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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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041・パルシュナの短剣

「――さっ、次は私ね!」


 クレティーナさんとの稽古が終わると、その妹が出てきた。


 手には、木製の短剣が2本。


 ヒュン ヒュン


 曲芸師のように空中で回転させ、キャッチしている。


(……来たか)


 僕は、木剣を構える。


 ある意味、1番負けたくない相手。


 実力的に劣っているのはわかってる。


 だけど、同い年の女の子であり、年上2人よりは冒険者ランクも低く、僕に近い実力のはずである。


 姉には何もできなかったけど、


(せめて、パルシュナには……!)


 と、思ってしまう。


 僕の表情に気づき、


「ふふん、無駄な足掻きよ♪」


 と、余裕の笑みだ。


 むむっ。


 なまじ顔がいい分、腹立つよ~。


(くそぅ、絶対、負けない!)


 グッ


 僕は、木剣を握る手に力を込める。


 見守る大人2人は、顔を見合わせ、苦笑する。


 そして、


「よし、始め!」


 と、師匠が告げた。


 芝生の庭で、僕とパルシュナは正対する。


 彼女も弄んでいた短剣を両手に握り、「ふ~ん?」と呟く。


 で、歩き出す。


 ――僕の方へ、無造作に。


(え?)


 あまりの無防備さに、驚く。


 戸惑い、


(――えい)


 即、木剣を振った。


 女の子でも、容赦しない。


 だけど、


 ガッ ベキン


 霞むように動いた短剣が木剣を弾き、もう1本の短剣が太ももを叩いた。


(!?)


 激痛。


 力が入らなくなった足が折れ、


 ビュッ


(うわっ!?)


 膝をついた僕に、短剣が落ちてくる。


 慌てて、木剣で受け流しをしようとし――瞬間、短剣が止まり、もう1本の短剣が下から木剣を弾き飛ばした。


(あ……)


 完全、無防備。


 その顔面に、


 ゲシッ


 少女の足裏が直撃する。


「っっ」


 堪らず、僕は仰向けにひっくり返る。


 け、蹴られた。


 理解し、涙目で少女を見て、


(!)


 彼女は更に足を上げ、追撃の体勢だった。


 バッ


 慌てて、横に転がる。


 ドン


 その頭の横に、彼女の足が落ち、地面の草を踏み潰した。


「あら、避けれたの?」


 と、意外そうな声。


 僕は無様に転がりながら距離を取り、慌てて立ち上がる。


 木剣を構え直した。


(く……っ)


 鼻が痛い。


 そして、年上2人より容赦がない。


 少女は笑う。


「ふんっ、私は姉上たちみたいに甘くないわよ? クォレンの時みたいに反則されなきゃ、アンタなんてケチョンケチョンよ!」


 ヒュン


 片手の短剣を回転させる。


 逆手持ちだ。


 ただし、もう1本は順手持ち。


(何だ、あの構え?)


 僕は警戒する。


 そして、思った以上に彼女はやる気みたい。


 ……ん。


 それでいい。


 その方が、本気の稽古になる。


 僕は息を吐き、


「負けない」


 短く言い返した。


 少女は「はっ」と呆れた笑い。


 そして、言う。


「思い上がるな、つーの」


 トン


 その場で1度、軽く跳ねる。


 着地し、


 ヒュッ


(!?)


 少女が一気に加速し、僕に襲いかかった。


 ――速い!


 木剣を振る。


 でも、簡単に弾かれ、逆手の短剣が僕の左肩を刺す。


 ベキッ


(痛っ)


 鎖骨、やばいかも……っ。


 同時に、木剣を握る左手から力が抜け、片手持ちになってしまう。


「おらっ」


 ドカッ


 お腹を蹴られた。


 後ろに飛ばされ、僕は片膝をつく。


 慌てて立とうとした正面に、少女は、凄まじい瞬発力で迫り、2本の短剣を連続で揮った。


 ガッ ゴッ バキン


(っっっ)


 3連続の攻撃。


 木剣で防げたのは1回のみで、残りは全て喰らう。


 1撃は脇腹へ。


 そして、もう1撃はこめかみ。


 更に、


「ほら、おまけっ!」


 ドコッ


 重い蹴りが僕を再び蹴り飛ばす。


(ぐへっ)


 仰向けに倒れた。


 追撃は――来ない。


 僕は慌てて立ち上がり、


 グラッ


(あれ?)


 視界が揺れる。


 世界が斜めで、真っ直ぐ立てない。


 あ……。


(脳震盪?)


