063・レオナックの過去
僕と姉妹は、王都の北部へとやって来た。
更に北側にはフィーン湖があり、特に天空城も近い中心部は、貴族街や行政の建物も立ち並ぶ区画となっている。
通りを歩く、巡回の警邏も多い。
(ほへぇ~)
と、小市民の僕は周囲を見回しちゃう。
商業区などと違い、落ち着いた雰囲気で、歩く人や通る馬車なども上品で高級に見える。
やがて、
「ここです」
と、姉妹が足を止めた。
目の前には、鉄柵に覆われた3つの塔がある。
柵の内側には、芝生と木々、草花の庭園が広がり、その奥に見える塔自体も美しく、3つの各塔の間の空中で2本ずつ、連絡通路が繋がっている。
柵には門と守衛室があり、守衛さんが2人いた。
姉妹と向かい、
「失礼、友人を訪ねてきたのですが」
と、クレティーナさんが用件を伝える。
全員、守衛室に案内され、僕らの氏名、友人の名前、来訪目的、相手はこの来訪を知っているか、などを確認され、専用用紙に記入させられる。
最後に、右手の冒険者印も提示。
(う~ん、凄い厳重な警備態勢だね?)
面倒で、でも、頼もしい。
特に、見知らぬ人々が押しかけ、持ち家を手放したレオナックさんなどは安心だろう。
で、5分ほど待機。
塔にいるレオナックさんに連絡してくれたらしく、
「確認が取れました。どうぞ、中へ」
と、ようやく許可が下りた。
庭園の中の石畳を歩き、教えられた塔の1つへ。
広いエントランスには、コンシェルジュのいる受付があり、大きな絵画や花の飾られた花瓶、そして、水の流れる噴水まであった。
まるで、超高級ホテルだね……。
奥に行くには、更に扉があり、また守衛さんもいる。
僕らはコンシェルジュさんに声をかけ、門の守衛さんから連絡が届いていたのか、すぐに奥の扉を開けてくれた。
扉を抜け、奥へ。
広いフロアに通路があり、いくつかの扉と階段が見える。
周囲を見回す僕に、
「レオの部屋は、最上階にあります」
「へ~、1番上?」
さすが、金印様だね。
クレティーナさんは、
「はい。ただ、階段で昇るのは大変ですから、あちらの昇降機を使いましょう」
と、通路の奥を指で示す。
昇降機?
(え……エレベーターがあるの? この異世界に?)
おお~、凄い。
前世と同じ文明利器だ。
実際、行ってみると昇降機の扉があり、そばに専用の係員がいる。
目的の階数を伝え、中に入ると、壁の一面はガラス製で外の景色が眺められ、階数指定はダイヤル式になっていた。
係員さんが操作し、動き出す。
シュゥン
音は静か。
動力は、やはり魔力式なのかな?
滑らかに上昇し、やがて、静かに停止する。
(うん、前世のエレベーターと、全然、変わらないや)
なんか感動。
目を輝かせる僕に、姉妹の姉は微笑み、妹は肩を竦めていた。
最上階に着き、係員が扉を開く。
姉妹と共に3人で降りると、目の前には短い廊下があり、その突き当たりに扉が1つあった。
だから、気づく。
(最上階は、部屋、1つだけなんだ?)
つまり、レオナック・オルン専用の階層ということになる。
うわぁ……、
(本当、凄いや)
あの人、本物のセレブだったんだね――と、今更、再認識してしまう。
すると、その時、
ガチャッ
その扉が開き、
「おお、もう来ておったか」
と、赤髪のセレブ美女が姿を現した。
襟元のボタンを外し、緩めた白いシャツにズボンという飾らない服装で、豊かな赤毛の髪は少し乱れている。
何となく、日常の格好っぽい。
その姿を見て、何だか安心する。
(うん)
僕は頷き、
「こんにちは、遊びに来たよ、レオナックさん!」
と、姉妹と一緒に笑ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
急な来訪だったけど、レオナックさんも笑顔で僕らを迎えてくれた。
「さぁ、入れ」
「うん」
お邪魔しま~す、と、彼女の案内で玄関に入る。
(おお~……広~い)
玄関だけで、小さな部屋みたい。
その奥にはリビングフロアが広がり、立派なテーブルとソファーが並んだり、観葉植物や絵画が飾られたりしていた。
フロアの右奥は、カウンターキッチンになっている。
正面の壁は、大きな1枚ガラス。
透明度の高いガラスの向こうには、青空に浮かぶ天空城やその城や空を反射して映すフィーン湖、それに面する美しい王都の街並や遥か遠方の山々まで見渡せた。
部屋は、他にもたくさん。
複数の客室、寝室、2種類の浴室、トイレ、トレーニング室、武器等の保管庫、他色々と……え、何部屋あるの?
