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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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050・森の遺跡

(おや?)


 木々の中を進んでいると、突然、灰色の物体が現れた。


 岩……?


 いや、違う。



「――遺跡だ」



 僕は思わず呟いた。


 石造りの建造物が緑の植物の世界に鎮座している。


(はへぇ……)


 僕、茫然。


 同じ竜の背に座るクレティーナさんも頷き、


「そうですね。事前の情報にあった古代オーパィル魔法王朝時代の遺跡のようです」


「うん、そっか」


 僕も頷く。


 仲間の2人も、石の遺跡を見上げている。


 高さは、2階建てぐらい。


 民家というより、どこかの公会堂みたいな雰囲気。


 でも、長い年月で風化して壁や柱などが崩れたり、3分の1ぐらいは植物が覆ったりしていた。


 窓からは、木が伸びている。


 しばらく進むと、


(わ? まだある)


 同じような遺跡が木々の中に、何棟も現れた。


 パルシュナは、


「大昔の町かしら?」


「結構な数、ありますね」


 妹の言葉に、姉も頷く。


 僕も驚きと共に眺める。


 壊れかけた石造りの家々、枯れた噴水跡、上部が崩れたアーチ状の門、そんな古代の街並を、僕らは割れた石畳の道を通りながら、図らずも見学していく。


 あれは、神殿かな?


 頭のない石像が屋根にあり、割れたステンドグラスの残りがまだ綺麗に輝いていた。


 そして、植物が強い。


 石畳の隙間からは草が生え、外壁に苔がむし、家々の間を蔦がぶら下がる。


 崩れた石の破片の上に咲いた小さな白い花が、ヒラヒラと風に揺れていた。


(…………)


 雰囲気、あるなぁ。


 どこか物悲しく、寂しいけれど、独特の風情も感じる。


 1500年前に栄えた文明も、今は歴史の流れに消え去り、やがて、この植物の世界に飲まれて痕跡さえもなくなるのだろう。


 赤毛の美女も、


「栄枯盛衰、かの」


 と、どこか切なげに呟く。


 僕は、彼女を見る。


 視線に気づき、


「オーパィルは大昔の文明じゃが、今より優れた文化や魔法があった時代での。人々の暮らしも、今より豊かだったと聞く」


「へぇ~?」


「特に魔法は、栄華を極めた時代じゃ」


「うん」


「しかし、そんな文明が、いったい何故なにゆえに滅んだのかの」


 と、赤髪の美女は呟く。


 僕は青い目を瞬く。


「わかってないの?」


「うむ。説は多いがの」


「説?」


 聞き返し、僕は首をかしげる。


 彼女は頷き、


「繁栄に驕った人々の行いが神々の怒りを買い、滅びの光を天から落とされた。あるいは優れた魔法技術があるゆえに、その強力な魔法の暴走で自滅した。巨大な魔物に滅ぼされた。世界戦争で文明崩壊した、などの」


「へぇ……」


「今、有力なのは、魔法研究により人工生命体を生み出し、それが反乱を起こして文明を滅ぼした説じゃの」


「そんな説もあるんだ?」


「まぁ、真相は闇じゃがの」


 と、軽く笑う。


 つられて、僕も笑った。


 と、パルシュナが言う。


「その時代はさ、どんな怪我や病気も魔法で治せて、死者も蘇生できたらしいわよ?」


「え、本当に?」


「一応、その伝承みたいな記録を残した文献はあるのよ」


「ええ~、凄い」


 驚き、


「今は、無理?」


「当たり前でしょ」


 少女は呆れ、唇を尖らせる。


(そっか)


 その姉が言う。


「そうした回復系の魔法は、現在は教会が行っています」


「あ、うん」


「ただ回復魔法も、投薬治療や外科手術と同じで万能ではなく、神官の腕で結果に差がありますし、時に後遺症が残る場合もありますね」


「へ~、そうなんだね」


「はい」


 彼女は、長い髪を揺らして頷き、


「だから、シーナの『光合成』による治癒は、優れた回復力と共に後遺症も見られず、本当に素晴らしいものなのですよ」


 と、微笑んだ。


(そうなんだ?)


 褒められて、素直に嬉しい。


 えへへ……と、照れる。


 と、パルシュナが、


「教会の回復魔法か~」


「ん?」


「あれ、高いのよね。最低でも、1回のお布施に3000リドとかすんのよ。ちょっとした捻挫とかでもさ」


「え?」


 捻挫で30万円?


