表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/46

044・全力

 ――稽古最終日の朝が来た。



 起床した僕は、自室の窓から空を見る。


(うん、快晴だ)


 絶好の光合成日和。


 短期集中で剣技を覚え、肉体を鍛え、心も多少強くなったように思う。


 心技体、全て鍛えた。


 そして、今日はその集大成――覚えたことを『光合成』状態で全力で使うのだ。


(う~ん、楽しみ!)


 ワクワク


 期待しながら、僕は部屋を出た。


 姉妹に会い、朝食を食べ、レオナックさんの来訪を待つ。


 カランカラン


(来た!)


 即、玄関へ。


 扉を開け、


「え?」


 と、驚いた。


 今日のレオナックさんは、冒険者の時の黒い鎧を着ていた。


 胴体と下半身のみを覆う金属鎧。


 両腕は剥き出しで。


 また鎧は基本、全体が黒地で、所々、赤いラインが走っている――何だか格好いい。


 その姿に、姉妹も驚いている。


 彼女は笑い、


「今日は、シーナの全力を見るからの」


「え……?」


「まぁ、大丈夫と思うが、あの腕力は侮れぬ。万が一に備え、用意してきた」


「…………」


「さぁ、やるぞ」


「う、うん!」


 僕は頷く。


 まさか、僕の力を警戒して防具を着てくるなんて……。


(じ、地味に嬉しい)


 うん、がんばるぞ~!


 僕は気合を入れ、そして、全員でいつもの庭へと移動した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 太陽の光が燦々と降り注ぐ。


 ん~、気持ちいい。


 きっと庭の芝生や木々も同じ気持ちなんじゃないかな、と思う。


 3人も空を見上げ、


「葉っぱなくても、日向ぼっこしてたい天気よね~」


 と、パルシュナが言う。


(あはっ、わかってるね)


 僕は笑い、年上の美女2人も微笑ましそうに頷く。


 そして、姉妹は縁側へ。


 僕とレオナックさんは木剣を手に、庭の中央で向き合って立った。


 僕は、1度、息を吐く。


 青い目を伏せ、


(よし)


 ニョキ


 頭から2枚の『葉っぱ』を生やした。


 太陽光を吸収し、


 パァァッ


 葉っぱが光る。


(ん……来た)


 熱い力が生まれ、全身に流れていく。


 そして、気づく。


(何か『魔力纏い』と似ているね)


 多分、やっていることは同じなのだろう。


 ただ魔力に比べ、聖気の方が圧倒的に量が多く、効果は絶大な気がする。


 そして、


(併用はできないかも……)


 と、感じる。


 何となく、『魔力纏い』も『光合成』も同じ体内の道を使っていて、『魔素』と『聖気』は違う分、同時には流れない気がした。


 まぁ、感覚の話なんだけど。


 でも、多分、間違ってないと思う。


 そんな脳内検証をする僕に、


「シーナ」


 と、師匠が呼びかけた。


 伏せていた目を開ける。


 真剣な表情をした彼女が、僕を見つめる。


 そして、


「――始めよう」


 と、言った。


 僕は「うん」と頷き、木剣を構える。


 お……?


 軽い。


 いや、重さがない。


(あ、あれ……僕、木剣、持ってるよね?)


 手に感触はある。


 でも、重さだけが皆無だ。


 少し戸惑う。


 と、黒い鎧姿のレオナックさんも木剣を構え、空気が戦場のそれへと変わる。


 ピリッ


(……っ)


 迷ってる場合じゃない。


 集中だ。


 今までと違う真剣な空気。


 

「――来い」



 師匠が、短く言った。


 僕は頷き、


(行くぞ)


 トッ


 地面を蹴った。


 視界が吹き飛び、一気に間合いを詰める。


 一瞬でレオナックさんの目の前に到達し、僕は上段に構えた木剣を振り落とした。


 ボッ


 空気が壊れる音。


 木剣は神速で走り、


(――え?)


 制御できない勢いで、僕の全身が前方へと引っ張られた。


 ドベシャッ


(おわっ!?)


 盛大に、レオナックさんの真横の地面にすっ転ぶ。


 千切れた芝生が舞う。


 な、何が……?


 僕は、唖然。


 口の中に、土の味がする。


 見物していた姉妹も驚いた表情で、姉の方は「ああ、やはり……」と呟いた。


 ……やはり?


 困惑する僕に、


「ふむ、予想通りか」


 と、上から師匠の声がした。


 僕は、見上げる。


 彼女は苦笑し、


「覚えた感覚のまま、剣技を放った。結果、向上した身体能力が邪魔となり、その剣技の理が崩れたのじゃ」


「え……?」


「これは、新しい感覚でまた覚え直しかの」


「…………」


 な、何だってぇ~っ!?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 師匠曰く、


「要は『光合成』が優秀ゆえの弊害じゃ」


 とのこと。


(優秀ゆえの弊害?)


