064・ダレイオス将軍
すみません、いつもの時間に遅れました!
お盆に向け、色々慌ただしく……誠に申し訳ありません。
本日の更新、第64話になります。
よろしくお願いします。
太陽が西に傾く。
数時間、セレブの生活を堪能した僕は、
「じゃ、また明日」
「お邪魔しました、レオ」
「お昼、ありがとね。今度は家にも食べに来てよ~?」
と、姉妹と暇を乞う。
部屋主のお姉さんも頷き、
「帰り道も気をつけての。――明日は、朝8時にギルドに集合じゃ。将軍が迎えの馬車をよこしてくれるそうじゃから、遅れるな」
(あ、そうなの?)
僕らも「わかった」と頷く。
靴を履き替え、玄関の外へ。
昇降機を使い、1階まで下りる。
レオナックさんも付き合ってくれ、エントランスを出るまで僕らを見送ってくれた。
「ではの」
と、手を振ってくれる。
僕らも振り返す。
敷地を出たあとも、姉妹と談笑しながら家路を辿り、やがて、姉妹の家へと辿り着く。
(あ……。うん)
やっぱり、落ち着く。
凄い住宅塔だったけど、豪華なセレブの部屋より、この普通の家の方が安心してしまう。
やはり、僕は庶民らしい。
……いや、この家も結構、立派だけどね。
(ただいま~)
夕暮れの空の下、僕は姉妹と一緒に家へと入る。
その日も彼女たちと料理を作り、一緒に食べ、寝る前にお風呂に入り、そして、明日に備えて早めに就寝する。
ぐぅ……。
で、翌朝を迎えた。
(よし)
鏡の前で、僕は買ったばかりの礼服に着替えた自分を見る。
うん、悪くないよね?
姉妹も、礼服に着替えている。
まず、クレティーナさんの方は、落ち着いた薄水色のワンピースに身を包み、長く綺麗な緑髪は結い上げ、頭の後ろで銀色の髪飾りでまとめている。
(う~ん、素敵)
上品な奥様って感じ。
その妹、パルシュナの方は、姉とお揃いの薄桃色のワンピース姿で、癖のある紫色の髪は三つ編みハーフアップにしている。
眼鏡も着用し、
(……深窓のお嬢様?)
っぽい。
さ、詐欺だ……!
2人とも肌を見せないよう、更に肩からショールも羽織る。
詐欺師の方は、
「あ~、動き辛ぁ」
と、口悪く言う。
……うん、何となく安心だ。
少女の姉は苦笑し、「今日1日の辛抱ですよ」と穏やかに言う。
そして、僕を見て、
「――シーナも、やはり素敵ですね」
と、笑った。
ドキッ
突然のお褒めの言葉と甘い笑顔を向けられ、少し胸が高鳴った。
「あ、ありがと」
「ふふっ」
照れる僕に、彼女も笑う。
やがて、姉妹と共に家を出ると早朝の通りを歩き、待ち合わせのギルドの白い塔を目指したんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
ギルドに到着する。
1階の待合フロアに向かうも、赤毛のお姉さんの姿はない。
(まだ来てないのかな?)
と、周囲を見回す。
すると、ギルド職員が1人、僕らの方へと近寄ってきた。
(ん、何?)
キョトンとする僕ら。
職員さんは一礼し、
「皆様、おはようございます。レオナック様が奥の個室でお待ちです。ご案内しますので、どうぞこちらへ」
とのこと。
おや、そうなんだ?
姉妹と共に、職員さんに案内され移動する。
ギルド内には武装した冒険者がたくさん歩き、正装の僕らは少し場違いな感じがあった。
(ああ、うん)
だから、レオナックさんも個室で待っていたのかも?
やがて、3階の個室に到着。
扉を開けると、
「おお、来たの」
と、赤毛の美女が1人、革の椅子に座り、僕らを待っていた。
(へぇ~?)
僕は、マジマジと彼女を見る。
今日のレオナックさんは、落ち着いた黒いフォーマルドレスで、赤毛の髪も結い上げ、毛先を背中に垂らしている。
また、珍しく耳飾りやネックレスなど、装飾品も身に着けていた。
……うん。
冒険者の時の印象と、全然、違う。
荒々しい戦士の雰囲気はまるでなく、成熟した大人の女性の色香があった。
(なるほど、元公爵家のご令嬢さんだね)
そう納得の美人さんである。
そんなレオナックさんも、僕らの服装を眺め、
「ふむ。ティナ、パル、2人とも良く似合っておるぞ。そして、シーナも思った以上に良い感じではないか」
と、穏やかに笑う。
(そ、そう?)
