045・グイド装備店
庭を直し終わると、もう夕方だ。
本日も、レオナックさんは夕食を共にしてくれるという。
全員、お風呂で土汚れと汗を流し、やがて、姉妹と僕で夕食の準備を行う。
客人の師匠は、完成まで1人酒盛りだ。
(お~)
幸せそうに飲むね?
見てる方も楽しい気持ち。
やがて、料理も完成し、全員で食卓を囲む。
料理を前に、
「ここ最近、ずっとすまんの」
と言う、師匠。
家主のお姉さんは笑う。
「何を言っているのですか。こちらこそ、毎日、シーナの面倒を見てもらっているのですよ?」
「…………」
「……? 何か?」
「いや、その言い方、まるでシーナの母親みたいでの」
「…………」
苦笑するレオナックさんに、目を丸くするクレティーナさん。
やがて、
ポッ
(あ)
クレティーナさんの頬が赤くなった。
少し焦ったように、
「な、何を言っているのですか」
「ふふっ、すまぬ」
「もう……」
「むしろ、姉さん女房と言った方が良かったかの?」
「…………」
お姉さん、絶句。
僕を見る。
(あ、えっと……)
どう答えるのが正解かわからず、とりあえず笑ってみる。
ニコッ
彼女は、息を飲む。
耳まで赤くなった顔で、レオナックさんを睨む。
「レオっ」
「ふはは、酒が旨いわ」
と、叱られる本人は愉快そう。
僕も、困ったように笑ってしまう。
その時、
(ん……?)
ふと、パルシュナが僕の横顔を見ていることに気づく。
『何?』と見返す。
彼女は、
「アンタ、顔はいいもんね」
「へ……?」
「姉上、可愛い系の年下の男の子が好みだったか~。はぁ……でも、こんなのが義理の兄とか、嫌だわぁ」
「…………」
ええと、パルシュナさん?
(何言ってんの?)
と、僕は呆れる。
でも、少女は「はぁ、鈍感」と、逆に呆れた顔をする。
何でよ~?
(だって、ただの冗談なのに――)
と、その姉を見る。
彼女と目が合う。
「う……」
「?」
真っ赤な顔のまま、クレティーナさんは何だか泣きそうな顔をする。
レオナックさんは笑う。
「くはは、そうか」
「…………」
「まぁ、ティナには戦い方ばかりを教えてしまい、その分、色恋の経験を遠ざけてしまったようじゃの」
「っ、レオっ」
「ふふっ、怒るな、怒るな」
楽しげな赤毛の美女。
クレティーナさんは、珍しく不貞腐れた表情でそっぽを向く。
(あら、可愛い)
僕は、ほっこり。
妹の方は、少し複雑そうな表情で。
レオナックさんは、
「ま、からかうのはこのぐらいにして――」
グビッ
お酒のグラスを呷る。
熱い吐息をこぼし、グラスをテーブルに置く。
そして、僕を見る。
「シーナ」
「ん?」
「今の内に、明日の予定を話しておく」
「明日の?」
「うむ。明日で休暇は終わりじゃ。そこで明日、我と共に買い物に行くぞ」
「え、買い物?」
驚く僕に、彼女は頷き、
「そうじゃ。――シーナの新しい武器を買う」
と、笑った。
(あ……)
そうだった。
僕、小剣、折っちゃったんだっけ。
つまり、武器なし。
(わ~っ、忘れてた)
手ぶらで明後日のクエストに行くところだったよ。
僕の表情で察したらしい。
師匠は苦笑し、
「王都に、我の行きつけの店がある。明日は共に行き、今のシーナに合った剣を探すとしよう」
「う、うん!」
「ティナ、パルも行くか?」
と、姉妹にも問う。
姉の方は、
「当然です」
と、即答。
妹の方は肩を竦め、
「ま、いいわ。後輩の面倒見るのは、先輩の役目だし~」
と、半笑いで僕を見る。
(むっ)
おのれ、ツンデレ少女。
でも、口は悪いけど、面倒は見る気なんだよねぇ……。
本当、難儀な、いい子だよ。
師匠は笑い、
「そうか。では、決まりじゃの」
と、頷いた。
こうしてこの日の夕食の席で、僕ら4人は明日、王都へ買い物に出ることが決まったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
夜が更け、朝が来る。
太陽が昇り、
(今日は買い物だ!)