うん、
(まさに、人生勝ち組の住居だ……)
その凄さに、小市民の僕は唖然としちゃう。
玄関で室内履きに履き替えた僕らは、リビングの大きなソファーに座る。
(わ……?)
背もたれが沈む。
や、柔らかぁ~い。
その間に、部屋主の赤い髪のお姉さんは、冷蔵庫から冷えた果実水を用意してくれて、僕らの前のテーブルに置いてくれた。
「あ、ありがとう」
僕はお礼を言う。
彼女は笑い、
「構わぬ。しかし、今日は突然どうした? 何かあったのか?」
と、聞かれた。
僕らは、事情を説明。
僕が国王様に会うための礼服がなく、購入したこと。
その帰り、近くにレオナックさんの暮らす住宅塔があると聞いて、興味もあり、思わず遊びに来てしまったこと。
ついでに、
「ここの美味しいお昼も食べたくて~」
と、最後に少女が暴露する。
パルシュナの言葉には、さすがの金印の女傑も苦笑してしまう。
その姉のクレティーナさんも「すみません」と謝るが、妹を止めなかった以上、彼女も同意している訳である。
実は、僕自身も、
(こんなセレブの暮らす施設のルームサービスって、どんな料理が出るのかな?)
と、興味津々だ。
僕ら3人の期待する様子に、レオナックさんは息を吐く。
「全く……仕方のない奴らじゃの」
と、苦笑する。
すぐに大きく頷き、
「わかった。で、何が食べたい?」
と、受け入れてくれた。
大食い姉妹は、
「よしっ、やったわ!」
「ふふ、ありがとうございます、レオ」
と、喜ぶ。
僕も笑い、
「ありがとう、レオナックさん。――できたら僕は、料理は普段、レオナックさんが食べてるのと同じ物を食べてみたいなぁ」
と、希望を言う。
彼女は金色の目を丸くし、すぐに笑う。
「そうか」
「うん」
「そっちの姉妹は?」
と、姉妹を見る。
彼女たちは、
「では、私はシーナと同じ物を」
「私も何でもいいけど、とにかく大盛りでお願いね!」
と、要望する。
部屋主のお姉さんはまた苦笑し、もう1度、「わかった」と頷くと部屋の奥の壁にある小さな石板に触った。
ヒィン
石板の表面に、光のラインが灯る。
数秒し、
『――はい』
と、声が響く。
(おお、音声通話機?)
驚く僕の前で、
「すまぬが、ルームサービスを頼みたい」
と、レオナックさん。
そして、6人前の料理――姉妹で4人分――を注文し、「ああ、2人分は大盛りでの」とちゃんと付け加える。
やがて、部屋前の鐘が鳴り、料理が届く。
(おお……!)
専用のスタッフが入室し、テーブル上に料理を並べてくれる。
やはり、手際が良い。
そして、一礼し、去っていく。
テーブル上には、ステーキなどの肉料理を中心に海鮮のパスタや丸いベーグルパン、野菜のマリネ、フルーツ盛り合わせ、ヨーグルト、飲み物としてミルク、果実酒などの瓶が置かれている。
(ほわぁ……)
並んだ料理は、シンプルだけど高級レストランで出されるような質の良さを感じてしまう。
え、無料で食べていいの?
レオナックさんに、代金、支払った方が良くない?
と、聞くと、
「阿呆、要らぬわ」
と、呆れられた。
姉妹曰く、
「むしろ、レオはお金が溜まる一方で困るタイプなんですよ」
「そ。遠慮は無用よ」
「ええ~……」
僕は、赤毛の美女を見ちゃう。
彼女は苦笑し、
「まぁ、そう言うことじゃ。――ほれ、子供が遠慮などするな。さぁ、食え食え」
パン
と、背中を叩かれた。
少し咳き込む。
(でも、そっか)
そこまで言うなら、遠慮なく。
僕は頷き、
「うん! ありがとう、レオナックさん。じゃあ、いただきます!」
「うむ」
白い歯を見せ、彼女も笑った。
僕はナイフとフォークを手に取る。
いざ、実食。
パクッ
(っ……美味いっ!)
