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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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036・慢心と現実

 夕食後、


「では、また明日の」


 と、レオナックさんは帰っていった。


 明日、僕の稽古に必要な道具を持って、また来てくれるとのことだった。


(手間かけちゃうな)


 申し訳なく、ありがたい。


 やがて、夕食の後片付けをして、僕と姉妹も就寝する。


 自室のベッドへ。


「…………」


 う~ん、明日が楽しみだ。


 なかなか眠れないかと思ったけど、


 スヤァ


 と、気がついたら寝落ちしていた。


 今日は今日で、ゴブリン討伐に行って、それなりに疲れていたのかもしれないね。


 で、翌朝だ。


 朝食を食べ、


 ソワソワ


 落ち着かない僕に、姉妹はそれぞれ微笑んだり、呆れたりしている。


 そして、


 カランカラン


(来たっ!)


 玄関の鐘が鳴り、僕は一目散に飛び出した。


 ガチャッ


「いらっしゃい!」


「ぬお?」


 勢いよく開いた扉に、そこにいた赤毛の美女は驚いた顔をしていた。


 遅れて姉妹もやって来る。


 姉は微笑み、


「いらっしゃい。シーナが首を長くして待っていましたよ」


「そのようじゃの」


 レオナックさんも苦笑する。


 妹の方は「子供よね~」と肩を竦めている。


 何だい、同い年?


 ともあれ、時間が惜しく、僕らは広い庭へと移動する。


 ちなみに、天気は快晴。


 絶好の『光合成』日和だ。


 レオナックさんは赤髪をポニーテールに結び、袖なしのシャツにズボンと動き易そうな格好だ。


 その手には、細長い布包みがある。


 封を開くと、


(木剣?)


 が、数本、出てきた。


 姉妹は「懐かしいわね~」「ですね」と覗き込んでいる。


 目を丸くし、僕も1本を拝借。


 お?


(思ったより、重いぞ)


 光合成してない素の状態だと、なかなか重量を感じる。


 と、師匠曰く、


「中に、鉄芯が入っておる」


「鉄芯?」


「金属剣と同じ重さにするためじゃ」


「へ~?」


「まぁ、当たれば木剣でも骨は折れるし、最悪、死ぬこともある」


「…………」


「扱う以上は集中し、気をつけよ?」


「うん」


 僕は神妙に頷いた。


(そうだね、遊びじゃないんだ)


 冒険者の仕事は命懸けで、それに備えるための稽古なのだから。


 パンパン


 頬を叩き、気合を入れる。


 そんな僕に、美人の師匠は笑う。


 クレティーナさんも微笑み、パルシュナは肩を竦めている。


 そして、


「やる気の所、悪いが、すぐに木剣は使わぬ」


「え?」


「まずはシーナ。頭から葉っぱを出し、無手の状態で我と戦うが良い」


 と、師匠は言う。


 え、葉っぱ出して?


 レオナックさんと?


 いや、でも、光合成状態の僕、自分で言うのもなんだけど、力もあるし速いし、滅っ茶強いのだ。


(怪我させちゃうよ?)


 と、心配になる。


 でも、彼女は笑う。


「案ずるな」


「でも……」


「まずは、そなたの慢心を砕く」


「…………」


「己の強さがいかに幻想か、現実を教えてやろう。――さぁ、己の弱さを知るが良い」


 そう楽しげに。


 朝日に白い歯を輝かせながら、王国最強の『金印冒険者レオナック・オルン』は言ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 しっかり準備運動をしたあと、僕らは庭で向き合う。


 距離は、約5メートル。


 観客は、縁側に座るレヴィン姉妹だ。


 対戦相手となるレオナックさんは、自身の剥き出しの二の腕に、1枚の赤い布を巻く。


 不思議に思う僕に、


「この布を奪えば、そなたの勝ちじゃ」


「え?」


「そのためなら、何をしても良い。殴ろうと、掴もうと、押さえ込もうと、自由にやれ」


「…………。うん、わかった」


 僕は頷いた。


 随分、自信がある様子。


 でも、


(本気出したら、怪我させちゃうよね?)


