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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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051・赤い個体

本日、午後7時過ぎの更新でした。

いつもと違う時間でしたが、こうして読みに来て下さって、本当にありがとうございます♪


それでは、第51話になります。

よろしくお願いします。

 木々の中を、僕らは進む。


 先頭はレオナックさん。


 2番目に植物の声が聞こえる僕で、3、4番目にレヴィン姉妹が姉、妹の順に続いていた。



 ――そこ、足跡あるよ。



 周囲の植物の声なき声が聞こえる。


 でも、教える前に、


「ふむ、こちらか」


 と、凄腕の女冒険者はその痕跡を発見、進路を決めていく。


(さすが)


 痕跡の発見能力が高い。


 たまに僕が植物の声を聞いて教える時もあるけど、大抵、その前にレオナックさんや姉妹が痕跡を見つけてしまう。


 素の状態だったら、僕はもっと役立たずだったかもしれない。


(……う~ん)


 実力差、経験値の差を痛感するよ。


 ちなみに痕跡は、足跡が1番多く、他にも草木の折れた跡、落ちた体毛、動物の骨などの捕食の痕跡などもあった。


 それらを追い、森を進んでいく。


 あ、3頭の狗竜は、廃墟となった遺跡の町に置いてきている。


 現在は徒歩だ。


 痕跡の発見は、さすがに狗竜に乗りながらでは難しいからね。 


 そして、追跡を始めて約30分後、


「む」


(お……)


 森の木々が途切れ、視界が開けた。


 前方には、草地のみの地面が続く。


 その先には、



「――崖だ」



 僕は呟いた。


 凹凸のある岩肌がそびえ、岸壁にはまばらに草木が生えている。


 多分、長い年月で、山の斜面が崩れた感じ。


 そして、正面に広がる草地の右側には、深い谷があり、遥か下方に急流の川が流れているのが確認できた。


(ひぇぇ……高い)


 谷間の川までは、約100メートル。


 草地の奥にある崖も、高さは20~30メートル以上あるみたいだった。


 と、その時、


 ガバッ


(わっ?)


 突然、後ろのクレティーナさんが、僕の背中に覆い被さってきた。


 な、何々?


 驚きつつ、重さで膝をつく。


「伏せて」


 静かな声。


(え?)

 

 同時に、僕は草の地面に強制的に伏せさせられた。


 見れば、レオナックさんもしゃがみ、パルシュナと共に近くの木の陰に隠れている。


(???)


 戸惑う僕。


 密着するクレティーナさんの綺麗な緑色の髪が、僕の肌を流れていく。


 甘い匂いと大人の女性の体重。


 ドキドキ


 少し心臓の鼓動が早くなる。


 と、僕を草の中に押さえ込んだまま、


「――上です」


 彼女の白い指が、僕の顔の横で崖の方を示した。


 え、上?


 指の先の進路を視線で追う。


(あっ)


 僕は驚き、声を上げそうになった。


 慌てて、口を押さえる。


 草地の先の崖、その中腹に黒く、巨大な猿のような生き物が張り付いていた。


 体長は約3メートル。


 足と同じぐらい太い腕が、片手で崖の岩を掴み、空中に浮いている。


 もう一方の手には、血塗れの鹿らしき死骸がある。


 ガブシュッ


 牙の生えた口が死骸を噛み千切り、血液が空から落ちてくる。


(う……ぁ)


 僕は、言葉を失う。


 周囲を警戒しながら、食事中?


 幸い、僕らは森の木々が陰となり、まだ発見されていない様子である。


 僕は首を動かし、彼女を見る。


 彼女は頷き、



「――人喰鬼オーガです」



 と、小声で短く告げた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕とクレティーナさんは低い姿勢のまま、仲間の隠れる木陰まで戻ろうとする。


 ドキドキ


(気配を消せ……っ)


 緊張しながら、最小限の物音、動きで移動する。


 やがて、無事、合流に成功。


 ふぅ~。


 木陰に身を隠しながら、レオナックさんは黄金色の瞳を鋭く細め、崖を見ている。


「奥にもう2体いるの」


「え?」


「見えぬか? 崖の上の方、あの岩の上じゃ」


 クイッ


 と、形の良い顎を動かす。


 促され、木陰の草の間から、崖の上側へと視線を送る。


(あ……)


 本当にいた。


 食事中の人喰鬼の更に10メートルほど上、出っ張った岩の上に1体と更に奥の崖に生えた木の陰にもう1体がいた。


 3体とも岩壁に張り付いている。


 凄い握力……。


 そして、岩上の人喰鬼は、体格が他より一回り、いや二回りは大きい。 


(あれ、5メートルはあるぞ)


 相当なサイズだ。


 他の2体より存在感があり、多分、群れのボスなのだと推測する。


 と、パルシュナが突然、言う。


「やばっ……あれ、赤じゃん!」


(え?)


 赤?


