつかの分岐路を通り抜けながら、北部方面へと向かう街道に入っていく。


 車窓の景色も変わる。


 平野の草原から、背の高い木々の生える森林地帯へ。


 遠くには、峻険な山々も見える。


 また街道も、王都付近の広く舗装された石畳ではなく、幅も狭く土を固めただけの道になっていた。


 ゴトトッ


(わっ?)


 車体が大きく左右に揺れた。


 どうやら、土の道に落ちている小石なんかを踏んでしまったらしい。


 う~ん、


(ここから、道も荒れてくのかな?)


 ……車酔いしないか、少し心配だよ。


 と、その時、


 ガッタン


(ほわっ?)


「きゃっ」


 一瞬、座席からお尻が跳ねるほどの衝撃があった。


 小さな僕の身体も浮き、


 ポニョン


 隣のクレティーナさんの大きく実ったお胸様に、顔面から突っ込んでしまう。


 や、柔らか……っ!


 あと、いい匂い――、


(じゃなくて!)


「ご、ごめん」


 僕は慌てて、身体を起こす。


 クレティーナさんの大人びた美貌も、驚きの表情を浮かべていて、でも、すぐに柔らかく微笑む。


 かすかに頬を赤らめ、


「大丈夫です」


「え?」


「シーナになら」


「…………」


 僕らは数秒、見つめ合う。


 意味が浸透し、


 ボヒュッ


 真っ赤になった僕は、頭から多量の蒸気を噴き出した。


 彼女は目を丸くし、


「ふふっ」


 どこか艶っぽく、嬉しそうに笑う。


 見ていた妹は呆れたような顔で、やがて、苦虫を嚙み潰した表情で「けっ」と吐き捨てるようにそっぽを向く。


 一方、赤毛の美女は驚き、


「何じゃ? ティナとシーナ、ずいぶんと親しげではないか」


 と、小声で少女に問う。


 少女は肩を竦め、


「へっ……最近ねぇ、あの2人、距離近いのよ」


「ほほう?」


「本当、姉上、見る目ないわ~」


「…………」


「あんなチビシーナのどこがいいのよ? 顔が良いのは認めるけど、それだけでしょ……全くも~さぁ」


「ふむ、そうかそうか」


「そうよ」


「つまり、パルはシーナを姉に取られて、悔しいのか」


「そう……って、はぁああっ!?」


 ガタッ


 大声を上げ、少女は座席からずり落ちる。


(え、大丈夫?)


 僕は、びっくり。


 パルシュナは、何だか温かい表情で微笑むレオナックさんを唖然と見上げる。


 やがて、憤然と、


「ち、違うわよ! 私が悔しいとかなくて、姉上が心配なだけで……!」


「うむうむ、わかるぞ」


「わかってないっ! ちょ……レオ、聞いてる!?」


 と、赤毛の美女の襟首を掴み、ガクガク揺する。


 でも、逞しい金印の冒険者は、その状況でも「はっはっ、若いのぉ」と楽しげに笑っている。


(ええっと……?)


 僕、困惑。


 思わず、クレティーナさんと顔を見合わせちゃう。


 数秒、見つめ合い、


「……ぷっ」


「ふふっ」


 お互い、噴き出すように苦笑してしまう。


 と、まぁ、そんな一幕もありつつ。


 騎士隊と僕らの馬車は、北への街道を順調に進んでいく。


 やがて、食事やトイレなどの3度の休憩を挟みながら、気づけば窓の外は暗く、星々と2つの月の輝く夜を迎えていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 魔光灯の照明に光が灯る。


 騎士たちは騎馬の鞍に、馬車は前方に照明具を装着する。


 ドッドッドッ


 と、移動は止まらない。


(……夜間も行軍するの?)


 僕は、少し驚いてしまう。


 日本の道路と違い、街道には照明もなく、明かりが届く範囲外は真っ暗だ。


 夜空の月と星の光も淡く、弱い。


 真っ暗な木々の中の街道を、多少、速度を落としながら、でも、騎士隊も馬車も止まる気配がなかった。


 まさか、徹夜で移動する気とか?


