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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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057・片鱗の神光剣

 カアアッ


 頭の2枚の葉っぱが、強く輝く。


 その光は周囲を照らし、まるで疑似的な太陽が地上に生まれたかのようだった。


『ギ……?』


 人喰赤鬼レッドオーガの歩みも止まる。


 驚いたように振り返り、その光量の強さに痛そうに目を細めた。


 トッ


 僕は、前に出る。


 そして、感じるままに『古樹の霊剣』を身体の前に右手のみで持ち、左手でその表面を撫でていく。


 ヒィィン


 撫でた部位から、剣身が光り出した。


 強い輝き。


 それは、枯れた『護国の神樹』の枝を光らせた時と同様で、でも今は、どこかに抜け落ちず、流し込んだ『聖気』が蓄積されているのを感じた。


(ああ……うん)


 歩きながら、思う。


 目の前の赤い猿鬼を眺め、


(僕は、なぜ……こんな弱い(・・)生物を怖がっていたのだろう?)


 そんな疑問を。


 奴の表情にも驚きが生まれ、それは、強い警戒へと変わる。


 ザッ


 僕へと向き直る。


 仕留めかけの獲物――クレティーナさんを後回しにし、腰を落として両手の爪を構えると、光る『葉っぱ』と『古樹の霊剣』を持つ僕へと全神経を尖らせ始めた。


 いい判断だ。


 そして、無駄なことを。


「……ふふ」


 僕は笑った。


 優しく、天使のように微笑む。


 けれど、その瞬間、人喰赤鬼は何かを察したように目を見開き、怯えと焦りの表情を見せた。


 ダンッ


 突如、身を翻し、崖へと向かう。


(お……?)


 逃げた。


 崖を登れば、僕は追いかけられない。


 安全圏へと逃げられる――奴は、そう思ったのだろう。


 ……馬鹿だなぁ。


(もう遅いんだ)


 お前は、僕の大切な人を殺そうとした。


 それも楽しんで……。


 そんな奴を、僕が逃がす訳ないだろう?


 息を吐き、


 ヒュッ


 両手に握る『古樹の霊剣』を下段に構え、左足を1歩前に出して腰を低く落とした。


 奴が、崖を登る。


 速い。


 でも、頂上までは遠い。


 少なくとも、


(それじゃ、間に合わないよ)


 僕は、冷淡に考える。


 パチチッ


 光る剣身の表面で、光の粒子が無数に弾けている。


 満タンだ。



「――はっ」



 僕は短く息を吐き、同時に『古樹の霊剣』を振り上げた。


 ヒュン


 光る剣先が描く弧。


 その前方に三日月型の光が生まれ、飛翔する。


 凄まじい速度で飛んだ『三日月の剣閃』は、そのまま崖を登る人喰赤鬼の背中に命中した。


 スン


 太い胴体が、上下に分かれる。


 1拍遅れて、


 バカァァン


 奥の壁面に大きな亀裂が刻まれ、岩盤を破壊しながら周囲へと吹き飛ばした。


 巨大な岩が落ち、地面に土煙が舞う。


 弾けた瓦礫は、川の水面にも落ち、何度も水柱が跳ね上がった。


 崖崩れが発生する。


 ズガガガ……ッ


 大量の土砂がこぼれ落ち、人喰赤鬼の2つになった死骸と共に、僕とクレティーナさんの方へと迫ってくる。


 それを見つめ、


 タン


 僕は、爪先で軽く地面を叩いた。


 瞬間、その意思を感じた周囲の植物が一斉に延伸し、土砂へと絡まり、その流れを押し留めてくれる。


 ザザザァ……


 僕らの1メートル手前で、巨大な土砂の壁は停止した。


(――うん)


 納得し、頷く。


 僕は、土砂から目を離すと、


 タタッ


 小走りに、倒れたままのクレティーナさんの元へと急いだ。


 到着し、隣にしゃがむ。


「ぅ……」


 息はある。


 出血も多いし、骨折もあるみたいだけど、生きてる。


 なら、


(治せる)


 僕は安堵し、その手に触れた。


 キュッ


 軽く握り、



「――治れ」



 青い目を伏せて、口にする。


 同時に『葉っぱ』で生み出される『聖気』の回復力が、損傷した彼女の肉体へと流れ込む。


 パアアッ


 その全身の輪郭が、淡く光る。


 苦しげだった表情が、柔らかくなり、浅かった呼吸が安定した。


 手の指が、ピク……ピク……と動く。


 やがて、


「う……?」


 その紫水晶の瞳が開いた。


(よかった)


 安堵と共に、僕は長く、長く息を吐いた。


 緊張の糸が切れる。


 途端、頭の『葉っぱ』の光が薄れていく。


 疑似太陽から、電球ぐらいの光量に。


 気づけば、光っていた『古樹の霊剣』の刀身も輝きが消え、ただ木目の残る半透明の青い刃に戻っていた。


(ん……お疲れ様)


 僕は、小さく笑う。


 同時に、


 ズシ……


 重い疲労感に襲われた。


(うぐっ……?)


