表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/71

062・年上の恋人

(ほわぁ……)


 夢見心地で、僕は脱衣所をあとにする。


 熱い……。


 風呂上がりだからじゃなくて、いろんな意味でのぼせてしまった。


(……キス、しちゃった)


 クレティーナさんと。


 えっと……これは、あれかな?


 つまり、その、だから……僕に、年上の恋人ができたってことだよね?


 恋人……。


 あ、あんな美人のお姉さんが……!


(わぁ~っ!)


 嬉し恥し、僕は廊下で1人赤面しながら、両手で顔を覆って悶えてしまう。


 ちなみに、そんな僕の恋人――でいいよね?――になってくれたクレティーナさんは、「私は少し遅れて出ますね」とまだ浴室に残っていらっしゃる。


 ドキドキ


 次、顔を会わせた時、どうしよう?


 僕は、今から緊張し――、



「あ、お風呂、出たの?」



(のわぁっ!?)


 突然、廊下の奥から声をかけられた。


 ビックゥ


 と、僕は背筋を跳ね伸ばし、恐る恐る振り返ると、そこにはクレティーナさんの妹が立っていた。


 首にタオルをかけ、片手に冷水のコップを持っている。


 風呂上がりで、まだ髪も湿り、火照った身体を冷ますように、彼女はその冷水を美味しそうに飲む。


 そして、


「ね、姉上、知らない?」


 と、聞かれた。


 ドキッ


 僕の心臓が跳ねる。


(今まで、一緒のお風呂に入って、キスしてました……)


 なんて言えないよ!


 少女は周囲を見て、


「部屋にも、台所にもいなかったのよね。どこ行っちゃったのかしら?」


「え、えっと」


「シーナ、知ってる?」


 と、僕を見る。


 僕は咄嗟に、


「あ、あの、今、僕、お風呂上がりで、入れ違いでクレティーナさん、入っていったよ」


「そうなの?」


「う、うん」


「そ。ならいいわ」


 と、彼女は答える。


(ホッ)


 誤魔化せたかな?


 と、少女の眼鏡の奥の瞳が、僕を疑わしそうに見る。


「……何よ?」


「え?」


「今の反応、何か変。……アンタ、なんか隠してる?」


 ジロッ


 す、鋭い……!


 僕は首を振る。


「か、隠してないよ!」


「本当~?」


「いや、その……僕が入った湯船に、クレティーナさんも入るのかと思ったら、妙な気分になっただけ」


「…………」


「…………」


「変態」


(ぐふっ)


 クリティカルヒット。


 軽蔑の眼差しに、僕は心の中で吐血する。


 少女は「ふん」と鼻を鳴らし、


「こんな奴と同じ家で暮らすなんて、本当、最低~! は~、やだやだ、気持ち悪~い」


 と言いながら、廊下の奥に去っていく。


 うう……。


 で、でも、誤魔化せた。


(今はそれでいいじゃないか、うん)


 と、自分を慰める。


 何しろ、僕は。


 …………。


 えへっ。


 僕は、あのクレティーナさんの恋人になれたのだから。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 3人で、夕食作りを行う。


 美人のお姉さんも割烹着に着替え、洗い上げの髪も結い上げて、若女将にクラスチェンジだ。


(う~ん、素敵)


 そんな僕らは台所に集まり、


「シーナは、何か食べたい物がありますか?」


 と、若女将に聞かれた。


 え? え~と……。


 少し考え、正直に答える。


「クレティーナさんの料理は全部美味しいから、作ってくれる物は何でも食べたいよ」


「まぁ……」


「えへへ」


「うふふ、もう、シーナったら」


 と、笑い合う。


 その甘々な雰囲気に、パルシュナは怪訝そうな顔をしていたけどね。


 ともあれ、調理開始。


 やがて、1時間半ぐらいで完成する。


 本日は、半熟目玉焼き&チーズ乗せハンバーグとポテトフライ、野菜の付け合わせ、コーンポタージュ、ホカホカの白米、デザートはバニラのアイスクリームで、スライスされた果実と細長いウエハースが添えてある。


(うん、美味しそう♪)


 と、自画自賛。


 いや、ほとんど、クレティーナさんが作ってくれたんだけどさ。


 全員でリビングに集まり、


「では、いただきましょう」


「うん、今日もありがとう、クレティーナさん。――いただきます」


「いただきまぁ~す!」


 僕と姉妹は手を合わせ、食事を開始する。


 ハムッ モグモグ


(く~っ!)