と、僕は起床した。
この5日間は、レオナックさんが家に来てくれたけど、本日は街中での待ち合わせであった。
朝食後、僕は姉妹と一緒に家を出る。
目指すは、王都の商業区。
相変わらず、王国の首都であるフィーンドリアの道は人でいっぱいだ。
やがて、待ち合わせの公園へ。
敷地内には噴水や時計塔、散策路もある都市内の自然公園だ。
(あ、いた)
噴水前のベンチに、赤毛の美女がいる。
でも、あれ……?
(他に人がいる)
3人ぐらいの男の人だ。
冒険者ではなく一般人ぽいけれど……?
と、姉妹も気づく。
「あら、レオったらまたナンパされてるわ」
「ですね」
妹は呆れ、姉は苦笑している。
(え、ナンパ?)
驚く僕。
あ~、でも、確かにレオナックさん、美人だもんね。
不思議じゃないか。
近づく僕らに、彼女も気づき、
「悪いが連れが来た。――ではの」
と、ベンチから立ち上がる。
男の人たちは、名残惜しそうに見送っている。
で、赤毛の美女は僕らと合流。
吐息をこぼし、
「やれやれ、物好きな連中じゃ」
と、苦笑する。
姉妹は笑う。
「お疲れ」
「相変わらず、モテますね」
「何じゃ、他人事のように……そなたらもよく声をかけられるであろうが」
「姉上はね~」
「まぁ、レオほどではないでしょう」
「そうかの~?」
なんて会話。
(…………)
その様子を、僕は少し離れて観察。
確かに3人とも、美女と美少女――声をかけたくなる男の人の気持ちもわかる。
ま、僕にはそんな勇気ないけど。
と、その3人が僕を見る。
「まぁ、よい。さぁ、店に行くかの」
「そうですね」
「はいよ~。ほら、シーナ、何離れてんのよ? アンタのために行くのよ? こっち来なさいよ」
「あ、うん」
僕は頷く。
と、クレティーナさんが僕の手を握る。
ギュッ
「迷子にならないように」
と、柔らかく笑う。
び、美人~。
僕は少し赤面してしまう。
そばには赤髪の美女と同い年の美少女もいる。
何となく、この場所だけ輝いている気がして、周囲の視線も集まっている感じ。
(……僕、場違いじゃね?)
と、思ったり。
でも、申し訳ない気もするけど、正直、優越感も感じてしまう。
レオナックさんが、
「よし、行くぞ」
「はい」
「へ~い」
と、号令をかけ、姉妹が返事。
そして、
「さ、シーナ」
「あ、うん」
緑髪のお姉さんに手を引かれ、僕も歩き出す。
繋いだ手を見つめる。
(…………)
キュッ
少しだけ指に力を入れ、僕は3人と一緒に王都の中を歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
商業区に到着する。
王都らしく、通りには大勢の人が歩く。
通り沿いには店舗が並び、商人と客以外にも、車道の荷馬車から荷を店に運び入れる人なども多く見られた。
(う~ん、賑やか)
活気があるね。
呼び込みや値切りの声も響く。
そんな中を、僕ら4人は歩く。
だけど、
(おや……裏道?)
先導する赤毛の美女は、細道に入った。
一気に人が減る。
大きな通りには、華やかな店舗が多かった。
でも、裏道は建物の日陰で少し薄暗く、小規模店舗ばかりが並ぶ。
やがて、
「ここじゃ」
と、レオナックさんは、1軒の店の前で足を止めた。
(ここ?)
