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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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042・魔力を纏え

 朝が来た。


(うわぁ、土砂降りだ……)


 ザァァ……


 窓の外、空は灰色の雲だらけで、無数の雨粒が地上へと落ちていた。


 窓ガラスも、


 バチバチ


 と、激しい音を立てている。


 葉っぱのある僕は、雨も美味しそうと思わなくもないけれど、人間部分の感情は濡れたくないなぁと感じてしまう。


 階下に降り、姉妹と会う。


「おはよう」


「おはようございます、シーナ」


「おはよ。うあ~、髪がまとまらないわぁ」


 嘆くパルシュナ。


(あらら)


 跳ねる髪を直すのに、苦戦中だ。


 優しい姉が苦笑しながら、櫛で梳くのを手伝っている。


 やがて、朝食。


 雨は勢いを変えず、降り続く。


(レオナックさん、大丈夫かな?)


 と、心配に思ったり。


 食事も終わり、その30分後、玄関の鐘が鳴った。


 慌てて向かう。


 扉を開くと、


「ぷふぅ、参った参った」


 と、赤毛のお姉さんが玄関に飛び込んでくる。


(わぁ、びしょ濡れだ)


 一応、防水の外套を羽織っている。


 でも、雨と風の勢いが強かったのか、顔や髪がかなり濡れていた。


 服も一部、透けている。


「まぁまぁ」


 家主のお姉さんが、何枚かタオルを持参する。


 レオナックさんは外套を脱ぎ、受け取ったタオルで身体を拭く。


 僕も手伝う。


 頭の後ろで結ばれた長い赤髪を、


 ポンポン


 軽くタオルで挟むようにして、水分を吸わせる。


「すまんな」


 と、笑うレオナックさん。


(何言ってるの)


 僕の方こそ、こんな雨の日にまで僕の稽古のために来てくれて感謝なのだ。


 髪ぐらい、いくらでも拭くよ?


 姉妹も参戦し、粗方、乾燥する。


「もういいかの?」


「ですね」


 家主の美女も認め、全員で玄関からリビングに移動した。


 椅子に座る。


 クレティーナさんがお茶を淹れてくれ、各人の前のテーブルに置く。


「ありがと、クレティーナさん」


「いいえ」


 僕のお礼に、彼女ははにかむ。


 そして、彼女も席に着く。


 僕の正面に、レオナックさん。


 僕から見て左側に、クレティーナさん、パルシュナの2人が並んで座る。


「――さて」


 師匠が口を開く。


 僕を見ながら、


「今日は『魔力纏い』を教える」


「うん」


「実演し、練習させたいが――その前にまず、軽く座学からいこうかの」


「座学?」


 僕は、青い目を丸くする。


 彼女は笑い、


「魔力とは何か、その説明じゃ」


 と、言った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「魔力とは――文字通り『魔の力』じゃ」


 と、師匠。


 その辺を指差し、


「大気中には『魔素』がある」


「魔素?」


「魔力の源、目に見えぬ空気の成分の1つじゃ。人は呼吸と共に、自然と魔素を体内に取り入れておる。その血中を流れて、全身に行き渡っておるのじゃよ」


「へ~?」


 酸素みたいものかな?


 彼女は続ける。


「魔素は特殊での。人の意思に反応し、様々な作用を起こす」


「様々な作用?」


「そうじゃ」


 レオナックさんは頷き、右手を持ち上げる。


 その手の甲に、


 ポウッ


 と、魔法の紋章が光った。


「こんな風にの」


「ああ、うん」


「また世の魔導具の多くも人の意思を起点に『魔素』を動力として動く。魔法も同様じゃ。そうした魔素による力の流れを一般に『魔力』と呼ぶのじゃ」


「へぇ~、そうなんだ?」


 面白い話だね。


 僕は、青い目を輝かせてしまう。


 そんな弟子の素直な反応に、師匠も満足そうである。


 と、姉妹の姉が言う。


「『魔力纏い』は、その体内の魔素を使います」


「うん」


「血液中の魔素を活性化させ、魔力を練り上げ、疑似的な神経、筋肉、血管、骨格などを生み出し、全身に纏い、それにより肉体機能の強化を行う技術になります」


「うん」


「ただ、負荷も大きいです」


「そうなの?」


「ええ」


 彼女は頷く。


 僕の前で、綺麗な指を3本立てる。


「約3分」


「?」


「一般的な『魔力纏い』の持続時間です。人により、誤差はありますが」


「へ~?」


「発動中は、血中の魔素濃度が低下していきます」


「うん」


「もし長時間使用した場合、急性の魔素欠乏症を発症して意識の喪失や、最悪、死に至ることもありますよ」


「え……」


 死に至る……?


(そんな怖い技なの?)