 手足が重く、指先の感覚が鈍い。


 よくわからないけれど、相当、負荷のかかることをした気がする。


 力の大きさに、肉体の方が持たない感じ。


 身体の芯というか、『光合成』の回復でも治せない何か大事な部分が疲弊し切っているように思えた。


 はぁ……休みたい。


 でも、


「……シーナ?」


 目覚めた彼女が僕を見つけ、不思議そうに名を呼ぶ。


 あ……。


(――うん)


 クレティーナさんの無事な姿を見たら、その強烈な疲れも忘れてしまった。

 

 僕は笑い、


 ギュッ


 弱った両手で、彼女に抱き着く。


 彼女は驚いた顔をする。


 僕は、その大人の女性の柔らかさと温もりを堪能する。


 形の良い耳元に口を寄せ、



「――勝ったよ、クレティーナさん。僕らの力であの魔物を倒したんだ」



 と、伝えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ティナ、シーナ!」


「姉上! 大丈夫だった!?」


 戦闘終了から10分後、レオナックさんとパルシュナが現場へとやって来た。


 2人とも、息が荒い。


(相当、急いで来てくれたみたい)


 少し、ほっこり。


 そんな僕とクレティーナさんは、まだ戦闘の疲労が大きく、川原に座り込んでいる状況だった。


 というか、


 ギュッ


 彼女が僕を抱え、支えている感じである。


(えへへ……役得)


 大人のお姉さんの肉体が押し当てられ、がんばったシーナ君もご満悦である。


 そして、レオナックさん、パルシュナの2人はそんな僕らの方へと駆け寄り、そこで周囲の土砂崩れや崖が崩落している様子にようやく気づき、酷く驚いた表情になった。


「ぬ……?」


「ちょ……何よ、これ!?」


 2人とも、唖然とした様子。


 そして、赤毛の美女は、土砂の中に埋もれる赤い体毛の魔物の死骸にも気づく。


 目を見開き、


「人喰赤鬼……」


「え?」


 言われ、少女も見つけて、「はぁ~!?」と顎を落とした。


 2人は、僕らを物問いたげに見る。


 僕らは苦笑し、


「実はね――」


 と、事情を説明する。


 かくかくしかじか……すると、2人は驚愕の表情を浮かべ、僕の顔を凝視してくる。


 や、やだな、照れるよぉ。


(えへへ)


 と、僕は照れ笑い。


 2人は、


「アレを、シーナが倒したのか?」


「しかも、その余波で崖崩れって……はぁぁぁ~!?」


 と、言い、


「はい。私は負傷させられ、直接は見ていないのですが、状況から考えてもシーナ以外にあり得ませんし、シーナはそんな嘘をつく子でもありません。私は確信していますよ」


 と、クレティーナさんが保証する。


 僕も頷き、


「うん、本当だよ」


 と、自分からも伝える。


 まだ力の入らぬ両手を持ち上げ、


「あまりに追い込まれて、安全リミッターが外れたみたい。『光合成』がとんでもない力を生み出してくれて、だから倒せたんだけど、反動で今、こんな感じになっちゃった……」


 プルプル


 と、指が震える様を見せる。


 2人の仲間は、目を丸くする。


「ふむ」


「何よ、光合成で回復できないの?」


 レオナックさんは呟き、パルシュナは唇を尖らせ、聞いてくる。


 僕は首を左右に振る。


「うん、無理。多分、怪我や疲労じゃないから」


「……じゃ、何よ?」


「わかんないけど……身体の中の『聖気』が流れる霊脈? が、突然、あまりに多い量を流されたから少し傷ついてるんだと思う。そんな気がする」


「…………」


 少女は、黙り込む。


 代わりに、


「――治るのか?」


 と、レオナックさんが静かに聞いた。


 途端、僕を支えるクレティーナさんの指に、少し力が入ったのを感じる。


(……うん)


 僕は青い瞳を伏せ、


「多分、大丈夫。でも、しばらく時間がかかるかも」


 と、自分の感覚を正直に答えた。


 レオナックさんは、


「そうか」


 と、安堵したように頷いた。


 その横で、パルシュナもどこか安心したように息を吐く。


 と、僕の視線に気づき、


「! ふ、ふんっ!」


 と、そっぽを向いた。


(……ふふっ、ツンデレ少女め)


 相変わらずの彼女らしさに、僕は自身の状態も忘れて、心の中で笑ってしまう。


 すると、


 ギュ……


(お?)