 と、気づく。


 ドタッ


 気づいた時には、地面にひっくり返っていた。


(うぐっ)


 少女は悠然と近づき、


「ふん、動き、ノロマ過ぎ。その程度で私に勝てるとか思うな、ブァ~カ」


 と、言う。


 くっ……悔しい。


 でも、言い返せない。


 師匠は、


「――そこまで!」


 と、宣言した。


 少女は「ふふん」と笑い、背を向ける。


 その少女の姉は、慌てて「シーナ」と駆け寄って来てくれる。


 この差よ……。


 彼女の手を支えに座ったまま、


 パアッ


 光合成を開始。


 2枚の葉っぱが輝き、回復が始まる。


(ん……)


 各部の痛みが消え、眩暈も収まる。


 ふぅ~。


 僕は立ち上がった。


「もう大丈夫なのですか、シーナ?」


「うん」


 心配するお姉さんに、僕は笑う。


 彼女は息を吐く。


 そして、実の妹を責めるように見る。


 気づき、


「何よ、稽古でしょ?」


「ですが、実力差を考えなさい。ここまでする必要は……」


「へいへい」


 妹は肩を竦める。


 僕は苦笑し、


「大丈夫、クレティーナさん」


「シーナ」


「怪我は治せるし、その差を知るための稽古だから。パルシュナは間違ってないよ」


「…………」


 黙り込む、心配性のお姉さん。


 妹の方は口笛を吹く。


「ひゅう、格好い~」


「…………」


「弱いのに偉いわね~? まだやる気?」


「うん。もちろん」


 僕は頷く。


 パルシュナは紫色の目を見開いた。


 数秒の間、


「ふ~ん? 懲りない奴ね」


 と、短剣を構える。


(……ふふ)


 内心、僕は笑う。


 彼女には、実は何の利点もない稽古。


 でも、僕が望んだら、まだ付き合ってくれるという。


(本当、根はいい子)


 口は悪いけどね。


 僕も木剣を構える。


 その様子に、クレティーナさんは困ったような顔をする。


 師匠を見る。


 赤髪の美女は頷き、


「ふむ、ならば続行じゃ」


 と、宣言した。


(当然だ)


 僕とパルシュナも頷く。


 と、師匠が言う。


「短剣は出が早く、手数も多い。パル自身、身軽じゃ。その連続した攻撃の速さは、我ら3人の中でも1番であるぞ」


「――うん」


 僕は頷く。


(痛感してるよ)


 今の稽古で全く手が、速さが追いつけなかった。


 そんな僕に、


「じゃが、木剣の方が武器は長い」


 と、師匠。


 パルシュナは「ちょっと、レオ!?」と抗議する。


 それに苦笑し、


「忘れるな?」


 と、弟子に師事してくれた。


 武器は長い……。


 つまり、


(間合いか)


 僕は理解する。


 少女は「ふん」と不機嫌そうになりながら、2本の短剣を構える。


 僕は、構えを変えた。


 突きの構え。


 姉妹は驚きの表情を見せ、師匠は笑う。


 間合いの有利。


 それは、


(ついさっき、クレティーナさんに散々見せてもらったっけ)


 だから、やり方を真似る。


 少女は一瞬、嫌そうな顔をした。


(お……正解か)


 でも、すぐに勝気な表情に戻り、


「ふんっ、付け焼刃で何とかなると思わないでよね!」


 と、言い捨てる。


 同時に、


 トン


 1度、その場で跳ねる。


(――来る)


 僕は集中し、


 ヒュッ


 再び彼女は、霞むような速さで接近してきた。


 剣先だけ合わせる。


(前に進めば、自滅するぞ?)


 と、圧力をかける。


 彼女は右に避け、


 クン


 即、左に動きを変えた。


(フェイントだ)


 2度目だからか、心に余裕ができたからか、見切ったぞ。


 剣先を合わせ、


「やっ」


 木剣を突く。


 ガギィン


 2本の短剣が、その軌道を横にずらそうとする。


 でも、


「ち……っ」


 少女が身を捻った。


 ずらし切れず、回避したのだ。


 彼女が下がった。


(やった)


 ただの仕切り直し。


 でも、さっきと違い、追い返せたのだ。


 レオナックさんは「うむ」と満足そうに頷く。


 少女の姉も、


「シーナ」


 と、驚きの表情だ。


 パルシュナは舌打ちし、


「ふんっ、多少はやるじゃない。いいわ、私ももう少し本気を出してあげる!」


 と、言い出す。


 負け惜しみ?


(いや、多分、本当だ)


 表情に真剣さが増している。


 今までより、重い圧を感じる。


 僕も木剣を構え、


「――来い」


 と、短く応じた。


 …………。


 …………。


 …………。


 結局、パルシュナを追い返せたのは、その1度だけだった。


 それ以降は、彼女の宣言通り、その手数と速さが3割増しになり、僕の実力では対応し切れなかったのである。


(やっぱり強い)


 と、思い知る。


 パルシュナも、


「ふふん、どうよ!?」


 と、地面に倒れた僕へと勝ち誇る。


 だけど、


(汗まみれだ)


 幼い美貌には、珠の汗が輝いている。


 少し綺麗。


 年上の美女たちは、笑っている。


 少女の姉は、


「パルにも良い稽古になりましたね」


「じゃの」


 それに、レオナックさんも同意する。


 その目を細め、


「じゃが、シーナの成長の早さには驚かされるの。光合成の回復もあるが、何よりその挑戦への失敗を恐れぬ心こそ、1番の強みかもしれぬ」


 と、言った。


 クレティーナさんも頷く。


(そ、そう?)