「ありがとう。レオナックさんも素敵だよ」
「ふっ……そうか」
貴族家出身のお姉さんは、大人の笑みで応じる。
姉妹も微笑み、
「ありがとうございます」
「私は、ちょっとお腹苦しいけどね~」
グイグイ
見た目詐欺師の少女は、ワンピースの腰帯を引っ張る。
姉は苦笑し、
「もう、服が乱れますよ?」
と、窘めながら、妹の帯の締め具合を少しだけ調整してやっていた。
現在の時刻は、8時過ぎぐらい。
ダレイオス将軍のいる侯爵家からの迎えの馬車は、8時半~9時の間に来てくれるという約束らしいので、しばらくは待機となった。
ただ、今日は全員、礼服だ。
汚すとまずいので、お茶もお菓子もなし。
(……残念)
口の中が少し寂しい。
ともあれ、普段と違う雰囲気の美女、美少女たちと談笑しながら、しばし時間を潰す。
やがて、
コンコン
不意に、個室の扉が叩かれる。
入ってきた職員さんが一礼し、
「レオナック様、侯爵家の馬車が参られました」
「む、そうか」
その報告で、全員が席を立つ。
3階から階段を降り、白い塔の駐車場に向かう。
(あ……あれだ)
すぐ、わかった。
明らかに他の車両より大きく豪華で、4頭引きの馬車が1台、堂々と停車していた。
車体の側面には、紋章が描かれている。
(多分、侯爵家の家紋かな?)
また周囲には、護衛らしい騎兵が2騎もいた。
うん、凄く目立つ。
通りかかる人々の視線も集まっている。
僕らが近づくと、車両の横に立っていた侯爵家の侍従さんらしいお髭の男性が一礼し、
「おはようございます。本日は、我が主人ダレイオス・ガンターの命により、レオナック・オルン様一同をお迎えに参りました。どうぞ、ご搭乗くださいませ」
と、ご挨拶してくださる。
(あ、ご丁寧にどうも)
と、僕と姉妹は会釈する。
その一方で、
「うむ、よろしく頼む」
元貴族で王国最強の冒険者の赤毛の美女は、気後れもなく頷いた。
う~ん、さすが。
で、僕らは馬車に乗る。
階段状の足台を使い、車内に入ると、
(わっ? 床、絨毯だ)
座席の赤いクッションも柔らかく高級そうで、窓には白い刺繍の施されたカーテンもあり、天井にも埋め込み式の照明灯まで設置されていた。
高級な座席に座り、僕は息を吐く。
しばらくすると、
ゴトン
と、車輪が回り、馬車が動き出した。
(お……?)
思ったより、振動が少ない。
その事実に、少し驚く。
実際の中世ヨーロッパの馬車は、車体の振動がかなり強い印象だけど、この異世界の馬車はどんなサスペンション構造なのか、現代の自動車並みに振動が全然なかった。
これなら、お尻も痛くならなそう。
(うん、快適だね)
内心、少し笑ってしまう。
余裕ができた僕は、窓の外を見る。
貴族の高級馬車は王都の車道を滑らかに走り、交差点では、手信号をする交通整理の兵士も優先的に通してくれたりする。
(わぁ、貴族特権)
やがて、馬車は貴族街に入る。
舗装された道は広く、建物は敷地も造りも立派になり、景観全体も美しく、巡回の騎兵隊も多く目に入った。
ただ、歩道に人は少なく、
(ああ、貴族は普通、歩かないのか)
と、気づく。
だからか、見かけるのは人よりも車の方が多い。
そうした車たちの1台となる僕らの馬車は、フィーンレイド王家の住まう『天空城』に近い区画へと向かっていく。
そして、1軒の屋敷の前に到着。
(おお……大豪邸……)
前世の野球場とかサッカー場が何個か入るぐらいの敷地面積で、綺麗な庭園などが広がる中央に大きなお屋敷が建っていた。
門前の守衛2人が門を開け、馬車と護衛騎兵が敷地内に入る。
芝生の広い前庭に設置された石畳の長い道を通り、やがて、噴水の先にある屋敷の玄関へ。
ギギィ
馬車が停まる。
僕らは足台を使い、降車する。
(ほわぁ……)
僕は、豪邸を見上げて唖然。
すると、豪奢な玄関扉が開き、使用人らしい人たちが左右に並びだすと、最後にその中央に一際存在感を放つ大きな男の人が立った。
ブォ……ッ
強い風が吹きつけたように感じる。
「――よく来たな、炎帝よ」
通りの良い、渋い声。
赤毛の美女も前に出て、
「おお、将軍」
と、両手を広げる。
ああ、うん。
(やっぱり、あの人が――)
確信する僕。
官民の王国最高位を得ている2人が気さくに挨拶をし、握手を交わす。
そして、彼の視線が僕らに向く。
視線を合わせ、
「ふむ、貴殿らがそうか。今日は良く来てくれた。私はガンター侯爵家当主のダレイオス・ガンターと言う。さぁ、まずは我が屋敷へと入ってくれ」
と、力強く笑ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
(背、高いなぁ)
王国の大将軍は、2メートル近い大男だった。
貴族服の上からでも筋骨隆々なのがわかり、生地が可哀想な部分もある。
年齢は40歳前後かな?