 少女の姉が、僕を強く抱き締めた。


 耳元で、


「大丈夫。治るまでは、私がシーナのお世話をしますから。だから、何も心配しなくても平気ですからね?」


 と囁き、僕の髪を撫でる。

 

(あ、うん)


 近すぎて表情は見えないけれど、少し震えた声には真剣さを感じる。


 本当、優しいお姉様だ。


 僕も甘えるように、


 スリ……


 と、動き辛い身体で顔を寄せた。


(う~ん、本当、役得♪)


 やがて、話も終わると、レオナックさんが人喰赤鬼の死骸から討伐証明である『爪』と『耳』を採取するため、1人で土砂の方へと向かってくれる。


 その作業の間は、


「アイツ、本当、素早くてさ~」


 と、パルシュナが、僕とクレティーナさんが谷底の川に落ちたあと、やはり僕らの想像通り、人喰赤鬼との戦闘、そして、奴に逃走されたことがあったのだと教えてくれた。


(やっぱりか)


 本当、手強い魔物だったよね。


 視線を向ける。


 土砂まみれの猿鬼の顔は、酷く歪んで見える。


 生気のない眼球。


 そして、牙の生えた口からは、長い舌がダラリと垂れている。


 ザクッ


 レオナックさんの戦斧が、その巨大な耳を削ぐ。


 無論、奴は動かない。


(…………)


 150年以上生きた魔物が、僕の手で、その歴史と生命を絶たれたことを今更ながらに感じてしまう。


 川の水面から吹く風に、


 ヒラヒラ


 頭の葉っぱも揺れる。


 遠くを見れば、日も傾き始めていた。


 もうすぐ、夜が来る。


 見つめる僕の横で、美しい姉妹は談笑し、


「? ……シーナ?」


「あ、ううん」


 ふと、僕の様子に気づいた姉の方が声をかけてくれる。


 僕は笑って、首を振る。


 やがて、


「終わったぞ」


 と、赤毛の美女が魔物の素材の入った袋を背負い、僕らの方へと戻ってきた。


 僕らは、


「うん、ありがとう」


「ありがとうございます、レオ」


「お疲れ~」


 と、労う。


 彼女も頷き、


「うむ、これにて今回のクエストも半分は終了じゃ。あとは残りの半分、無事に町へと帰るぞ」


 と、力強く言う。


 リーダーの言葉に、僕らも頷いた。


(ん……よし)


 立たなきゃ。


 と、僕は足に力を込め、


 カクン


(あら?)


 膝が笑い、地面に転びそうになった。


 慌てて、そばにいたクレティーナさんが抱き留めてくれ、どうにか事無きを得る。


 ふぅ~。


 僕も、彼女も息を吐く。


 お互いの顔を見て、


「ごめんなさい。ありがとう、クレティーナさん」


「いいえ」


 彼女は微笑む。


 そして、確認するように、


「立てますか?」


「ん~……」


 カクン


 う……全然、足に力が入らないや。


 僕は首を振る。


「……駄目みたい」


「そうですか」


「ふむ、本当に無茶をしたのじゃの」


 大人2人は頷き、


「はん、貧弱ぅ~」


 少女1人はからかうように言う。


 3者3様の反応。


 すると、クレティーナさんが僕の両手を自分の首に回し、太ももを支えてグッと持ち上げられる。


(わっ?)


 背負われた?


 僕は驚く。


 力が入らないので、完全に寄りかかる感じ。


 おお……後頭部の艶髪が近い。


 長い髪は僕の肌にも擦れ、甘い匂いもする。


 ドキドキ


 心臓が早鐘を打ち、その音が聞かれないか心配になる。


 彼女は、


「私がシーナを運びます」


 と、宣言。


 僕が何かを言う前に、


「うむ、そうか」


「しゃーないわね。その分、私らは周囲を警戒するわ」


 と、2人が答えてしまう。


 え、あ。


(おんぶ、確定ですか)


 僕の意思は関係ないのね……。


 いや、まぁ、この状況で恥ずかしいとか我が侭言えないし、当然といえば当然の判断なのだけれど……でも、青少年の羞恥心って、結構、強いんだよ~?


 ちなみに、首も力が入らない。


 なので、


(ん……)


 彼女の首に、自分の頬を押し当てる感じになってしまう。


 首の肌に息も当ててしまう。


 くすぐったいのか、


「ん……」


 彼女が小さく呻き、その耳が少し赤くなる。


(ひぃ~ん、ごめんなさい)


 でも、彼女は優しく、


「体勢、苦しくはないですか?」


「う、うん」


「なるべく揺らさないように歩きます。でも、辛かったらすぐに言ってくださいね」


「うん、ありがとう」


 本当、女神みたいなお姉様。


 ……うん。


(この人を助けられて、本当によかった)


 そして、今だけは、そんな彼女に甘えてしまおうと覚悟を決める。


 全身を預け、力を抜く。


 ふぅ……温かい。


 その体温を感じながら、僕は、青い目を閉じる。


 サラサラ


 川の流れる音がする。


 何だか、心地好い。


「よし、移動を開始するぞ」


 と、リーダーの美女が告げる。


 僕らも頷く。


 そうしてクレティーナさんに背負われた僕は、3人と一緒に夕暮れの川原をあとにしたんだ。

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― 新着の感想 ―
無事に討伐完了。怒りによってリミッターが解除され、「身体の中の『聖気』が流れる霊脈」と呼ばれる箇所が傷ついてしばらく動けなくなった物の倒せて良かった・・・光合成を以てしても治せない(回復できない)事が…
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