047・金印の依頼
大通り沿いのレストランに入った。
建物は、3階建て。
1~2階は一般客向けで、3階は富裕層や貴族向けの個室になっているそうな。
たくさんの旅人や王都民で賑やかな2つの階を抜け、『金印の冒険者レオナック・オルン』はお店の配慮で3階の個室に通された。
(さすがぁ)
金印は伊達じゃないね。
個室は壁の1面が解放され、テラス席のように王都や大通りの景色が見渡せた。
うん、いい眺め。
店員に食事を注文。
やがて、料理が届く。
僕は、魚介のパスタ料理と果実水。
大食い姉妹は、僕と同じパスタの大盛りとカツ肉を挟んだサンドイッチ、あと野菜スープ。
金印のお姉さんは、パンとステーキ肉、サラダに、果実酒1瓶と冷えたエールの大ジョッキを頼んでいた。
(おお、昼からお酒だ)
目を丸くする僕に、
「明日から飲めなくなるでの。今の内に、たらふく飲まねばならぬ」
と、なんか真面目に言う。
わ~……。
姉妹も、
「これがレオです」
「飲まないレオは、レオじゃないわ」
「…………」
ですか。
(ま、彼女の奢りだし、細かいことはいっか)
と、気を取り直す。
で、食事開始。
うん、美味い!
安い料理と違って、舌に届く味と香りが複雑かつ繊細なバランスで成立している感じ。
さすが、レオナックさん、いいお店知ってるね。
僕も大盛りにすればよかったかな~?
姉妹もパクパク食べる。
妹は豪快に。
でも、姉は上品に、なのに気づけば料理が減っていく。
ふと、僕と目が合い、
ニコッ
と、微笑んだ。
(――好き!)
このお姉さん、僕、本当、大好きです。
そんな中、レオナックさんも料理を……というより、本命はお酒でその肴として料理を口にしている感じだった。
グビグビ プハッ
「すまぬ、エールをもう1杯」
と、追加注文。
さ、さすが~。
と、そんな風に、僕らは王都の景色と人々を眺めながら食事の時を楽しむ。
やがて、お腹も落ち着いた頃、
「――さて、明日の話をするかの」
と、赤髪の美女が言い出した。
(!)
僕と姉妹は、食べる手を止める。
僕は、果実水を1口。
コクッ
口の中を洗い流し、気持ちを整える。
それを待ち、
「明日、我らはゲートリム地方に向かう。目的は、人喰鬼の討伐じゃ」
と、レオナックさんは言った。
(人喰鬼?)
僕の表情に、クレティーナさんが気づく。
耳元で、
「人喰鬼は、小鬼と同じ鬼系統の魔物です」
「小鬼と同じ?」
「はい。ただし、こちらは大型で、体長は3~5メードあります。全身が硬い皮膚と体毛に覆われ、見た目は猿人に近い存在ですね」
「猿人……」
「知能も高く、肉食です」
「…………」
「名を示す文字通り、人間を捕食することも多く、女子供を好んで生きたまま食べ、逆に男はすぐに殺してしまいます」
「っ」
まさに、人喰いの鬼だ。
僕は少し青褪める。
彼女の説明を待ち、レオナックさんは続ける。
「去年、ゲートリム地方の山岳地で、古代オーパィル魔法王朝時代の遺跡が発見されての。その調査が行われていたのじゃが、先々月、その遺跡近くに人喰鬼が現れての」
「…………」
「調査隊員7名が死亡」
「…………」
「現在、生き残った調査隊員は避難し、遺跡調査も停止しておる。その再開のため、王国遺構研究所より魔物の駆除を依頼されたという訳じゃ」
そっか。
僕と姉妹は頷く。
ふと思い、
「人喰鬼って、強いの?」
と、姉妹に聞く。
妹は、
「まぁ、そこそこ?」
と答えた。
(え、そこそこ?)
予想外の返答に、僕は戸惑う。
と、姉が補足。
「人喰鬼の討伐は、冒険者ギルドの規定で『白印』3人以上が原則となっています。決して弱くはありませんが、必要以上に恐れる必要もありません」
「へぇ……」
白印3人――つまり、パルシュナ3人分?