 青い目を丸くする僕に、姉は苦笑する。


「教会は基本、医者に治せぬものか、苦痛の時間の短縮のために利用するものでしょう」


「でもさ~」


「まぁ、利用できるのは富裕層のみで、そのお布施により教会が運営され、また利益や権威を得ている面も否めませんけどね」


「でしょ? 庶民はお呼びじゃないわ~」


 と、両手を広げる妹。


(ふ~ん?)


 そうなんだね。


 姉妹的には、あまり教会にいい印象はない様子。


 ……もしかしたら、貧民街出身だからかな? と思ったり。


 すると、レオナックさんが僕に言う。


「教会の正式名称は、『奉樹の神聖教会』と言う」


「あ、うん」


「世界各地に『護国の神樹』を生み出した神々を敬い、フィーンレイド王国のみならず、アルド大陸の各国でもっとも信仰される宗教組織じゃ」


「へ~」


「ゆえに組織も大きく、各国の富裕層とも通じており、権勢も強い」


「うん」


「その分、闇も深い」


「…………」


「目をつけられると、色々と厄介じゃからの。一応、気をつけよ?」


「う、うん」


 僕は頷いた。


(そっか)


 僕の『光合成』の回復は、教会からしたらある意味、邪魔にもなるのか。


 怖いなぁ。


『金印の冒険者』として多くの権力者とも会うレオナックさんだからこそ、その『奉樹の神聖教会』の怖さをより理解しているのかもしれないね。


 若干、遠い目のシーナ君である。


 と、その時、


「大丈夫、私たちがいますよ」


 ナデナデ


 同じ竜に乗るお姉さんが、僕の金色の髪を撫でてくれる。


(わっ?)


 ク、クレティーナさん。


 僕の怯えに気づき、慰めてくれたみたい。


 見上げる僕に、


 ニコッ


 美人のお姉さんは優しく笑ってくれる。


(本当、僕、この人、大好き……!)


 その指使いの心地好さに、僕もつい青い目を伏せてしまう。


 傍目には、


(飼い主に可愛がられる子犬……?)


 なんて思う。


 そんな僕らの様子に、


「ふっ……全く、そなたらは仲が良いのぅ」


 と、レオナックさんが苦笑する。


 パルシュナも呆れた様子で軽く肩を竦める。


 そんな風に会話をしながら、僕ら4人は狗竜に乗ったまま、植物の世界に沈む古代遺跡の町を進んだんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 町の外れへとやって来た。


(ん……?)


 この辺は、遺跡の崩れ方も酷い。


 建物や柱の多くが倒壊し、巻き込まれたのか、周辺の木々や植物も折れてしまっている。


 石畳と土草の地面には、点々と黒い染みもある。 


 何の色だろう?


 と、先頭のレオナックさんが竜を止め、鞍から降りた。


 僕らの竜も止まり、全員、地面に降りる。


 赤髪の美女はしゃがみ、地面の黒い染みを確かめ、それから周辺へと視線を巡らせる。


(レオナックさん?)


 見ていると、


「ここじゃな」


「え?」


人喰鬼オーガの目撃地点じゃ」


「…………」


「遺跡の調査隊の護衛と戦闘が起きたのじゃろう。この黒い染みは、血痕じゃな」


「け、血痕……」


 本当に……?


(うわぁぁ……)


 途端に寒気が走り、この遺跡の町の景色が怖くなった。


 つまり、



 ――この遺跡の町近くには、人を死に至らしめる危険な魔物が確実に生息している。



 のだ。


 姉妹も真剣な表情をしている。


 ドキドキ


 緊張し、鼓動が早くなる。


 お、落ち着け。


(落ち着け、僕)


 自分に言い聞かせ、深呼吸。


 無意識に『古樹の霊剣』の柄に触ってしまう。


 リーダーの美女が言う。


「討伐目標の3体の人喰鬼は、周辺にいるはずじゃ。まずは痕跡を探し追跡、発見次第、狩っていくぞ」


「う、うん」


「はい」


「わかったわ」


 僕らも頷く。


 そして、2手に別れ、痕跡を探すことに。


 僕は、クレティーナさんと。


 レオナックさんはパルシュナと組み、2組で古代の道を左右に分かれて進む。


(さて、痕跡は……?)