 自分の手を見る。


 幼く、短い指。


 だけど、少し強く握ったら、石を砕く力がある。


 うん、


(加減しよう)


 内心では、そう決めておく。


 ニョキッ


 頭に、葉っぱを生やす。


 太陽の光を吸収し、2枚の葉は神々しく輝いた。


 パアアッ


 周囲を照らす。


 全身に、熱い力が流れる。


 3人は目を細め、


「ふっ……来い」


 レオナックさんは、どこか楽しげに誘った。


 よし、


(行くぞ)


 僕は、地面を蹴る。


 ボッ


 芝草と土が後方に吹き飛び、僕は5メートルの距離を一気に縮める。


 布に手を伸ばす。


(ん、届く)


 そう思った――瞬間、


 スッ


 彼女の腕が遠ざかった。


(え?)


 思った瞬間、視界がギュッと回転する。


 ドン


「がっ?」


 背中に衝撃。


 気づけば、青空が見えた。


 ……え、何?


 茫然としていると、レオナックさんの顔が覗き込んでくる。


「大丈夫か?」


「え?」


「起きろ」


 起きろ?


 言われて、ようやく自分が芝生に大の字だったことに気づいた。


 ガバッ


 慌てて、身体を起こす。


 何が……?


(まさか、今、投げられたの?)


 状況をようやく理解する。


 ドッ ドッ


 心臓が強く鼓動する。


 立ち上がった僕を、赤毛の美女が見ている。


 笑いながら、


「まだやれるな?」


「あ……う、うん!」


 僕は頷く。


 嫌な汗が出る。


(……違う。今のは、加減し過ぎたんだ)


 今度は、本気。


 多少、怪我させても『光合成』で治せばいい。


 本気で行くぞ。


 グッ


 腰を落とし、足に力を溜める。


「んっ!」


 ドン


 さっき以上に地面を大きく吹き飛ばし、彼女に迫る。


 再び手を伸ばし、


 パシッ


 手首を掴まれた。


(!)


 抵抗があり、押し込もうとした――瞬間、支えが消える。


 わっ?


 重心が前に崩れた。


 同時に足をかけられ、僕は地面に前から倒れ込む。


 ズシャッ


(ぐへっ?)


 口の中に、芝が入った。


 慌てて起きようと、力を込める。


 でも、肩と肘と手首の関節が決められ、イタタタ……!?


(お、起きれない!)


 地面を這い、逃れようとする。


 だけど、


 グイ ギシシ


 レオナックさんは掴んだ手首を支点に、角度を弄り、僕の動きを完全に制御し、地面に固定し続ける。


(な、何だこれ~?)


 力は僕が上。


 でも、技術で押さえ込まれてしまう。


 な、何もできない。


 パッ


 彼女の手が離れる。


 途端、自由を取り戻す。


「どうした? もう終わりか?」


「っ」


 僕は跳ね起き、


 トン


 瞬間、振り向いた額を、人差し指と中指の2本で軽く突かれた。


(へっ?)


 ドタッ


 下半身と上半身のバランスが崩れ、あっさり仰向けに倒れてしまう。


 再びの青空。


 嘘ぉ……。


 観客のパルシュナが愉快そうに笑っている。


 姉のクレティーナさんは、少し申し訳なさそうな表情で微笑んでいた。


(…………)


 柔よく剛を制す。


 前世の格言を思い出す……うん、まさにそれだ。


 僕は、上体を起こす。


 座ったまま、目の前の美女を見る。


 彼女は笑う。


 勝ち誇るでもなく、自慢するでもなく、理解していく僕の反応を楽しげに見ている。


 その後、3度、挑んだ。


 1度目は、また転ばされた。


 2度目は、力を利用されないように、ゆっくり近づいた。


 だけど、


 パシッ


(あ……)


 逆にその遅い手首を掴まれ、左右に揺らされたと思ったら、また転倒させられる。


 3度目、全力の突進。


 今度も軽くいなされ、


 ドンッ


 かと思ったら、直後、壁にぶつかったみたいに強く跳ね返された。


 地面を転がる。


 土と草の匂いがする。


 

 ――強い。



 何をしても通じない。


 ああ……そうか。


(これが、金印の冒険者……王国最強の称号が与えられた人の強さなのか)


 青空を見て、ようやく実感する。


 上体を起こす。


 うん、わかった。


(僕の、完敗だ)


 多分、『光合成』は負けていない。


 だけど、その強力な力を扱いきれない『僕』が負けたのだ。


(悔しい……)