やはり予想を裏切らぬ美味しさで、レオナックさん、毎日、こんな料理を食べられるのかと感動してしまう。
ハグハグ モグモグ
手が止まらず、夢中で食べる。
レヴィン姉妹も同様らしく、姉は上品に、妹は豪快に食べ続ける。
その様子を眺め、
「……ふふっ」
赤毛の美女は柔らかく微笑むと、瓶の果実酒の中身をグラスに注ぎ、満足そうな表情で喉の奥へと流し込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
僕らは、美味しい料理を堪能する。
そして、食事をしながら、
「へ~? じゃあ、掃除も洗濯も、お願いすれば塔の管理スタッフさんがやってくれるの?」
「うむ、そうじゃの」
頷く、勝ち組のお姉さん。
優雅にお酒のグラスを傾け、
「まぁ、料金はかかるが、頼めば買い物や各所への連絡、雑用など、基本、何でもやってもらえるの」
「そうなんだ? 凄いんだね」
「うむ、そうじゃな」
ご本人も認め、頷く。
と、姉妹も食事の手を止め、口を開く。
「選ばれた者だけが入れるギルド運営の住宅塔ですからね。設備、警備、サービス、どれも1流です」
「でも、入居条件、めっちゃ厳しいけどね」
「へぇ~?」
やっぱ、厳しいんだ。
クレティーナさん曰く、冒険者のランクはもちろん、過去数年間の実績、収入、周囲の評判、ギルドへの貢献度、忠誠心など、総合的に判断、審査されるそうな。
僕は、赤毛の美女を見る。
「その合格者」
「じゃの」
と、笑う。
そして、姉妹の姉の方を向き、
「ま、今のティナなら充分、入居できると思うがの」
「私は結構です」
「ふむ、そうか?」
「はい。レオには悪いですが、私はまだせっかくの持ち家を手放す気はありません。それに……」
と、彼女が僕を見る。
(???)
僕は首をかしげる。
「それに……余人の介入なく、シーナと暮らせる今の環境を失う気もありませんから」
と、はにかんだ。
あ……。
その視線の甘さに、僕の顔も熱くなる。
(えへへ)
僕は喜び、
「姉上~……」
その妹は複雑そうな顔である。
そして、レオナックさんは少し驚いた表情で、僕とクレティーナさんを交互に見る。
苦笑し、
「ふむ……そうか」
と、頷いた。
やがて、食事も終わる。
連絡すると、2名のスタッフさんが現れ、食べ終わった食器を片付けてくれる。
(はぁ~、本当、至れり尽くせりだね?)
僕は半ば感心、半ば呆れてしまう。
そのあとは、下げた食器の代わりに持ってきてもらった紅茶セットのお茶を淹れ、全員で飲む。
(はふぅ)
思わず、吐息が漏れる。
食後でもあり、少しまったりした時間が流れていく。
高層の窓からは、王都に暮らす人々や車両が動いている様子など、忙しい都会の景色を遠く見下ろせた。
視線を動かせば、
(あ……天空城)
湖の上空に浮かぶ、綺麗なお城が目に入った。
――明日、あそこに行く。
そう思うと、何だか不思議な光景に思えた。
明日、か。
僕は、レオナックさんを振り返る。
「あの、レオナックさん」
「ん?」
「明日、まずダレイオス将軍っていう人に会うんだよね? その人って、どんな人なの?」
と、聞いてみた。
彼女は、少し目を見開く。
姉妹も僕を見て、それから、レオナックさんの方を向く。
「そうじゃの」
数秒考え、彼女は言葉を選ぶように答える。
「フィーンレイド王国を代表する大将軍じゃな。王国のみならず、周辺国にも名が知られておる。隣国の崩壊時には軍を率い、魔物の大群から国境を守り、また飛来した古竜種の討伐なども成功させた多くの実績ある御仁じゃ」
「やっぱり、強いの?」
「強い」
王国最強の冒険者は、断言する。
「個人の武なら、我も負けぬ」
「…………」
「じゃが、将軍の強さの真価は、大局を見る目と用兵じゃ。万の兵を手足のように扱い、天から見たような差配で敵を圧倒する。こればかりは、我にもできぬ芸当よ」
「へぇ……」
「また人格者でもある」
「…………」
「義を重んじ、情に厚い。しかし、悪は許さぬ。……じゃから、まぁ、敵も多いがの」
と、最後は苦笑した。
(そっか)
僕は頷く。
姉妹を見て、
「2人も会ったこと、あるの?」
「ないわ」
「ええ、直接は」
直接は?