僕は、若干茫然。
小さな建物だ。
民家を改造した店舗のようで、看板もない。
いや……?
(表札がある)
『グイド装備店』――らしい。
え、本当に?
本当に大丈夫なお店?
レオナックさんの案内じゃなければ、騙されたかと思う。
でも、3人とも平気な顔。
(んん~?)
この店、姉妹も来たことあるっぽい。
なら、信じてもいいのかな。
半信半疑の僕の前で、
「よし、入るぞ」
と、レオナックさんは言い、
ガチャ
と、目の前の木製の扉を開けた。
そのまま、店内へ。
レオナックさんを先頭に、僕も姉妹と一緒に入る。
外見通り、狭い店内で、
(おお……)
でも、ちゃんと武器、防具が陳列されていた。
数は多くない。
値札もなく、だけど、どれも綺麗で、品質は確かな気がした。
あと、
(店内も綺麗だ)
年季を感じるけど、しっかり掃除されてる。
――隠れた老舗。
そんな言葉が浮かぶ。
そして、そんな店内の奥、小さな丸椅子に1人の男の人が座っていた。
年齢は初老ぐらい。
背丈は低め。
でも、がっしりした筋肉質で、豊かな顎髭が生えている。
僕は目を見開く。
(――ドワーフだ!)
異世界固有の人種の1つ。
頑固そうな風貌で、そのドワーフの老人さんはジロッと僕ら4人を見る。
息を吐き、
「何でい、炎帝様か」
「久しいの、ガーランド爺」
と、赤毛の美女も気さくに挨拶する。
姉妹も、
「ご無沙汰しております」
「ども」
「おう、嬢ちゃんたちもいたのか」
と、言葉を交わす。
全員、顔見知りらしい。
ガーランド爺――ガーランドさんは、自分の肩を叩く。
首を捻りながら、
「今日はどうした? 武器の手入れか?」
と、聞く。
接客というより、むしろ、友人に対する感じ。
赤毛の美女は、
「いや、今日はシーナの武器を買いたくての」
「シーナ?」
「こやつじゃ」
ポン
背中を叩かれた。
(あ……っと)
僕は慌てて「こんにちは」と頭を下げ、挨拶する。
彼は目を丸くする。
「女……いや、男か?」
「男じゃ」
「何でい、炎帝様の隠し子か? あるいは若い燕でも飼い始めたか?」
「阿呆」
炎帝様は苦笑する。
僕の頭に手を乗せ、
「我の弟子じゃ」
「弟子だぁ~?」
ガーランドさんは素っ頓狂な声を上げ、
ジロジロ
僕を上下に、品定めするように凝視してくる。
炎帝様は言う。
「まだ鍛え始めたばかりじゃが、筋は良い。今度、我のクエストに同行させるでの。武器が必要なのじゃ」
「はっ、そうかい」
「……爺?」
「悪いが、量産品を与えな」
「…………」
「新人にいい武器与えても、使いこなせんよ。あるいは、武器の良さを己の実力と勘違いする。――良いことは何もねぇ」
と、彼は突っぱねた。
おお……。
(頑固職人!)
僕、嫌いじゃないよ?
レオナックさんは頷いた。
「じゃの」
「……あ?」
「じゃが、そこを曲げて頼みたい」
「おいおい、炎帝様よ? まさか、弟子可愛さに馬鹿になったのか?」
「いいや」
「なら――」
「シーナの実力に見合う武器が必要なのじゃ」
と、静かに言う。
炎帝の言葉に、ガーランドさんも一瞬、言葉を失った。
僕を見る。
もう1度、彼女を見て、
「本気で言ってんのか?」
「無論じゃ」
「…………」
「シーナの成長は早すぎる。量産の武器では追いつけぬ」
「ほう?」
彼は目を細めた。
赤髪の美女は、言葉を重ねる。
「ガーランド爺の目から見て、こやつの修行期間をどれぐらいに思う?」
「……そうさな」
ジッ
僕を見つめる。
何となく、姿勢を正してしまう。
彼は、
「まだ1年程度のひよっこだな」
と、言った。
(え?)