 よくわからないけど、嬉しい。


 芝生の中に倒れたままの僕は、必死に乱れた呼吸を整えながら、広がる空を見上げる。


 高くて、青い。


 そして、西の方が赤くなっている。


 やがて、


「よし、今日はここまでじゃ」


 と、よく通る流麗な声が、本日の稽古終了を告げたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 夕食の時間となった。


 本日もレオナックさん同席で、食事の場は進む。


(う~)


 食事しながら、僕は唸る。


 料理は美味しい。


 でも、思い返せば、今日は2連敗。


 特に、同い年のパルシュナと決定的な実力差を見せつけられ、少々、平静ではいられなかった。


 稽古の時は、多少、満足感もあった。


 けど、時間の経過と共に、もっとできなかったかと悩んでしまう。


 うん、悔しいんだ。


(うぬぅ……)


 僕の表情に、少女は愉悦の顔である。


「ふふ~ん♪」


「くっ……」


 パクパク


 もう、やけ食いシーナである。


 年上の美女たちは苦笑し、


「気にするな」


 と、師匠が言う。


 で、でも~。


「物心ついた7年前から、パルは冒険者だったんじゃぞ? 3日で追いつける訳があるまい」


「うぅ……」


 正論だ。


 だけど、感情は別だから。


 少女の姉は、


「シーナは充分、善戦していましたよ?」


 と、褒めてくれる。


 でも、嬉しくない。


 だいたい、クレティーナさんだって、僕を子供みたいに――いや、子供なんだけど――あしらった御本人だし。


 何より、


(1回ぐらい、勝ちたかった!)


 無念、無念である。


 グスン


 涙目の僕に、パルシュナは「にょほほ~♪」と高笑いする。


 年上の美女たちは、顔を見合わせる。


 苦笑し、


「仕方がないの」


 と、師匠が呟く。


 そして、


「シーナ」


「…………」


「実は、そなたの敗因は、実力不足だけではない」


「……え?」


「我とティナは、素であった。しかし、パルは後半、『魔力纏い』を使い身体機能を強化していた。1番の敗因は、その差じゃぞ」


「…………」


 な、何だって~!?


 僕は、唖然。



 ――魔力纏い。



 確か、体内の魔力を練り、筋力とか動体視力、反射神経を一時的に強化する技だとか。


 つまり、自家製ドーピング。


 僕は、パルシュナを見る。


「何よ? それも私の実力の内よ? 文句あるの?」


 と、おっしゃる。


(ぬ……ぬぬ)


 確かに、文句ないけど。


 でも、


「何か、ずるい……」


「はぁ!?」


 僕の呟きに反応し、彼女は席を立つ。


 バチチッ


 睨み合い。


 師匠と少女の姉は、また苦笑する。


 そして、僕らから視線を外すと、レオナックさんは窓の外を見た。


(……?)


 つられて、僕も見る。


 もう暗い夜の空だ。


 紅白2つの月が輝き、けど、雲が多いのか、少し輪郭がぼんやりしている。


 彼女は言う。


「明日は雨か」


(え?)


 わかるの?


 凄い。


 天気予報もない世界だし、空模様で自分で判別してるのか。


 僕を見て、


「明日は『光合成』は無理そうじゃ」


「あ……」


 言われて、僕も悟る。


 ――回復できない。


 つまり、この3日間みたいな、負傷前提の負荷の強い稽古は無理ってこと。


 師匠は言う。


「まぁ、ちょうどいい」


「え?」


「明日は、シーナにも『魔力纏い』を教えるかの」


「!」


 ガタッ


 僕は席を立つ。


「うん、覚えたい!」


 と、強く言う。


 レオナックさんは笑い、「そうか」と頷いた。


 パルシュナは、


「えぇ~? 教えるのぉ?」


 と、不服そう。


 その姉は、宥めるように妹の髪を撫でる。


 僕を見て、


「繊細な魔力操作が必要で、ある意味、肉体は疲れませんが、精神の方は今日よりも疲れるでしょう。どうか、そのつもりでいてくださいね?」


「う、うん」


 落ち着いた忠告に、何とか頷く。


 精神負荷のかかる稽古か。


 大変そうだけど、


(もし覚えたら、次はパルシュナにも、きっと……)


 ……うん。


 魔力纏い、僕も覚えてやる!


 よ~し、やるぞ~!


 ギュッ


 両手を握り、窓の夜空を見上げる。


 気合を入れる僕に、3人は微笑んだり、苦笑したり、不服そうにしたりしていた。


 やがて、


「では、また明日の」


 と、レオナックさんも帰宅。


 僕も姉妹と別れ、自室に戻り、夜が更けていく。


 すると、


 ポツポツ


 深夜、雨音が聞こえ出す。


 やがて、


 ザァァ……


 日付が変わる頃には、師匠の予想通り、空から大粒の雨が降り出したのだった。

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― 新着の感想 ―
今回のパルシュナとの稽古はクレティーナとは逆でしたね。シーナも間合いの事で学習し、対策を施せるようになったのはある意味成長ですな。同時に、パルシュナの戦闘スタイルと実力がよく表れてて良かったです。パル…
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