「古竜討伐の遠征からの帰還時、王都の大通りを王国軍が凱旋しているパレードで、先頭を行く馬上の御姿を見たことはありますので」
「ああ」
「その際も、たくさんの王都民から声援が飛んでいましたね。国民の人気も高い将軍です」
と、微笑む。
(そうなんだね)
彼女の言葉に、僕も頷く。
すると、そんな僕と姉妹の様子を、レオナックさんは眺め、1度、お茶をすする。
息を吐き、
「――まぁ、その将軍と我は、実は20年来の古い知己でもあっての」
と、言い出した。
(へ……20年?)
20年前って、レオナックさん、まだ7歳じゃ……?
え、その時からの知り合い?
(……どういうこと?)
僕は、少し混乱する。
姉妹も初耳だったのか、驚いた顔をしている。
赤毛の美女は、
「これは、あまり他人に話したことはないのじゃが、こう見えて、我はフィーンレイド王国にあるオルムンド公爵家の血筋であっての」
と、口にした。
(は?)
公爵家の血筋って、レオナックさんが……?
は、はぁああ~っ!?
◇◇◇◇◇◇◇
公爵家。
前世の知識と同じなら、貴族の最高位にして王家の血にも連なる高貴な家柄である。
……で、
(今、目の前にいる赤毛の美女が……レオナックさんが、その公爵家の人なの?)
僕は、唖然だ。
姉妹も同様で「初耳です」「ちょ……っ、聞いてないわよ、レオ!?」と、紫色の目を丸くして驚いている。
当のレオナックさんは苦笑し、
「うむ、今、始めて言ったの」
と、軽く言う。
そして、僕らを見回すと、
「安心せい。すでに廃嫡されておる身じゃ」
と、続けた。
廃嫡って……。
(ま、また新たな情報を……!)
全然、安心できるか!
僕と姉妹は、赤毛の美女をジ~ッと据わった目で睨む。
「む……?」
その視線に、彼女も気づく。
さすがに簡単に言い過ぎたと思ったのか、少しバツが悪そうに赤毛の豊かな髪をガシガシと手でかき始める。
そんな彼女に、僕は言う。
「説明して、もっと詳しく」
「はい」
「そうよ、さっさと吐きなさい」
同感、と姉妹も頷く。
僕らの追及に、レオナックさんは苦笑し、嘆息する。
「まぁ、端的に言えば、我は昔々、公爵令嬢じゃった。しかし、普通の令嬢と違い、芸術や教養、社交ダンスやマナーなどに興味がなく、むしろ、剣術を好む変わった娘じゃったのじゃ」
(ほほう?)
剣好きの女の子。
彼女らしいと言えば、らしいけど。
「刺繍や歌、踊りなどを習うより、家の騎士たちの訓練に混じり、剣を学んだ」
「うん」
「じゃが、そうした行為は、当然、両親には疎まれての」
「…………」
「剣を持つことを禁じられたが、我も隠れて剣を磨いての。やがて、腕を試したくなり、1人で山野を駆け回り、魔物を狩り始めた」
「…………」
ええっと……。
(公爵家のご令嬢が剣を片手に、周囲の山とかに入って、1人で魔物を殺して回ったの?)
想像し、僕は唖然。
なんて、常識外れの人だろう。
姉妹も呆れ気味だ。
僕らの視線に気づき、レオナックさんも苦笑する。
息を吐き、
「12の頃か。貴族の付き合いで、若かりし頃の将軍と出会った。当時はまだ、新人の一騎士であったがの」
「うん」
「まぁ、その頃には、我の奇行は社交界で知られておっての。当然、ダレイオス・ガンター侯爵令息の耳にも入っておったのじゃが……かの御仁だけは、我が剣を好むことを認めてくださっての」
「へぇ~?」
「素直に嬉しかったの」
と、笑う。
その表情は、うん、どこか乙女の顔だった。
(そっか)
何となく、当時の彼女の心情を感じさせ、僕も甘酸っぱい気持ちになる。
姉妹も同様で。
「じゃが」
と、その乙女の顔が消える。
「我の両親は、やはり許さなかった」
「…………」
「まぁ、公爵家としては当然なのじゃが、我も譲れなくての。14の時、公爵家の騎士全員と剣を合わせ、1度でも負ければ剣を捨てると誓わされた」
「え……」
「我も自分の道を歩むため、戦うことにした」
「…………。結果は?」
「全員に勝った」
「…………」
うわぁ……。
公爵令嬢のレオナック・オルムンドは、当時から『金印の冒険者レオナック・オルン』の片鱗を見せていたらしい。
14歳の少女が、大人の騎士たち全員に勝つ。
(どんな英雄譚?)