 年上の2人も頷き、


「ですね」


「厄介な……ギルドの情報にはなかったぞ」


 と、珍しくレオナックさんが不満そうに言う。


 何々?


(何か、まずいの?)


 僕の表情に、クレティーナさんが気づく。


「あの個体だけ、体毛が赤いのが見えますか? あれは体毛が変色するほど長く生きた証明で、私たちは『人喰赤鬼レッドオーガ』と呼んでいます」


「あ、うん」


「魔物の世界にも、生存競争があります」


「…………」


「その中で長く生きる個体は珍しく、その分、通常個体に比べ、知能、経験、戦闘力に優れていると言われています。人喰赤鬼は、最低でも150年は生きた個体です」


「150年!?」


 え、人間の誰より長生きじゃん?


 僕はびっくり。


 彼女は頷き、


「ギルドの規定では、人喰赤鬼は最低『銀印』2人以上での対処が推奨されていますね」


 と、続けた。


(……銀印2人?)


 え、待って?


 通常個体は、白印3人分。


 人喰赤鬼は、銀印2人分。


 ここにいるのは、通常個体2と人喰赤鬼1で、白印6人銀印2人が必要で……でも、いるのは、金印、銀印、白印が1人ずつ。


 おまけに、赤印1人。


 単純計算、レオナックさん1人で銀印1人と白印5人分の戦力じゃないと勝てない。


(へぇぇ……!?)


 僕、ようやく事態の悪さに気づく。


「ま、まずくない?」


「まずいわよ」


 憮然と、パルシュナが即答。


 その姉も、神妙な表情で頷く。


 そして、僕らの視線は自然とリーダーである赤毛の美女に集まる。


 レオナックさんは、


「ふむ」


 呟き、目を閉じる。


 数秒、沈黙し、金色の目を開く。


「まぁ、よい」


(え?)


「想定外の事態は常にある。特に魔物が相手の場合はの」


「…………」


「規定も所詮、推奨にすぎぬ」


「うん」


「ここにおる4人ならば、充分、あの3体を狩り殺せると我は信じておるぞ」


 と、僕らを見る。


 信頼の強い眼差し。


(レオナックさん……)


 彼女の熱い思いが伝わったのか、不安よりも勇気が湧いてくる。


 姉妹も同様なのか、


「はい」


「しゃーないわね。やったるわよ」


 と、頷いた。


 僕も、


「うん!」


 と、強く答える。


 僕ら3人の返答に、レオナックさんも頼もしそうに笑った。


 そして、もう1度、視線を崖へ。


「しかし……赤、か」


「…………」


「確かに、ゲートリム地方は神樹の加護の届き難い土地であるが、あのような赤鬼の個体が目撃されたという話は、長年、聞いたことがない」


 と、静かに呟く。


 あ……うん。


 最低150歳だっけ?


 そんなに長く生きてたら、多少、噂ぐらいありそうだものね。


(でも、ないんだ?)


 僕は考え、


「他の土地から流れてきた?」


 と、口にする。


 3人が僕を見る。


 姉妹の姉が頷く。


「あり得ますね」


「うむ」


 赤毛の美女も同意し、


「護国の神樹が枯れ、フィーンレイドの各地で魔物が流入しておるじゃろう。魔物の生息地も変化が起きておるのやもしれぬ」


 と、推測する。


 パルシュナが、


「マジで~?」


 と、嫌そうに言う。


 美少女が台無しのしかめっ面だ。


 王国を代表する金印の冒険者は、


「今後、似たような想定外の魔物がいる事態は、フィーンレイド各地の依頼で急増するかもしれぬの」


 と、低く口にした。


(…………)


 僕と姉妹は黙ってしまう。


 護国の神樹が枯れた国は、滅亡するとか……その始まりの現象なのかな?


 嫌だな~。


 暗い未来を想像しちゃう。


 と、


「――よし、今は目の前に集中するぞ」


 赤髪の美女は言う。


 目力のある金色の瞳が、僕らを見回す。


(あ、うん)


 僕と姉妹は頷く。


 気持ちが切り替わる。


 今更だけど、レオナックさんは本当に雰囲気がある人で、その仕草や言葉に凄く力を感じる。


 何となく、


(英雄って、こんな感じの人……?)


 と、思ったり。


 その英雄の美女は、


「人喰赤鬼であれ、何であれ構わぬ。このレオナック・オルンの手で狩り殺してくれる。――3人とも、さぁ、狩りを始めるぞ」


 と、獰猛な笑みで告げたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「――あの人喰赤鬼は、我が1人で狩る」


 と、彼女は宣言した。


 銀印2人以上が推奨の魔物だ。


 つまり、レオナックさんは、クレティーナさん2人分の戦力を1人で担うと言っているのだ。


(おお……本気?)