僕は驚く。
姉妹の姉は微笑み、妹は肩を竦めた。
その様子に、
「何でい?」
と、彼は少し不機嫌そうに言う。
そんな頑固職人に、炎帝と呼ばれる美女は、
「シーナは、初めて剣を握ってから、まだ5日じゃ」
と、事実を伝えた。
「……は?」
ガーランドさんが目を見開く。
再び僕を見る。
(えっと、うん)
コクッ
僕は正直に頷く。
彼は姉妹の方も見て、2人も認めるように頷いた。
ガーランドさんは唖然。
レオナックさんは、
「もう1度言うが、成長が早すぎるのじゃ。そして、その成長を武器のせいで止めたくはない。――頼めぬか、ガーランド爺?」
と、言った。
頑固職人は腕組みし、目を閉じる。
難しい表情。
(…………)
僕ら4人は何も言わず、見守るしかない。
やがて、
「――わぁった」
「爺」
「そりゃ、炎帝様の弟子が普通な訳ねぇわな。――おう、俺の武器、売ってやるよ」
苦笑し、そして、了承してくれた。
彼の言葉に、
「そうか。助かる、ガーランド爺」
と、交渉してくれたレオナックさんも嬉しそうである。
僕も慌てて、
「ありがとうございます!」
と、深く頭を下げた。
姉妹の姉も、一緒に横で下げてくれる。
妹は……うん。
彼は苦笑し、
「へっ。しかし、俺の目が騙されるとはな」
「…………」
「おう、坊主――シーナだったか? まずはお前さんの手ぇ、見せな」
え、手?
(あ、うん)
僕は慌てて、両手を見せる。
彼は大きな手で僕の手を掴むと、その太い指でゆっくり表面を触る。
感心したように、
「ああ、正しい位置に剣ダコが育ってんな。悪くねぇ」
「…………」
「だが、5日の割に、ずいぶん硬ぇな?」
「えっと、豆が潰れるたびに治したら、こんな風になったんだよ」
「治した?」
「うん」
「ポーションか。金かけてんなぁ」
と、師匠を見る。
彼女はあえて訂正しない。
(ま、葉っぱのこと、言う訳にはいかないもんね?)
少し申し訳ない。
結果、愛弟子に甘い師匠と勘違いしたまま、ガーランドさんは言う。
「剣の希望は?」
と、僕ではなく、彼女に聞く。
レオナックさんは、
「小剣を」
「小剣か。ま、体格的にそうだろな」
「ただ強度が欲しい」
「強度?」
「うむ、剣の扱いを知らぬ時、こやつは小鬼相手に量産品の小剣を折ってしまった。常時ではないが、それぐらい異常な膂力を発揮する」
「……マジかよ?」
彼は、目を見開く。
僕を見て、
「魔力纏いか? 大した上昇率だな」
「えっと、うん」
僕は、一応、頷いた。
厳密には違うけど、まぁ、『魔力纏い』も『光合成』も似たようなものだろう。
頑固職人の彼は、悩ましげな顔をする。
「しかし、落差があるな」
「…………」
「強度のある剣は、当然、重ぇんだ。だが、軽量な剣でなきゃ、通常時の子供の筋力で扱えねぇ」
「…………」
「さて、どうするか」
と呟くと、目を閉じ、顎髭を撫でる。
軽さと頑丈さ。
両立するのは難しいんだろうな、と、素人の僕でも感じる。
(何か方法、あるのかな?)
僕ら4人は黙って、目の前のドワーフの職人さんを見つめる。
やがて、彼は刮目した。
パン
手で膝を叩き、
「よし! こりゃ、『古樹の霊剣』しかねぇな!」
と、強く言った。