絶対、公爵家のご令嬢の話じゃないよね。
姉妹の姉は言う。
「では、公爵家は貴方を認めてくれたのですか?」
「認めた」
「…………」
「我が剣を持つことを。そして、認めたからこそ廃嫡とされた」
(え……?)
僕は驚き……でも、彼女の表情で気づく。
公爵家という重い立場がある以上、貴族社会の中で奇行を貫く娘は、きっと許容できない瑕疵なのだろう。
個人の家庭ではない。
家に仕える者たち、領民、寄子の貴族家など、関わる大勢の人々の生活を守る責任ある公爵家を守り抜くため、ご両親もそう決断せざるを得なかったのかもしれない。
娘への愛情はある。
でも、公爵家の立場と責任もある。
(悩み、迷い、そして、娘の剣の腕を認めたからこそ、公爵家という『檻』の外へと追い出したんだね)
きっと、お互い辛かったと思う。
だけど、
(レオナックさんは、それでもその道を自分で選んだんだ)
恵まれた環境、愛する家族、平穏な日々、輝かしい未来、その全てを捨てて、己の信じた生き方を貫く……14歳の少女が、なんて強い覚悟だったんだろう。
その道の果てにある、今の強さ。
……うん。
レオナックさんの強さの秘密の一端が垣間見えた気がするよ。
そして、
(今は、金印の冒険者だもん)
決断は、間違っていなかった。
いや、間違っていなかったと言わせるだけの結果を出すために、必死にがんばったのかもしれない。
不安も迷いもあったと思う。
だけど、最後まで、己のあり方を貫き通したんだね。
僕は、目の前の美女を見つめる。
「凄いね、レオナックさん」
「む?」
「その生き様、格好いいよ。僕、尊敬する」
「ふむ、そうか」
彼女は苦笑する。
僕は「うん」と頷き、
「それに、当時はともかく今ならご両親もきっと、レオナックさんの選んだ生き方を喜んでくれてるんじゃないかな?」
「…………」
彼女は、金色の目を見開いた。
小さく笑い、
「どうかの?」
「…………」
「家を出てから、1度も連絡をしたこともない。親不孝な娘じゃしの」
と、苦そうに続ける。
僕は、
「大丈夫」
と言った。
レオナックさんは、僕を見る。
「公爵家だから表向きでは何も言えないかもしれない。だけど、親として、心の中ではレオナックさんの生き方を褒めてくれるよ。だって、金印だよ? フィーンレイド王国、最強の冒険者の1人になったんだもん」
「…………」
「お互い素直になれなくても、きっと内心で応援してくれてると思う。うん、僕が保証するよ」
と、笑顔で言い切る。
赤髪の美女は、
「シーナ……」
と、何だか茫然とした様子で僕を見つめた。
と、その時、
「アンタの保証に何の価値があるのよ?」
と、パルシュナが呆れたように言う。
僕らの視線が集まる。
少女は肩を竦め、
「でも……まぁ、実はアタシも、そんな気はしてるんだけどね」
ニヤッ
と、悪戯っぽく笑った。
(……君って奴は)
僕は苦笑。
少女の姉は、妹の髪を優しく撫でる。
そして、自分より年上の美女を見つめ、微笑みながら頷いた。
「おぬしら……」
赤毛の美女は、茫然と僕らを見つめる。
すぐに笑った。
「ふっ、全く、好き勝手を言いよって」
ガシガシ
少し乱暴に、赤毛の髪をかく。
珍しく恥ずかしそうな感情を大きく示し、頬を赤らめる彼女を僕らは優しく見守ってしまった。
やがて、彼女は大きく息を吐く。
「話が逸れたの」
「ん……?」
「本題の将軍とは、まぁ、そうした関係で古くからの知己での。個人的な交友は続き、家を出たあとも何度か会うこともあったのじゃ」
「うん、そっか」
僕は頷いた。
14歳で廃嫡され、世間に放り出された元貴族の少女。
(きっと、その将軍さんは、そんな当時のレオナックさんの支えとなってくれた人の1人なんだろうね)
でも、金印と将軍。
どちらも『冒険者』と『軍人』の王国最高位じゃないか。
2人とも、凄いね。
そして、あのレオナックさんも認める人物。
(――ダレイオス・ガンター将軍、か)
いったい、どんな人なんだろう?
期待し、想像が膨らむ。
(うん!)
僕は大きく頷き、3人の顔を見る。
笑って、
「僕、明日、将軍さんに会うのが、凄く楽しみになったよ!」