でも、
(こっちは、金印のレオナックさん、銀印のクレティーナさんもいる)
規定より戦力は上だ。
若干、安心してしまう僕である。
だけど、
「1体ならの」
と、金印の美女は言う。
(え?)
僕と姉妹は彼女を見る。
レオナックさんは果実酒のグラスを片手に揺らし、中身を回転させる。
コクッ
1口煽り、
「――3体」
と、低い声で呟いた。
「!」
「目撃された人喰鬼の数は3体じゃ。じゃからこそ、『金印』であるこのレオナック・オルンに依頼が回されたのじゃよ」
と、薄く笑う。
(おお……)
なるほど、複数の敵。
それも単純計算で言えば、パルシュナ9人分の戦闘力の、だ。
姉妹も頷き、
「そうですか」
「ま、レオ指名の依頼がそんな簡単な訳ないわよね……」
と、納得している。
ただ姉は落ち着いて、妹は少し憮然としてるけど。
レオナックさんも頷く。
そして、その金色の瞳が僕を見た。
(!)
ドキッ
僕は、姿勢を正す。
彼女は言う。
「今回は、シーナも初参加じゃ」
「あ、うん」
「緊張や不安もあり、視野も狭くなるじゃろう。じゃが、人喰鬼3体とはいえ、我らならば何も問題はない。しかと指示に従い、落ち着いて行動せよ」
「うん。わかった」
「うむ」
僕の返事に、師匠も満足そうに頷く。
そして、姉妹の方を向き、
「ティナ、パルも、いつもより負荷はかかるが頼むぞ」
「無論です」
「は~、仕方ないわね~」
と、彼女たちは答える。
僕は3人に向き直り、
「ごめんね。でも、極力、足手まといにならないようがんばるよ。――だから、よろしくお願いします」
ペコッ
と、頭を下げた。
大人な美女2人は微笑み、
「うむ」
「はい、お任せを」
と、鷹揚に頷く。
同い年の少女は、
「ふんっ、やる気あるのはいいけど、それで死ぬんじゃないわよ!」
と、唇を尖らせる。
(わぁ……)
本当、口は悪いのに優しい子だね。
僕は、つい笑っちゃう。
「うん、気をつける」
「ふんっ」
僕の答えに、少女はそっぽを向く。
そんな年少組のやり取りに、大人の美女2人は顔を見合わせ、そして、小さく笑っていた。
やがて、食事も終わる。
レオナックさんが会計を済ませ、僕らはレストランをあとにする。
通りを歩き、待ち合わせをした公園まで戻ると、
「では、また明日、ギルド前での」
「うん」
「ええ、また明日です」
「ばいば~い」
と、レオナックさんと言葉を交わし、今日はここでお別れとなった。
その背中を見送る。
やがて、僕らも帰路へ。
雑談しながら、住宅街に戻り、姉妹の家に辿り着く。
帰宅後は、旅の荷物を準備し、明日に備える。
準備を終えたら、いつも通り、順番にお風呂に入り、姉妹と夕食を作る――明日から留守にするので、保存の利かない食材は全て使い切った。
そして、夕食。
いつもより少し量も多く、豪勢だ。
(…………)
ただ、明日からのことを思うと、少しだけ昨日と味が違う気がした。
いや、美味しいんだけど。
やがて、就寝の時間。
階段下で、姉妹と別れる。
妹は、早々に自室へ。
そして、姉の方は、
「シーナ」
ギュッ
と、唐突に僕を、その胸に抱き締めた。
(わっ?)
驚く僕に、
「大丈夫。私もいますから、明日からも何も心配要りませんからね」
「…………」
「…………」
「うん」
僕は頷く。
彼女も腕を離し、
「おやすみなさい、シーナ」
「おやすみなさい、クレティーナさん」
僕らは笑い合う。
彼女に見送られながら、僕は階段を登る。
暗い廊下を歩き、自室に入るとベッドに横になった。
(…………)
目を閉じる。
普段より1~2時間ほど遅くなったけど、無事、就寝する。
そして、
チチッ チュンチュン
と、朝が来た。
目を覚ました僕は、窓を見る。
夜明けの景色。
そして、快晴の空だ。
(――うん)
今日の始まりを告げる太陽の輝きに、僕は青い瞳を細め、力を込めてベッドから起き上がった。