 僕は困惑。


 師匠は剣を構え、


「剣技は、正確さが命じゃ」


 ヒュッ


 と、振る。


「じゃが、同じように剣を振っても、毎回、微妙な乱れはある。足の踏み込み位置、剣を握る手指の形、その力加減、剣速、色々との」


「うん……」


「誤差は、ほんの僅か」


「…………」


「本来ならば、問題はない。じゃが、そなたの場合は別じゃ」


「別?」


 金色の目が、僕を見る。


 そして、言う。


「素の状態ならば、1の乱れ」


「……うん」


「じゃが、『光合成』により仮に100倍、力が増したとしよう。その場合、どうなると思う?」


「あ」


「乱れも100倍じゃ」


「…………」


 うぁぁ……そういうことか。


 ようやく理解する。


 つまり、だ。


 さっき剣を振った時、僕の剣には乱れがあった。


 多分、前方への重心の乱れ――でも、素の状態ならば、大した問題もなく、振り抜くことができたのだろう。


 だけど、


(『光合成』で100倍の力で前方に乱れたから)


 だから、転んだのだ。


 姉妹の姉も言う。


「つまり『光合成』状態では、より正しく剣を振らねばなりません。素の状態より100倍、精密にです」


「…………」


 僕は、遠い目だ。


(え、光合成の状態で剣を振るのって、そんなに繊細さが必要なの?)


 本当に……?


 すると、今度は姉妹の妹が、


「ぷふっ、無様ね~」


 と、愉快そうに笑う。


 …………。


 お、おのれ……!


 僕は歯を食い縛る。


 強く頷き、


「わかった。100倍、正確に振る!」


 と、宣言する。


 年上2人は、驚いた顔をする。


(負けるか!)


 絶対、できるようになってやるぞ。


 ザッ


 僕はもう1度、剣を構えた。


(落ち着け)


 重さのない剣を、重さのある時と同じように振ったのがいけないのだ。


 無手のつもりで。


 意識を変えて。


 丁寧に……。


 スッ


 上段に構え、


「えいっ!」


 ボッ


 木剣を振る。


 瞬間、重心が乱れていたのか、剣先が突然に重くなり、再び前につんのめる。


 剣先が芝生を叩き、


 ドパァン


 地面が爆発したように弾けた。


 土と芝生が舞い、バラバラと落ちる。


 当然、僕の上にも落ちてきて、全身、土と草まみれになってしまった。


「…………」


 涙目シーナ君である。


 姉妹の姉は「ああ……」と心配そう。


 隣で、妹は大爆笑。


 赤髪の師匠は、いつの間にか、後ろに下がって、落ちてきた草や土を避けていた。


 苦笑し、


「ま、時間をかけ、修正していけ」


「……うん」


 コクッ


 僕は力なく頷いた……ぐすん。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 剣を振る。


 庭を破壊する。


 何度も繰り返した。


(――でも、おかげでわかってきた気がする)


 身体は自由に動く。


 だから、剣技も本来できるはず。


 だけど、この4日間で肉体に染み込ませた動きが、無意識に邪魔をしているのだ。


 前世でいうなら、あれ。


 日本語に慣れていると、英語の発音や聞き取りが難しくなるのと同じ。


 何も知らない子供の方が上手だよね。


 だから、


(1度、忘れよう)


 と、意識する。


 新しい剣技を覚えるつもりで、最初から丁寧に肉体に刷り込ませる。


 ボッ ボッ


 木剣が、大気を破壊する。


 たまに、


 ドン


 庭の芝生と土が吹き飛ぶ。


 でも、失敗するよりも、成功する回数も増えてきた。


(――うん)


 剣の重さもわかる。


 最初は、ないと錯覚した。


 でも、今ならわかる。


 ないと思うぐらい軽量の木剣があったのだ。


 あるのにないと思うぐらい、さっきまでの僕の感覚は大雑把で、今は集中して、それがわかるぐらいの繊細な扱いができている。


(……凄いな)


 剣の世界って奥が深いや。


 僕は、笑う。


 音も変わる。


 ヒュ ヒュン


 木剣が空気を斬っている。


 剣質が変わったのだ。


 途端、


「ほう?」


「まぁ……」


 金印と銀印のお姉様方は、揃って感嘆の声を漏らした。


 もう庭は破壊されない。


 木剣は、ただ目の前の空間だけを斬る。


 と、その時、


「――よし、手合わせするぞ」


 ガシャ


 金属の鎧を鳴らし、レオナックさんが前に出た。


 僕も手を止める。


(ふぅぅ……)


 息を整え、改めて木剣を構えると、王国最強の美女と対峙した。


「うん、お願いします」


「うむ」


 師匠も木剣を構える。


 空気が引き締まる。


 僕ら2人を、姉妹も固唾を飲んで見守る。


 風が吹く。


 赤い髪がなびき、


 トッ


 僕は、前に出た。


 踏み込み、上段から木剣を落とす。


 ヒュン


 確かな剣技。


 赤髪の美女は笑いながら、


 ガギィィ


 僕の木剣を斜めに受け流した。


 激しい摩擦で、互いの木剣の表面から白煙が昇っている。


 と、彼女の剣が回転する。


(!)


 見える。


 手首の返し1つで、下段からの切り上げだ。


 狙いは、首?


 半歩下がり、避ける。


(合わせて……!)