 思った通り、今日も最高だ。


 このお姉さん、本当、料理上手だね。


 しかも、僕のこ、恋人……?


 いやぁ、恋人のお姉さんが作ってくれた料理と思うと、余計に美味しく感じるよ。


(えへへ)


 僕は笑顔で、


 パクパク モグモグ


 と、料理を頬張る。


 パルシュナも満面の笑顔で食事を続け、僕らの様子にクレティーナさんも優しく笑う。


 と、


「あら、シーナ」


(ん?)


「頬にソースがついていますよ」


「え、本当?」


 ありゃ、気づかなかったな。


 少し恥ずかしい。


 すると、


「ふふ、私が取りますね」


 と、白い指が僕の口の横を優しく撫でる。


 そして、


 パクッ


 彼女はその指を口に咥え、意外と長い舌でゆっくりとソースを舐め取る。


(あ……)


 僕、唖然。


 妹も「姉上!?」と驚きの表情。


 でも、クレティーナさんは「ふふ、少し甘いです」と、どこか色っぽく笑う。


(はわぁ……)


 その表情に、僕の頬も熱くなる。


 と、年上のお姉さんって……凄い!


 彼女はそれからも、


「飲み物はいかがですか?」


 とか、


「ああ、その料理は私が取り分けてあげましょう。シーナは何もしないでいいですよ」


 とか、


「今日も、あ~ん、しますか?」


 とか、お世話してくる。


(はわわっ)


 あまりの献身性に、シーナ君もタジタジだ。


 母性本能が強いのかしら?


 お姉さんの甘々な行動には、実の妹のパルシュナも若干、唖然とした様子だった。


「ぬぅ……?」


 僕ら2人を疑うように見てくる。


(バ、バレそう?)


 でも、クレティーナさんは気にした様子もなくて、


「2日後は、国王様にもお目見えしますからね。今の内にしっかり栄養をつけて、素敵なシーナを見せつけてやりましょう」


 なんて言う。


(あ、うん)


 そうだった、明後日だった。


 彼女との距離が縮まったことで、忘れていたよ。


 そして、ふと思い出す。


 あれ?


 姉妹へ、疑問を口にする。


「あの、国王様に会う時って、普段着でいいの?」


「え?」


「へ?」


「僕、普通の服しか持ってないんだけど……」


「まぁ……」


「はぁ~? マジで? ……さすがにやばくない?」


 2人は驚き、妹は眉をひそめる。


(や、やばいかな?)


 でも、確かに一国の支配者に会うのに、きちんとした礼服を着て行かないのも無礼と叱られそうだ。


 最悪、不敬罪で投獄?


 …………。


 か、考えたら、不安になってきたよ。


 と、僕の恋人さんが、


「わかりました。では、買いに行きましょう」


「え?」


「幸い明日1日、時間があります。オーダーメイドは無理ですが、既製品ならば、充分、間に合うでしょう」


「あ、うん」


 そっか、そうだね。


 僕は頷く。


「うん、そうする。ありがとう、クレティーナさん」


「ふふ、いいえ」


 僕のお礼に、彼女もはにかむ。


 そして、


「しかし、礼服姿のシーナですか……」


 と、頬に手を当て、


「ふふっ、きっと、とても素敵なのでしょうね。ああ……私も明日が楽しみです」


 なんて、夢見るように言う。


 …………。


 ええっと……。


(僕の恋人さんは、何だか僕のことになると色眼鏡がかかってしまうのかもしれない)


 僕は、妹の方を見る。


 目が合い、


 フルフル


 彼女は無言で、諦めるように首を振った。


(あ、はい)


 まぁ……でも、いいか。


 それも、僕への愛があるからだろうし……えへへ。


 そんな風にして、僕らは明日、王都の商業区へ買い物に出る約束をしながら、夕食の時間を過ごしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、僕と姉妹は予定通り、商業区へと出かけた。