 驚く僕に、


「だから、3分」


「…………」


「死なないための大切な目安時間です。覚えておいてくださいね?」


「うん」


 僕は頷いた。


 クレティーナ先生も微笑み、頷いてくれる。


(そっか)


 結構、危険があるらしい。


 でも、便利。


 リスク以上のメリットがあるから、皆、使うんだろうしね。


 なら、正しく覚え、正しく使う。


 うん、それでいい。


(よし、がんばって覚えるぞ!)


 ギュッ


 僕は両手を握り、気合を入れる。


 その様子に、年上の美女2人は笑い、同い年のパルシュナだけは肩を竦めていた。


 やがて、


「では、実際にやってみるかの」


 と、師匠が口にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕は、全員の前で立ち上がる。


(え~と……)


 どうすれば?


 師匠が言う。


「目を閉じ、まずは体内の魔力を感じよ」


「あ、うん」


 言われ、素直に閉じる。


 視界は暗闇。


 自分の身体に意識を集中する。


(…………)


 でも、わからない。


「冒険者印を出せるのだから体内魔力は存在する。そして、無意識での魔力操作もできておろう。『魔力纏い』はその操作を意識的に、そして、より精密に行うものじゃ」


「う、うん」


「……どうじゃ?」


「…………」


「…………」


「駄目。わかんない」


 僕は、息を吐く。


(『光合成』の時みたいに、熱い力の流れがあればわかるけど……何も感じないよ)


 何でだろう?


 師匠も、


「ふ~む、わからぬか」


 と、難しい顔である。


 パルシュナが言う。


「ま、普段、魔力なんて意識しないしね。最初はそんなもんじゃないの?」


「で、あるかの」


 考えながら、レオナックさんも頷く。


 う~ん?


(慣れたらわかるのかな?)


 正直、実感、湧かない。


 と、その時、


「シーナ、私が手伝いましょう」


「ん?」


 クレティーナさんが席を立ち、僕の前にやって来た。


 すぐ目の前だ。


 彼女は、僕の両頬に手を添える。


 ドキッ


(え? 何?)


 目を閉じた美貌が、僕の方へと近づいてくる。


 ち、ちょっと?


 コツ


 慌てる僕の額に、彼女の額が当たった。


 甘い匂い。


 吐息も感じる。


 硬直する僕に、


「1度、私がシーナの体内魔力を操作します」


「え……あ」


「まずは、魔力の流れを感じましょう。さぁ、力を抜いて……」


「う、うん」


 僕は、脱力。


(何か、キスする姿勢みたい)


 ……いやいや、何考えるんだ、僕は?


 せっかく、クレティーナさんが協力してくれてるんだから、集中、集中!


 と、目を閉じる。


 その耳に、


「呼吸を合わせて」


「うん」


「大丈夫。私を信じ、全てを委ねてください」


「ん……」


 すぅ、はぁ。


 感じる彼女の呼吸に、自身の息を合わせる。


 何となく。


 ――世界に、彼女と2人だけの感じ。


 周りを忘れる。


 と、その時だ。


(ん……?)


 触れ合う額を中心に、何かが全身に流れているのを感じた。


 血流……?


 でも、少し温かい。


 光合成の『聖気』とは違う。


 もっと弱く、儚く、寂しく、すぐに消えてしまいそうな頼りない力だ。


(え、これ?)


 これが魔力?


 こんな弱々しいの……?


 僕は驚く。


 もっと、大きな力を想像していた。


 ああ、うん。


(見つからない訳だよ)


 と、納得してしまう。


 僕は言う。


「うん、魔力、感じたよ」


「はい」


 彼女の声がして、ゆっくり額が離れる。


(あ……)


 少し残念。


 目を開けると、彼女が微笑んでいた。


 僕も笑い、


「ありがとう、クレティーナさん」


「いいえ」


 彼女は首を振る。


 柔らかく、綺麗な長い髪もサラサラと揺れた。


 両手は僕に触れたまま、


「シーナのお役に立てたのなら、何よりです」


 と、はにかむ。


(ク、クレティーナさん)


 その献身的な言葉と甘い表情に、思わずドキッとしてしまう。


 お、落ち着け、僕。


 すぅ、はぁ。


 と、レオナックさんが頷く。


「うむ。ティナの魔力操作は、我ら3人の誰よりも繊細じゃからの。王国でも右に出る者はそうおらぬ」


「へ~?」


 そうなんだ?