 旅用馬車の座席は、寝台代わりにもできる設計だ。


 なので、僕らは睡眠を取ることができるけれど、将軍さんや騎士隊、騎馬たちは大丈夫なのだろうか?


(少し心配……)


 だけど、


「問題ない」


 と、レオナックさん。


「王国騎士は、その辺の冒険者や傭兵などとは鍛え方が違う。夜間訓練もしておるし、2日間の徹夜など意にも介さぬよ」


「そうなの?」


「うむ、そういうものじゃ」


 驚く僕に、もう1度、太鼓判を押す。


(へ~)


 と、僕は感心。


 姉妹も驚いた表情をしていた。


 そして、パルシュナが、


「ま、いいわ」


「?」


「それが仕事なんでしょ? こっちも国に高い税金、払ってるんだし、だったらがんばってもらいましょ」


「…………」


「私は寝るわ~」


 と、気楽な様子で座席の背もたれを倒し、寝台にする。


 う~ん、


(ある意味、さすが)


 しっかり割り切り、余計な心労を負わない生き方は、ちょっと尊敬してしまう。


 少女の姉と顔を見合わせ、


(うん)


 僕らも寝よう――と頷き合う。


 その時だった。


 ガタン ギギィ……ッ


 突然、馬車が速度を落とし、急停車した。


(わっ?)


 僕はつんのめり、クレティーナさんのお胸にぶつかり、慌てた彼女に抱き留められる。


 少女も「のひょっ!?」と寝台からひっくり返っている。


 ただ1人、レオナックさんだけは素晴らしい体幹で姿勢を保ち、少し険しい表情で窓の方を向く。


(な、何?)


 戸惑う僕の耳に、



「――魔物だ!」



 と、外の声が聞こえた。


 え?


 魔物っ!?


 僕らは驚き、慌てて武器を手にする。


 窓から外を見ると、真っ暗な森の中から、大型の狼みたいな生き物が2頭、照明の光を反射して赤い瞳を輝かせながら、街道を塞ぐように姿を現していた。


(でっかい)


 体長は約4メートル。


 騎士と騎馬の組み合わせよりも大きい。


 頭部に何本か角があり、鋭い牙の並んだ口からは白い蒸気の息と涎が垂れていた。


冥界犬ガルムか」


 と、金印の冒険者が呟く。


(冥界犬?)


「数頭の群れで行動し、自分より大きな魔獣も獲物として狩る狼型の魔物じゃ。夜行性で夜目も効く」


「強い?」


「強いぞ」


「…………」


 淡々とした一言に、その脅威を感じる。


 ゴクッ


 僕は、唾を飲む。


 と、赤毛の美女は窓を開け、


「加勢は要るか、将軍!?」


 大声で、前方に問いかけた。


 すると、



「――無用!」



 と、即、返事が戻る。


 騎馬に乗ったまま、長い斧槍ハルバードを手に王国の大将軍は言う。


「多少、騒がしくなるだろうが、貴殿らはゆっくりと休まれよ。何、すぐに静かになるのでな」


 ビュン


 と、斧槍を回す。


 途端、騎士隊が動き出す。


(お……)


 馬車の護衛に騎士隊の10騎を残し、ダレイオス将軍と残りの騎士隊10騎が正面の冥界犬2頭へと突撃していく。


 ガアッ


 冥界犬も吠え、迫る騎士隊に飛びかかった。


「むんっ!」


 その魔物目がけ、先頭の将軍さんが斧槍を振り下ろす。


 ヒュッ


 冥界犬は、その巨体からは信じられぬ機敏さでその攻撃をかわし――直後、急停止し、跳ね上がった斧槍に下顎をかち割られ、空中へと吹き飛ばされた。


(……は?)