(人、多いなぁ)


 さすが、王都。


 たくさんの人波に揉まれながら、クレティーナさん、パルシュナと共に商店の並ぶ通りへと辿り着く。


 服屋も数店ある。


 高級店から一般向けの店まで様々だ。


(へぇ~)


 と思いながら、店先を眺める。


 やがて、


「この店にしましょう」


 と、クレティーナさん。


 外見の印象から、結構、高級店っぽい。


 お店の入り口に店員がいらっしゃり、一瞬、僕らを見定めるような視線を向けたあと、営業用の笑顔を浮かべる。


「いらっしゃいませ」


「どうも」


「あ、お邪魔します」


「…………」


 美女は静かに答え、僕は会釈、少女は無言で入店する。


 店内には、綺麗な服が陳列されている。


(値札は……ないね)


 う~ん、怖い。


 でも、室内の雰囲気は落ち着いていて、上品な空気なのが僕でもわかった。


 最初の店員さんが、


「本日は、どのようなご入用でしょうか?」


「この子の服を」


 と、お姉さんを僕を示し、


「今度、国王陛下にお目通りすることになりまして、そのための服を用意しようと」


「国王陛下と……?」


 店員さんは、さすがに驚いた様子。


 僕をまじまじ見る。


(ども~)


 僕は曖昧に笑い、また会釈する。


「ただ時間がなく、本日中に用意したいのです。既製品で構いませんので、今日の内に調整して頂けますか?」


「なるほど」


 店員さんは頷く。


 しばし、頭の中で何かを考えている様子。


 やがて、もう1度頷き、


「かしこまりました。では、何着かご用意しますので、こちらへ。その中で気に入られた物がございましたら、そちらを調整させていただきます」


「はい、よしなに」


「よろしくお願いします」


 美人のお姉さんは頷き、僕も頭を下げる。


 やがて、試着会だ。


 何着か、試させてもらったけど、


(は~、高そうな生地)


 やはり、どれも高級品そうだ。


 いや、実際、高いのだろうけど……。


 だって、生地もいいけど、襟や袖に金糸や銀糸の刺繍があったり、縫製も細かく凄く作りが丁寧なんだ。


 値段、怖いや……。


 僕自身は、どの服でもいいと感じる。


 でも、僕の恋人であるクレティーナさんや店員さんにはこだわりがあるようで、1着ごとに感想を言い合い、別の服を用意してくる。


 何度、着替えたろう?


 見物している少女が、


「ふぁ~あ」


 と、欠伸しているのが視界の隅に入る。


(あはは……)


 ごめん、もうちょっと待ってね。


 やがて、ようやくお2人――僕は含まれない――のお眼鏡に適う納得の1着が選ばれる。


 お姉さんは頷き、


「うん、素敵です、シーナ」


 と、甘く笑う。


(ど、どうも)


 褒められると、やはり素直に嬉しい。


 落ち着いた紺の衣装で、襟、袖などに金糸の刺繍があり、滑らかな生地の綺麗なズボンと高級ブーツを履き、更に白く短めの上等なショールを羽織る感じ。


 鏡を見て、


(うん、悪くないんじゃない?)


 と、自分でも思う。


 前世と違う金色の髪にも似合っている気がする。


 あのパルシュナも珍しく「ま、いいんじゃない?」なんて言ってくれる。


 で、その服を店員さんに預け、調整を頼む。


 しばし、店内のラウンジで休憩だ。


 高そうなハーブ茶とお菓子が無料で提供される。


(わ~い)


 僕は、美味しく頂く。


 食べながら、


「そう言えば、2人は謁見用の服、持ってるの?」


 と、聞いた。


 姉妹は頷く。


「当ったり前でしょ?」


「私たちは、あのレオナック・オルンの仲間ですから。国王陛下に会うのは初めてですが、依頼主の貴族に会う機会は多かったので、そのために何着かは用意してあります」


「へ~、そうなんだね」


 理由も納得だ。


 そんな雑談を交わしながら、約1時間ほどで調整が終わる。


 試着し、


(うん、いい感じ)