レオナックさんと一回り違うぐらいだと思う。
髪は白銀で、目は蒼い。
年齢は重ねているけれど、歩く姿は重心が安定し、分厚い背中には重厚感もあり、強者の風格を感じさせた。
彼を先頭に、僕らは応接室に通される。
(うん、豪華)
さすが侯爵家といった広さと美しさ、そして、高級そうな家具、調度品である。
促され、ソファーに座る。
将軍さんは笑い、
「謁見がなければ、酒でも酌み交わしたい所だがな」
「阿呆」
彼の物言いに、旧知の美女が呆れる。
え~と、
(笑う所かな?)
多分、僕らの緊張をほぐすための言葉なんだろうけれど、姉妹も無反応で意外と滑っている。
気づき、
ゴホン
将軍さんは、1度、咳払い。
仕切り直すように、
「さて、改めて確認させてもらおう。――まず、貴殿らは、この炎帝レオナック・オルンの仲間で相違ないな?」
「あ、うん」
「はい」
「……です」
僕らは頷き、
「私は銀印の冒険者、クレティーナ・レヴィン。こちらは妹のパルシュナ・レヴィンになります。お見知りおきを」
と、隣の美女は丁寧に頭を下げる。
静かに、気後れもなく、その所作の美しさに将軍さんも感心したようだ。
大きく頷き、
「なるほど、貴殿が霊槍の姫君か」
「…………」
「霊槍と雷剣の姉妹の噂は、私も聞いておる。そうか、炎帝の仲間らしい実力と胆力を秘めているようだな。うむ、実に頼もしいことだ」
と、豪快に笑う。
炎帝のお姉さんも、
「当然じゃ」
と、満足げに頷く。
姉は表情を変えず、人見知りの妹は少し居心地が悪そうだ。
と、将軍さんが僕を見る。
ジロッ
(!?)
瞬間、身体の芯が痺れた。
ただ視線を向けられただけなのに、全身が警報を発したように緊張し、口の中が渇く。
何だ、これ?
下っ腹にグッと力を込め、耐える。
彼は、
「ほう……?」
と、呟いた。
「私の視線に耐えるか。ふむ、やはりただの子供ではないようだな」
「え?」
「将軍、戯れはやめよ」
楽しげな彼に、レオナックさんが注意する。
彼は苦笑し、
「おや、炎帝レオナックともあろう者が、実に優しいことを言うではないか。何も威圧した訳ではない。ただ、静かに私の武威を当てただけだぞ」
「それで、気を失う新兵もあろうが」
「まぁ、たまにな」
「……全く」
悪びれぬ将軍さんに、レオナックさんも嘆息だ。
姉妹も、反応に困った様子。
(え~と)
何か試されたってことかな?
将軍さんはもう1度、僕へと向き直る。
今度は、視線の圧はなく、
「まぁ、すまなかったと謝っておこう」
「…………」
「だが、私はフィーンレイド王国の将軍でな。国王陛下との謁見を行う以上、その人物の人となりを確認するのも仕事なのだ」
「あ、うん」
僕は頷く。
別に、怒ることでもない。
「僕、合格?」
「そうだな」
彼は頷いた。
「緊張は感じたが、私の武威に対して恐怖はなく、そうして試されたことへの怒りや反発もない。ただ、あるがままに平然としている。――若いが、大したものだ」
「…………」
「謁見は許されよう」
「そっか」
よかった。
僕も安心して、笑ってしまう。
そんな僕の様子に、王国の将軍さんは蒼い瞳を細める。
そして、
「話は聞いている」
「ん?」
「貴殿の頭には『葉』が生えると。そして、それは『護国の神樹』の若葉である可能性が高いとな」
「あ、うん」
「今、私にも見せてもらえるか?」
「…………」
一応、レオナックさんを見る。
姉妹も彼女を見る。
「構わぬ、シーナ」
僕らのリーダーである美女は許可を出した。
(そう)
「うん、じゃあ見せる」
僕は頷き、青い瞳を伏せる。
息を吐き、
ニョキン
全員の視線が集まる中、金髪から2枚の『葉っぱ』を出したんだ。