 僕、唖然。


 魔物は高さ7メートルぐらいにまで飛び、そして、地面に落下する。


 重い衝突音。


 重傷の魔物は、すぐに動けず、


 ドシュシュ


(あ……)


 即、他の騎士たちの長剣でめった刺しにされ、絶命した。


 残る1頭も驚いた様子。


 思わず、たたらを踏み、


「ぬんっ!」


 ボヒュッ


 瞬間、足の止まった魔物に向け、将軍さんは斧槍を投擲した。


 飛来した斧槍を、冥界犬は慌てて回避しようとするも、あまりの速度にかわし切れず、後ろ足を貫かれる。


 巨大な獣の悲鳴が上がる。


 ドドッ


 その時には、将軍さんは腰の長剣を抜き、魔物に肉薄していた。


 白刃が煌めき、


「むんっ!」


 バツン


 動きの鈍った巨狼の首を刎ね飛ばす。


 頭部が落ち、残った胴体から大量の血が噴き出すと、やがて、地面にドサッと倒れる。


 街道の土に、血だまりが広がる。


 僕と姉妹は唖然。


(え……強ぉ)


 赤毛の美女は苦笑する。


冥界犬ガルム2頭を一蹴か……相変わらず、尋常ならざる強さよの」


「…………」


「しかし、気づいておるかの?」


「?」


 ……何に?


 僕は戸惑い、すると、将軍さんが馬車を振り返る。


「各員、警戒を維持! 馬車の周囲の森、3時方向に1頭、11時方向に2頭、まだ冥界犬が潜んでおる! 更なる襲撃に備えよ!」


『はっ!』


 馬車の周りの騎士たちが応える。


(え?)


 周囲の森に冥界犬がいる?


 慌てて窓から見るも、夜の森は、照明で照らされる範囲外は全て暗闇の中だった。


 何も見えない。


 でも、


「ふっ、さすが将軍。気づいておったか」


 と、レオナックさんが賞賛する。


(本当にいるの?)


 この闇の中に!?


 目の前の美女も、将軍さんもどうやって気づいたんだろう?


 姉妹の妹も、僕と同じに驚いている。


 でも、姉の方は、


「……いえ、逃げましたね」


 と、呟く。


(え?)


 レオナックさんも、


「ふむ……確かに。陽動が失敗し、警戒も解けぬため、狩りに失敗したと判断したのじゃろうの。3頭とも、森の奥に引っ込んだようじゃ」


「はい」


「しかし、冥界犬5頭をあっさり退けるとは……やはり、王国騎士、見事な実力じゃ」


「ええ、そうですね」


 と、2人は頷く。


 僕とパルシュナは顔を見合わせる。


 トットットッ


 と、前方に離れていたダレイオス将軍と10騎の騎馬が、馬車の元へと戻ってくる。


 窓に並び、


「騒がせたな」


「何、問題ない。戦闘、ご苦労じゃったの、将軍」


「これが私たちに与えられた任務だ。労いは要らぬさ。――さて、街道の安全を確保した。再び移動を開始させてもらうぞ」


「うむ、承知した」


「よし。――全隊、移動再開!」


『はっ!』


 屈強な将軍の号令に、騎士たちも応える。


 ギィ……


 と、馬車が動き出す。


 20騎の騎馬と馬車は、何事もなかったように夜の街道を進んでいく。


(…………)


 凄いや。


 あの1頭倒すだけでも大変そうな巨大な狼型の魔物を、将軍さんは一瞬で倒してしまった。


 しかも、2頭とも。


 森に潜んでいた3頭も、その強さを感じ、逃げ出している。


 う~む、


(これが、王国最強の将軍……かぁ)


 その意味を、じんわり実感する。


 更に、その将軍が指揮する20名の精鋭騎士たちも護衛としていてくれている。


(――うん)


 実に頼もしい。


 窓の外に並ぶ美しい王国騎士たち――その姿を眺めながら、僕は安堵の笑みをこぼしてしまったんだ。

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― 新着の感想 ―
ダレイオス将軍とその騎士団の高い練度を現した良いシーンでした。夜間でかつ夜目が利く魔物となれば、流石のレオナック達も苦戦してたのかな?
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