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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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34/42

034・討伐を終えて

 戦いは終わった。


 すると、


「では、シーナ。小鬼ゴブリンの死体から、右耳を回収しましょう」


 と、クレティーナさんが言い出した。


(え? 右耳?)


 僕は青い目を丸くする。


 彼女は頷き、


「討伐証明です。小鬼の場合はその部位で、冒険者ギルドに提出しなければなりません」


「あ、そうなんだ」


「はい」


 決まりなら、仕方ない。


 僕は「うん、わかった」と頷いた。


 全員で作業する。


 耳を摘まみ、


 サクッ


 折れた小剣の刃で斬る。


(…………)


 まだ生暖かい。


 できるだけ感情を殺し、斬った耳は防水布の袋にしまっていく。


 23匹分だ。


 なかなか、数があるね……。


 と、その作業中、


「しっかし、シーナも意外とやるわね」


 と、パルシュナが手を止めずに呟いた。


(え?)


 僕は、彼女を見る。


「素人の癖に、まさか小鬼20匹を1人で殺しちゃうとは思わなかったわよ。正直、あの馬鹿力には呆れたわ」


「そ、そう?」


「ね、あの怪力も『聖気』のおかげ?」


「うん、多分」


「ふ~ん?」


 サクッ


 返事をしながら、少女は小鬼の耳を斬る。


 ポイッと袋に投げ込み、


「あの時、周りの植物が伸びて、小鬼の足を止めてたけど……あれもシーナがやったんでしょ? 何あれ? どうやったのよ?」


 と、再び質問される。


 見れば、年上の美女2人も僕を見ていた。


 3人で答えを待っている。


(えっと……)


 僕は、あの時を思い出す。


 そして、答えた。


「僕も、よくわからないんだ」


「わからない?」


「うん。でも、葉っぱを生やしてる時は何となく、周りの植物が僕を敬ってくれる感じで、望んだら勝手にやってくれたんだよ」


「へぇ……」


「今も、ほら」


 と、指を向け、


 シュル


 パルシュナの足元の草が、その足首に絡みつく。


 彼女は驚き、


「うわっ、気持ち悪っ!」


 シュパッ


 手にした短剣で、即、足首の草を斬る。


(わぁっ?)


 ご、ごめんよ、草。


 僕が変なことを頼んだせいで、無駄に斬られてしまった。


 でも、植物は強いから。


 少しぐらい切断されても、きっと大丈夫だと信じたい……。


 そして、少女の姉は、


「なるほど、面白い能力ですね」


 と、感心する。


(そうかな?)


 でも、クレティーナさんにそんな風に言われると、何だか嬉しくなる。


 えへへ……。


 照れる僕。


 彼女も優しく笑っている。


 と、レオナックさんも、


「確かに、今回の結果は、なかなか興味深いものじゃったの。シーナの持つ身体能力、特殊能力、そして、その性格……色々とわかった点も多い」


「あ、うん」


「何より、単独で小鬼20匹を全滅させた。――その戦闘力も見事じゃったぞ」


「うん、ありがとう」


 彼女にも褒められた。


 相手は、王国最強の冒険者の1人だ。


(うん、素直に嬉しいよ)


 僕の表情も緩んでしまう。


 でも、


「じゃがの」


 と、レオナックさんは続ける。


(ん?)


 その黄金の瞳が、僕を見る。


 赤い髪が風になびき、そして、彼女は淡々と、



「――そなた、このままだと遠からず、死ぬぞ?」



 と、口にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(え……死ぬ?)


 僕が?