 彼女の木剣が通り抜けた瞬間に、自分の木剣で彼女の手首を狙った。


 ヒュッ


 当たる。


 思った瞬間、


 ガィン


(うわっ!?)


 柄頭で受けられた。


 角度を変えられ、僕の木剣は空を斬ってしまう。


 同時に、僕の剣を弾いた反動で、彼女は流れるように上段の構えになっていた。


(何それ?)


 計算したの?


 唖然としながら、足を踏ん張る。


 ズンッ


 光合成の脚力が、踏ん張る右足を地面にめり込ませた。


(ええい!)


 その状態で、強引に下から剣技を放つ。


 ヒュッ


 レオナックさんの剣が落ちてくる。


 木剣同士がぶつかり、


 バカァン


(ほわっ!?)


「ぬっ」


 激突した2本の木剣が砕け散り、折れた部分が弾け飛んだ。


 ビリリ……


 手が、痺れる。


 僕らは剣技を放った姿勢のまま、数瞬、静止した。


 やがて、


「ふむ、大したものじゃ」


 レオナックさんの表情から、戦いの意思が消えた。


 木剣を引く。


 ……ん。


 僕も、戦意を解く。


 息を吐き、


「ありがとうございました」


 ペコッ


 直立し、頭を下げる。


 師匠は金色の目を軽く見開き、すぐに笑う。


「うむ」


 と、頷いた。


 僕を見つめ、


「まだ荒いが、充分じゃ」


「…………」


「実力的には、白印以上、銀印未満か。ティナでも苦戦しそうじゃの」


 と、姉妹の方を見る。


 姉は微笑み、頷く。


 妹の方は「そ~お?」と仏頂面だ。


 レオナックさんは、


「まだまだ伸びしろもある。ふふっ、今後の成長が楽しみじゃの」


 と言い、


 ポンポン


 その白い手が、僕の頭を軽く叩く。


(ん……)


 少しくすぐったい気持ち。


 でも、


(手応えはあったよね)


 自分が強くなっていく感触、そして、より強くなれるという予感。


 折れた木剣を見る。


 まだ行ける。


 本気で『光合成』を使いこなし、もっと剣技を覚えれば、多分、レオナックさんにだって負けないようになれる。


 そう感じた。


(――うん)


 僕は、強く頷いた。


 そんな僕を、年上の2人は眩しそうに見ている。


 同い年の少女は唇を尖らせ、


「……ところでさぁ」


 と、口を開いた。


(ん?)


 彼女は周囲を見て、


「稽古したかったのはわかるけど、この庭の惨状、どうすんのよ?」


「え?」


 僕らも庭を見る。


 あ……。


 何度も『光合成』の馬鹿力で地面を叩いたから、芝生のあちこちが穴だらけになっていた。


(わぁ~っ!)


 ご、ごめんなさい。


 慌てる僕。


 師匠も、


「ぬ……すまんな」


 と、少し申し訳なさそう。


 でも、クレティーナさんは優しく微笑む。


「構いません」


「え?」


「シーナの努力の証ですから。多少、庭が荒れても問題ありませんよ」


「…………」


 僕は、唖然。


 なんて、過保護な……。


 姉の言葉に、妹の少女も呆れ顔である。


(うん、駄目だよ)


 甘やかしに惑わされるな。


 自分を律し、


「ごめん。直すよ」


「シーナ」


「自分のしたことだから、直したい」


「…………」


 驚く彼女を見つめ、言い切る。


 クレティーナさんは困惑し、そして、困ったように微笑む。


 僕はしゃがむ。


 掘られた土を、穴に戻していく。


(んしょ、んしょ)


 3人は、その様子を眺める。


 やがて、


「手伝います」


「一部は我のせいだしの」


「はぁ~、仕方ないわねっ」


 と、全員で庭の穴を直すことになった。


 僕は青い目を瞬く。


(……みんな)


 その優しさに、つい笑みがこぼれる。


 ザッ ザッ


 手と借りたシャベルで、何とか無数の穴を埋め終えた。


 でも、


「芝生、禿げたわね」


 と、パルシュナ。


 確かに、緑の芝生のあちこちで黒い土が剥き出しだ。


 見た目が悪い。


 年上2人は、


「仕方ありません」


「ふむ……すまぬな、ティナ」


 と、言う。


 でも、僕は、


「大丈夫」


「え?」


「シーナ?」


「何よ、大丈夫って?」


 3人は、僕を見る。


 僕は短く息を吐き、頭に生えた『葉っぱ』を揺らしながら前に出た。


 パアッ


 2枚の葉が光り、


(――お願い)


 と、心の中で願った。


 途端、


 ザザァッ 


 芝生の根や茎が延伸し、地中から新しい草が生えてくる。


 あっという間に、土の部分が緑に埋まった。


 3人とも、唖然。


 僕は、そんな彼女たちを振り返る。


 首を傾け、


「――ね?」


 頭で光る『葉っぱ』を揺らしながら、笑ったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
光合成による強化が仇となったがまだ修正可能か・・・また、魔力纏いと併用できなさそう? 色々と課題が多いが、取り敢えず「問題ない」感じか・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