 と、目を凝らす。


 隣のお姉さんも、特に森の方を警戒しながら、周辺を見ている。


 と、その時、



 ――こっちだよ。



(ん?)


 ふと、声がした。


 例の植物の声だ。


 気づいた僕は、ニョキッと葉っぱを生やし、より感度を高めて耳を澄ます。


「シーナ?」


 驚くお姉さん。


 僕は唇に人差し指を当てる。


 彼女も何かしら察し、沈黙。


 植物たちの声は、



 ――もっと奥。


 ――怖い奴の、あるよ。


 ――ほら、その先。



 と、言い、


(ふむふむ?)


 僕はその声なき声に従い、歩いていく。


 道を外れ、森の方へ。


 クレティーナさんも白い槍を手にしながら、ついて来てくれる。


 そして、


「あ……」


 目の前の地面に、足跡があった。


 大きい。


 長さは50センチ以上ある。


 形状は人間の足裏とよく似ている……けど、指の数が4本だ。


 周囲の木の幹には、黒い毛が数本、絡んでいる。


(体毛……?)


 太く、硬そう。


 弾力もあるけど、芯に針金が入っているみたいな感じだ。


「まぁ……」


 隣のお姉さんが驚く。


 僕を見て、


「よく見つけましたね」


「あ、うん」


「凄いですよ、シーナ。こんな短時間で痕跡を発見できるなんて……。ええ、お手柄です」


 と、褒めてくれた。


 その白い手で、頭も撫でられる。


(あ、えへへ)


 ち、ちょっと照れる。


 彼女も優しく笑い、そして、表情を戻すと口笛を鳴らした。


 ヒュゥン


 鳥の鳴き声みたい。


 多分、合図だったのだろう、1分もしないでレオナックさん&パルシュナ組が来てくれた。


 赤毛の美女が、


「どうした?」


「シーナが痕跡を発見しました」


「何っ? もうか?」


 と、驚く。


 緑髪のお姉さんは「ええ」と誇らしげに頷く。


(えへへ)


 やはり照れる。


 と、少女が、そんな僕を嫌そうに見る。


「……どうやったの?」


「え? あ、うん。植物たちがね、教えてくれたんだ」


「植物?」


「ほら、僕、葉っぱ生えてるから。多分、仲間だと思われてるのかな?」


「…………」


「? パルシュナ?」


「けっ、反則野郎」


「!?」


 ひ、酷い。


 彼女は不機嫌そうにそっぽを向いている。


(いや、まぁ、先輩冒険者の面目を潰したのは悪かったけどさぁ)


 でも、言い方よ。


 と、その姉が妹の紫髪を撫でる。


「ふふ、素直に褒めるのは照れ臭いのですね」


「!?」


「大丈夫。認めているからこそ口が悪くなるのだと、シーナも貴方のことをわかってくれていますよ」


「ち、違うわよ!」


 妹、大慌て。


(おや、そうなの?)


 あら、可愛い。


 僕は、何だかほっこりしちゃう。


 真っ赤になる少女に、大人の美女2人も優しい眼差しだ。


「くっ」


 悔しげに、涙目で僕を睨む。


 そして、


「うっさい、馬鹿シーナ! 痕跡、追うわよ!」


「あ、うん」


 僕は頷く。


 いや、僕、何も言ってないけどね?


 難儀な少女は「ふんっ、シーナの癖に!」と吐き捨てながら、大きな足跡の続く森の方へと歩いていく。


 僕とお姉さん組は顔を見合わせ、苦笑する。


 そして、


「待ってよ、パルシュナ」


「単独行動は危険ですよ、ほら、一緒に参りましょう」


「ふっ、やれやれじゃの」


 と、少女を追いかけた。


 …………。


 そうして僕ら4人の冒険者は、魔物の痕跡を追い、時に植物の声も頼りにしながら、危険な森の奥地へと進んでいったんだ。

ご覧頂き、ありがとうございました。


ここでお知らせです。

次回、7月10日(金)の更新なのですが、時間が0時過ぎではなく19時(午後7時)過ぎとなります。

急な変更で申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いします。


また、いつもシーナの物語を読んで下さる皆さん、いつも本当に本当にありがとうございます♪

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― 新着の感想 ―
こういう時こその能力・・・先手を打てるに越した事はないし、使える物は使っていかないとね。
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