006・ご縁を大事に
バッ
僕は、両手で頭を隠す。
(お、落ち着け)
まずは、頭の葉っぱを引っ込めて、
シュッ
手の中で、感触が消える。
よ、よし。
背を向け、頭をパッパッと払う仕草をして、振り返る。
「と、取れた?」
「…………」
「きっと、落ち葉がついてたんだね。あ~、恥ずかしいなぁ」
と、精一杯、笑う。
クレティーナさんはジッと僕を見つめ、笑わない。
カシャッ
手の中の槍を傾け、
「私の槍は、約5ギログほどの重量があります。あの遠方から、シーナはどうして私の元まで槍を投げられたのですか?」
「……ぅ」
「…………」
「え、えと、火事場の馬鹿力じゃないかな?」
「…………」
「ほ、ほら、あの時、クレティーナさん、殺されちゃいそうだったし……!」
両手を動かし、懸命に言い募る。
ジッ
紫水晶の瞳が、僕を見据える。
(な、なんか、心の中まで見透かされそう……)
ドキドキ
緊張で僕は固まる。
彼女は、
「…………。そう、ですね」
「え?」
「シーナは、私を助けてくれました。ならば、これ以上を問うのは恩義に反しましょう」
「えっと……」
戸惑う僕に、
ニコッ
彼女は微笑む。
(う、わ……)
本当、美人さんだ。
氷のような表情が綻ぶと、まるで美しい花が咲いたみたいだった。
ドキッ
と、胸が高鳴っちゃう。
赤くなる僕に、
「――シーナは、私の命の恩人ですものね」
と、彼女は甘く笑ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
(んんっ)
落ち着け、僕。
このお姉さんにペースを握られっぱなしだぞ。
コホン
咳ばらいを1つし、
「あの、僕も質問していい?」
「はい」
「クレティーナさんの方はどうしてこの森にいるの?」
「ああ、私は森の調査です」
「調査?」
僕は青い目を丸くする。
彼女は「はい」と頷く。
「この『豊穣の青き森』は、昔から狩猟や採取などの恵みを人々に与えてくれる平穏な森なのですが」
「うん」
「ですが、半年ほど前から魔物が増えまして」
「魔物が?」
「はい」
彼女は頷く。
地面に倒れる巨大熊を見て、
「特に最近は、この森に生息していなかった好戦的な大型種の目撃報告も、多数、上がっています」
「へぇ……」
「この『紅爪の大魔熊』も、本来はもっと北の山岳地にいる個体なんです。まさか、この森にいるとは……私も油断しました」
「…………」
少し悔しそうな声。
あ~、多分、想定外の魔物に突如襲われ、主武器の槍を落としてしまい、大ピンチになった……って状況だったのかな?
(調査も大変だ……)
彼女は息を吐く。
気を取り直したように、
「森の異変に対し、フィーンレイド王国はこの森の奥にある『護国の神樹』に何かあったのではと判断し、私たちに調査依頼が来たのです」
と、続けた。
トクッ
(?)
一瞬、胸が疼いた気がした。
気のせい?
内心首をかしげつつ、僕は聞く。
「あの、『ごこくのしんじゅ』って、何?」
「え?」
彼女は、目を瞬く。
驚いた様子で、
「シーナは、『護国の神樹』を知らないのですか?」
「う、うん」
「…………」
「…………」
「そうですか」
何だか、少し思案した様子。
やがて、
「大陸の各地には、大昔から巨大な樹が生えているんです」
「うん」
「その大樹たちは不思議な力を宿しており、周囲の魔物を弱体化、あるいは追い払う聖なる力を宿していました」
「ふむふむ」
「大昔の人々はその大樹のある土地で建国し、繁栄していきます。そして人々は、その大樹を『護国の神樹』と呼び、現在も敬っているのですよ」
「へぇ~?」
さすが、異世界。
(不思議な樹があるんだね?)
何となく、転生前に夢で見た光る大きな樹を思い出してしまう。
……関係、あるのかな?
少し考え、聞く。
「その『護国の神樹』がこの森にもあるの?」
「はい」
彼女は頷く。
「アルド大陸に現存する『護国の神樹』は7本。その内の1本が、このフィーンレイド王国の豊穣の青き森にもあります」
「へぇ~」
「ちなみに歴史上、『護国の神樹』が枯れると共に滅亡した国も多々ありますね」
「え~……」
本当、大事な樹だ。
と、そこで、最初の話を思い出す。
僕は、彼女を見る。
「あの、最近、この森で魔物が増えたんだよね?」
「はい」
「じゃあ、もしかして……ここの『護国の神樹』も枯れちゃったの?」
「わかりません」
長い髪を揺らし、彼女は首を左右に振る。
そして、
「その調査のため、私たちが王国から派遣されました」
「あ、そっか」
僕も頷き、
(ん?)
「私……たち?」
「はい」
「他にも人、いるの?」
「ええ、仲間が2人います。1人は私の妹ですね」
「へ~、妹さんも?」
「はい。捜索範囲が広いので、手分けをして調査をしていたのですが……私の方は、現状のこの森の危険度を甘く見てしまったようです」
と、紫色の目を伏せる。
(あ……)
あの熊さんか。
まぁ、確かに結構、危なかったもんね。
(でも、最後、槍を取り戻したら一瞬で倒したし、本来、実力的にはクレティーナさんの方が上なのかなと思うけど)
落ち込む美人さん。
意外と気にしてる?
(う~ん)
その表情も素敵だけど、
「でも、生きてるから」
「……え?」
「やり直しがきくなら、反省して同じ失敗しなければいいだけだよ。だから、元気出して」
ポン
と、励まし、彼女の腕を叩く。
「シーナ……」
驚きの表情で、彼女は僕を見つめる。
すぐ破顔し、
「はい、そうですね」
「うん」
「ありがとう、シーナ。ええ、貴方に助けられた命ですから、大事にしますね」
「うん、そうして」
僕も頷く。
(うんうん)
やっぱり美人は笑ってる方がいいね。
安心する僕に、
「シーナ」
「ん?」
「私はこのあと、仲間との合流地点に向かいます。なので、シーナも一緒に行きませんか?」
「え、いいの?」
「はい、もちろん」
彼女は頷く。
(やったー)
当初の目標、人里に出る――達成できそうだ。
喜ぶ僕に、
「シーナを1人、森に残していく訳にはいきませんから」
と、彼女は笑う。
(いい人だね~)
僕は決めた。
――このご縁、大事にしよう。
と。
クレティーナさんは、槍を持たない左手を伸ばしてくる。
優しく微笑み、
「では、参りましょう」
「うん!」
ギュッ
僕は頷き、その手をしっかりと握った。
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本日ももう1話、更新いたします。よろしくお願いします。