 妹の方も、ドヤァ……と誇らしげである。


(うん、凄いんだね)


 と、3人で彼女を見る。


 でも、ご本人は、


「多少、器用なだけですよ」


 と、苦笑し、謙遜なさる。


(う~ん、奥ゆかしい美人さん)


 ともあれ、魔力を感じられた。


 次は、


「その魔力を練り上げ、全身に満たしていけ」


「うん」


 師匠の指示に、僕は頷く。


 目を閉じる。


 呼吸しながら、さっきの感覚を思い出す。


(あ、いた)


 か弱い力の流れ……僕の魔力。


 練る。


 つまり、集めて行けばいいのかな?


(集まれ、集まれ……)


 と、意識する。


 弱々しい力が、弱々しい動きで集まり、全身を流れていく。


 これでいいの?


 正解がわからず、迷う。


 すると、


「手伝います」


 と、クレティーナさんの声が。


(あ、うん)


 彼女の手が僕の頬に触れ、額同士が当たる感触がする。


 吐息を感じる。


 ドキドキ


 と、その時、


(お……)


 体内にある魔力の流れが、急に速くなりだした。


 お、お?


 ――速い。


 その流れに引き寄せられるように、弱い力がどんどん集まり、やがて、大きな力となって全身を流れていく。


(わわっ!?)


 力が集まる。


 流れの中で、その幅が広く、太くなり、全身に広がっていく。


 熱い。


 全身が熱く、満たされる。


「シーナ」


 声がした。


 目を開ける。


 すぐ目の前にある、美しい顔。


 彼女は微笑み、


「手も離します。でも、その状態を維持するよう、意識し続けて」


「あ、うん」


「はい、離します」


 スッ


 頬の手が離れる。


 温もりが消え、少し寒い。


 同時に、体内の流れが揺らぎ、集まった力の熱が放散していくのを感じた。


(わ、わ、待って)


 必死に引き止める。


 と、師匠が、


「シーナ、これを持て」


(え?)


 木剣だ。


 いつもの木剣を渡される。


 でも、


(……軽い?)


 あのずっしりした重さを感じない。


「構え、振れ」


「う、うん」


 戸惑いながら、正眼に構える。


 そして、上段へ。


 スッ


 うん、驚くほど楽に上がる。


(えいっ)


 ヒュッ


 木剣を振り落とし、床に当たらないよう静止させる。


 か、軽ぅ。


 剣速が乗り、かつ止めるのも楽々だ。


 驚く僕に、


「――それが『魔力纏い』じゃ」


 と、師匠が言う。


 手伝ってくれたクレティーナ先生も微笑み、頷く。


(これが……)


 凄いや。


 自分の変化というより、周りの全てが軽くなったように感じる。


 だけど、


(あ……力が)


 30秒もすると、集まった魔力が霧散する。


 木剣の重さも戻る。


 いつものずっしり感だ。


(ああ~、残念……)


 戻ってしまったことに、僕は落胆する。


 その様子に、


「ふむ、まだ維持は無理か」


「ですね」


 と、美女2人は会話する。


 パルシュナは「あ~ら、下手っぴ~」と小馬鹿にしたように笑ってくる。


 うぬぬっ。


「も、もう1度やる!」


 と、僕は宣言。


 全員が見守る中、再挑戦する。


 でも、


(ま、魔力が集まらない)


 何で?


 と、焦る。


 緑髪の美人先生が微笑み、


「落ち着いて、シーナ」


「あ……」


「『魔力纏い』はとても繊細な技術です。1歩ずつそのやり方を感じ、覚えていきましょう」


「う、うん」


「今は、私が手伝いますね」


 と、僕に近づく。


 ピタッ


 白い両手が、頬に触れる。


 紫水晶のような瞳は、少し潤み、優しく細められている。


 お互いの額が当たる。


 サラッ


 長い髪がこぼれ、僕の顔や首の肌を撫でていく。


 甘い香りがする。


 ドキドキ


 何だか、顔が熱い。


 見ていた少女が、


「……アンタ、わざとできないフリしてんじゃないでしょうね?」


 と、不機嫌そうに唇を尖らせる。


(ち、違うよ!)


 即、否定。


 でも、嬉しいのは事実。


 だって、こんな美人のお姉さんに触れてもらえるんだもの。


 チラッ


 彼女を上目遣いに見る。


 彼女も気づき、


「…………」


 その頬を、ほんのり赤くする。


 そして、


 クスッ


 どこか恥ずかしそうに微笑んだ。


(か、可愛い……!)


 僕も赤面である。


 そして、僕の体内の魔力を、再びクレティーナさんが操る。


 ん、熱い。


 その感覚に身を委ね、覚える。


 何度も、何度も……。


 そうして、クレティーナさんと肌を触れ合わせながら、僕は『魔力纏い』のやり方を学んでいったんだ。

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― 新着の感想 ―
流石に一朝一夕では出来ないか・・・まぁ、光合成とはまた勝手が違うのもあるから苦戦しているのかな?
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