 より動き易く、肩や腰回り、手足の長さにフィットしたように思う。


 僕の恋人さんも納得し、そして、その服を包んでもらう。


 で、お支払い。


「紋章払いでお願いします」


「かしこまりました」


 と、美女と店員さんが会話し、


 パァッ


 美女の白い右手の甲に、冒険者の証である銀色の魔法の紋章が浮かぶ。


 店内が淡く照らされ、


「なんと、『銀印』でいらっしゃいましたか」


 と、店員さんが感心したように言う。


 やがて、店員さんがタブレットに似た片側が透明な石の板を用意し、クレティーナさんが右手を当てる。


 ヒィン


 石の表面が光り、手形と紋章が残る。


 そして、数字が表示される。


「こちら、金額になります。よろしいですか?」


「はい」


「ありがとうございます」


 最後の確認にクレティーナさんが頷き、店員さんは一礼し、板の側面を操作する。


 ちなみに、表示されていた数字は、


『3300』


 だった。


 つまり、3300リド。


 日本円だと……うわ、33万円っ!?


(高ぁい)


 さすが、高級店だ。


 僕は、お姉さんの耳元で言う。


「あの、あとでお金、ちゃんと僕の口座から返すからね」


「え?」


 彼女は驚いた顔をする。


(え?)


「構いません。こちらは私が支払います」


「へ……?」


「昨日、私は一生、シーナの面倒を見ると心に決めました。なので、今回の服も私がシーナのために買ってあげたいのです」


「で、でも」


 言い募ろうとすると、


 ピトッ


 白い指が、僕の唇を押さえる。


 年上の恋人さんは甘やかに微笑み、


「どうか、このクレティーナに、私の可愛いシーナへと尽くす機会を与えてくださいな」


「…………」


 ずるい。


 そう言われたら、何も言えないよ。


 彼女の妹は驚き、呆れたように僕ら2人を見る。


 僕は赤面しつつ、


(……うん)


 と、諦め、頷く。


 そんな感じで、僕らは謁見用の服を購入。


 やがて、店内の店員さんたちに「ありがとうございました」と見送られながら、高級服屋を退店したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 姉妹と共に大通りを歩き、帰路に着く。


 時刻は、お昼前。


 どこかのお店に寄って、少し早い昼食にするか迷うような時間帯である。


 空を見る。


 青く、太陽が煌めき、快晴だ。


(……明日、国王様に会うのかぁ)


 と、ふと未来のことを思う。


 そのための服も33万円で買ったのだ。


 今更、ジタバタしても仕方ないのはわかっているけれど、でも、やっぱり色々と考えてしまうよね。


 僕は息を吐く。


 と、その様子を、隣のお姉さんがジッと見つめていた。


 そして、


「シーナ」


「ん?」


「せっかくなので、その新しい服を、レオにも見せに行きませんか?」


「え? レオナックさん?」


 僕は、青い目を丸くする。


 美人のお姉さんは「はい」と微笑み、長い髪を揺らして頷く。


「彼女の暮らしている高級住宅塔が近くにあるんです。10分もかからないので、もしよろしければ少し足を延ばしてみましょう」


 へ~、10分?


(そんなに近い場所にあるんだ?)


 姉妹の妹も、


「あら、いいわね」


 と笑う。


「レオの所、頼めば食事もルームサービスで届けてもらえるのよ。お昼時だし、ちょうどいいんじゃないかしら」


「え、そうなの?」


 凄い。


(本物のセレブが暮らす、超高級マンションみたいじゃないか)


 僕も興味が湧く。


「うん、レオナックさんの所、行ってみたい」


 と、姉妹に言う。


 お姉さんも笑い、


「ふふっ、はい、そうしましょう」


「よっしゃ、決まりね!」


 その妹も手のひらをパシンと拳で叩き、嬉しそうに言う。


 どんな場所かな?


(うん、楽しみっ)


 僕は、期待に胸を膨らませる。


 そうして買い物を済ませた僕と姉妹は、急遽、レオナックさんの家を訪問することにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
クレフィーンさんは周りの事が見えていないのか、危うく感じる時がある・・・いやまぁ、いずれはパルシュナとも話を通しておかなければいけないけどね・・・大丈夫、だよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