 単純な負けより、よっぽど悔しい。


 彼女は言う。


「己の現実を知ったか?」


「……うん」


「そうか」


 静かに頷く。


 そして、



「――それが、本当の強さへの第1歩じゃ」



 と、続けた。


 彼女を見上げる。


 レオナックさんは笑い、座り込む僕へ手を伸ばしてくる。


(…………)


 その手を見つめ、握る。


 熱い手だ。


 僕を見る金色の瞳が細まり、優しく頷く。


 紅い唇が開き、


「さぁ、強くなるぞ、シーナ」


 グッ


 声と共に、その手は力強く僕を立ち上がらせた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「うけけっ、無様ね~、シ~ナ♪」


 観客の少女――パルシュナが満足そうに笑う。


(むむっ)


 何で、そんなに嬉しそうなのかな、君は?


 全くぅ。


 少女の嫌味に、僕は憮然。


 でも、一方的にやられたのは事実。


 反論できない。


 だけど、援護は意外な所から。


 僕を倒した美女が、


「いや、そうでもない。我も数度、ヒヤリとしたぞ」


「え?」


「へ?」


 僕らはレオナックさんを見た。


 彼女は言う。


「技術はないが、その身体能力は圧倒的じゃ。実際に手合わせしてわかったが、正直、これほどかと驚嘆したぞ」


「…………」


「…………」


 つい、パルシュナと顔を見合わせる。


 えっと、


「あ、ありがと」


 照れ臭くなりながら、お礼を言った。


 美人な師匠は笑う。


 と、少女の姉も口を開く。


「もしかしたら、『魔力纏い』したレオと同じか、それ以上の身体能力に感じましたね」


「うむ、かもしれぬ」


 と、赤毛の美女は同意した。


(魔力纏い?)


 僕は、首をかしげる。


 気づいて、


「戦技の1つです」


「戦技の……?」


「はい。体内の魔力を練り、疑似的な筋肉、骨格を作り出し、一時的に身体機能を高める技です。特にレオは、その上昇率が凄いんですよ」


「へ~?」


 言われて、思い出す。


 黒い竜との戦いの時、レオナックさん、自分の何十倍もの体重の竜の一撃を、真正面から弾き返してみせたのだ。


(あれのことかな?)


 そう考えると、凄い技だ。


 と、少女が言う。


「ふん。冒険者の必須技能よ」


「ええ、そうですね」


 姉も頷き、


「騎士や傭兵など戦いを生業とする者は、基本、皆が使えます」


 と、付け加えた。


(なるほど)


 考えたら、3人は女性だ。


 でも、冒険者の第一線で戦っている。


 つまり、よくある男女の身体能力差よりも『魔力纏い』の有無や性能の方がこの世界では重要なのだろう。


 僕は聞く。


「僕でも、できる?」


「もちろんです」


 クレティーナさんは微笑み、頷いた。


 美人な師匠も、


「無論、教えよう」


「やった」


「しかし……『魔力纏い』は一時的じゃが、そなたは太陽がある限り、永続的に先の身体能力を発揮できるのか」


「え? うん」


「ふむ、反則じゃのぅ」


「…………」


 苦笑し、しみじみ言われた。


(ええと……)


 困り、姉妹の方を見る。


 優しい姉の方は微笑み、妹の方は「けっ」と舌打ちする。


「まぁ、良い」


 赤毛の美女は、息を吐く。


 僕を見て、


「大きな力じゃが、状況により使えぬのも確か。今は、そなた自身の地力を鍛えよう」


「あ、うん」


「今日は、剣の扱いを教える」


 と、木剣を示す。


 僕は頷く。


 師匠は言う。


「まず、基本の剣技を覚えよ」


「うん」


「稽古は先に葉のない状態で行い、次に葉のある状態で行う。両方の違いを感じながら、けれど、同じように技を使えるようになれ」


「うん、わかった!」


 シュッ


 僕は、頭の葉っぱを引っ込める。


 木剣の1本を握る。


(ん、重い)


 レオナックさんの方を見て、


 ペコッ


「よろしくお願いします、師匠!」


 頭を下げる。


 彼女も微笑み、「うむ」と頼もしく頷く。



 ――そして、僕、シーナの稽古初日が始まったんだ。

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― 新着の感想 ―
今回はレオナックの強さとシーナの弱さをよく表した回でしたね、分かりやすくて面白かったです。次回から本格的な修行が始まる訳ですか。
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