 でも、彼女の表情は真剣だ。


 手にした『魔炎の戦斧』が陽光を反射し、妖しく輝く。


 ゴクッ


 僕は、唾を飲む。


 この人なら……そう信じ、僕と姉妹は頷く。 


 彼女も頷き、


「通常個体は、そなたら3人に任せる」


 と、言う。


 1人1人、僕らと目を合わせ、


「1体はティナが1人で受け持ち、もう1体はパルとシーナが2人で対処せよ。じゃが、決して無理はするな」


「うん、わかった」


「はい」


「わかったけど、私がシーナとぉ?」


 と、指示に不満そうなパルシュナ。


 僕を見て、


「正直、足手まといの面倒見てる余裕、ないわよ?」


(……うぐ)


 本気の言葉だからこそ、胸に刺さる。


 でも、師匠だった美女は言う。


「足手まといにはならぬ」


(え?)


「ええ、そうぉ?」


「うむ。今は太陽の下じゃ。そのシーナならば、充分、人喰鬼オーガ相手に戦えるであろう」


 と、断言だ。


(し、師匠……)


 僕は嬉しいよ。


 パルシュナは数秒、疑うように僕の横顔を見る。


 やがて、嘆息し、


「わかったわよ」


 と、了承した。


 レオナックさんも頷く。


 パルシュナの姉も「大丈夫。もしもの時は、私もサポートしますから」と微笑みながら言い、妹を励ました。


(うん)


 僕も頷き、


「僕もがんばるよ、パルシュナ」


 と、伝えた。


 少女は「がんばるのは当たり前でしょ?」と呆れ、


「ま、いいわ。後輩の面倒見るのは、先輩の務めだもんね。はぁ~、仕方ないわぁ」


 と、肩を竦め、両手を広げた。


 色々、文句は言う。


 でも、その理由は、きっと未熟な僕のことを案じているからでもあるのだ。


(本当、ツンデレだねぇ)


 僕は年上2人と顔を見合わせ、笑ってしまう。


 やがて、1番年上の美女は表情を改める。


 僕らを見回し、


「連中は、崖にいる」


「あ、うん」


「はい」


「そうね」


「崖に登られている間は手出しができぬ。ゆえに、まず奴らを地上へと落とす」


 地上へ?


 なるほど、確かにあの位置じゃ攻撃も届かないだろう。


 地上戦は正論だ。


(でも、どうやって……?)


 見つめる僕らに対し、レオナックさんは槍を持つ彼女を見る。


「ティナ」


「はい」


「遠距離戦は、そなたの得意な盤面じゃ。槍の魔法で貫き落とせ」


「はい、わかりました」


 頷くクレティーナさん。


(おお……)


 あの『光の槍』を射出する魔法か。


 確かにあれなら、崖の上の人喰鬼だって狙えるよね?


 クレティーナさん本人も自負と自信があるのか、リーダーの指示に泰然とした表情で応じてみせた。


 それに、レオナックさんも金色の瞳を細める。


 赤毛の髪を揺らして頷き、


「うむ、任せるぞ」


 と、信頼する。


 槍を持つ美女も、もう1度、頷いた。


 それを見届け、それから、レオナックさんは再び崖を見る。


 3体の魔物を見ながら、


「地上に落としたあとは、全員、各自の獲物に集中せよ」


「うん」


「はい」


「ええ、わかったわ」


「不意が打てれば、奴らも慌てる。立て直す暇を与えるな。可能ならば、即、狩り殺してしまえ。不可能であっても、有利を崩すな」


 と言い、僕らを振り返る。


 僕らは頷く。


 すると、彼女は突然、


 トン トン トン


 と、握った拳で、僕らの胸を軽く叩いていく。


(え?)


 僕らは驚く。


 そんな僕らを、黄金の瞳が真っ直ぐに見つめる。


 最後に、



「――全員、生きて勝つぞ」



 と、短く言った。


(!)


 叩かれた胸が熱い。


 姉妹も同様か、一瞬言葉をなくし、そして、すぐに頷いた。


 僕も同じく、頷く。


 それに、レオナックさんもかすかに笑う。


 ――その先は、言葉は要らない。


 皆、武器を抜き、構える。


 シュラ


 僕も『古樹の霊剣』を鞘から抜いた。


 青く半透明な刃が美しく輝き、この心に勇気を与えてくれる。


(うん、やるぞ)


 槍を持つ彼女が1人、前に出る。


 残る僕らは、隠れている木の陰からいつでも飛び出せる体勢を整えた。


 ヒュウ……


 風が、緑色の長い髪を舞わせる。


 その唇が開き、



「――貫け、白き流星槍」



 その魔法の文言は、3本の『光の槍』を空中に生み出し、同時に3体の人喰鬼との開戦を告げるものとなった。

ご覧頂き、ありがとうございました。


来週の月、水、金の更新も、午後7時過ぎとなります。

再来週以降はどうなるか、まだ現時点で決められないのですが、どうかお時間ある時にまた読んで頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
神樹が枯れた影響が此処まで出ているとは・・・今後もこういう事もあり得るとなれば、撤退は出来ないよね・・・厄介な相手だが、果たして討伐できるか? 更新については了解です。御無理なさらず。
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