 突然の言葉に、僕は唖然。


 パルシュナも「へ?」って顔をしている。


 でも、クレティーナさんは何か思い当たる点があるのか、「あ……」と短く呟いた。


 レオナックさんの表情も、真面目なものだ。


(……冗談ではなさそう)


 僕はその意味を聞こうとし、


「む? 耳集めも終わったか」


「え?」


 気がつけば会話しながらの作業で、23枚分の右耳が回収されていた。


 彼女は息を吐く。


「よし、帰るかの」


「え、あの」


「詳しい説明は、あとでしてやる。今は、クエスト報告が先決じゃ」


「…………」


「それが、冒険者というものよ」


 と、笑う。


(う、うん)


 正直、気になるけど、今は従う。


 レオナックさんは小笛を取り出し、ピーッと吹いて、3頭の狗竜を呼ぶ。


 1分もしない内に、


 トトトッ


 森を駆け、狗竜が現れた。


 ん、利口だね。


 全員、騎乗する。


 視点も自然と高くなる。


 そこから見下ろせば、周辺には、右耳のない小鬼たちの死体が散らばっていた。


 血だまりも広がっている。


(…………)


 自分がやったこと。


 でも、少しだけ黙祷してしまう。


 そんな僕の頭を、クレティーナさんが優しく撫でる。


 こうした死体も、野生の動物や魔物に食べられ、数日の内に消えてしまうのだろう。


 レオナックさんは手綱を引き、


「よし、行くぞ」


「うん」


「はい」


「は~い」


 リーダーの号令で、僕らは森を走り出した。


 …………。


 …………。


 …………。


 森を出ると、小村に向かう。


 実は、依頼主は『フィーンレイド王国』なので、この村への報告義務はないらしい。


 だけど、


「1番不安なのは地元の民じゃからの」


 と、レオナックさんの判断で立ち寄ることにしたんだ。


 実際、報告すると、 


「ああ、ありがとうございます!」


 と、村長さんや村人たちもとても喜んでくれた。


 皆、安心した表情で。


 それを見て、


(――うん)


 僕は、ようやく自分がしたことを誇れる気持ちになったんだ。


 そして、王都へ帰還。


 約2時間、朝、来た街道を逆に走る。


 やがて、辿り着いた東大門の前には、


(うわっ)


 何百という規模で人々と車両が並んでいた。


 え……?


(これ、全部、王都に入る手続き待ち?)


 僕は茫然だ。


 パルシュナは、


「いつものことよ」


 と、慣れた様子で、でも、気怠そうに言う。


(そっか~)


 結局、順番が来るまでに1時間ぐらい待ち、手続き自体は3分かからずに終わったよ。


 で、ようやく王都フィーンドリアの中へ。


(ふぅ)


 と、一息。


 でも、ここから大通りの車道を走り、冒険者ギルド第3支部の白い塔を目指す。


 やがて、無事に到着。


 駐車場奥の獣舎に、3頭の狗竜を預け、僕らは塔に入る。


 正面の扉を潜ると、


(あ、イリオナさん)


 と、1階ロビーを歩く、顔見知りのギルド職員さんを見つけた。


 向こうも気づき、


「あ、シーナ君」


 と、丸い尻尾をパタパタさせる。


(う~ん、可愛い)


 彼女は3人の担当ギルド員でもあるので、そのまま、クエスト完了手続きをお願いする。


 イリオナさんは、


「うん、もちろん♪」


 と、笑って快諾してくれた。


 金印のレオナックさんが目立つので、個室に案内される。


 右耳の入った袋を渡し、


「じゃ、鑑定頼んでくるから、ちょっと待っててね」


 と、1度、彼女は退室。


 10分ぐらいで、戻ってくる。


 当然、問題もなく。


 受注代表者のレオナックさんは依頼書を返し、右手の魔法印を輝かせながら、水晶玉に触ったりする。


(ふむ……?)


 多分、本人確認かな。


 冒険者印と依頼を連結して、ギルドで記録してるのかもしれない。


 あと、書類への署名も行う。


 隣のお姉さんに聞くと、


「あれは、依頼主へ提出する完了報告書です」


 と、クレティーナ先生。


 特に今回は、王国が依頼主なので、署名する書類も複数必要なのだとか。


 何枚も名前書くの、大変そう。


 ともあれ、署名が終われば手続きも終了である。


 最後に、イリオナさんが全書類を見直す。


 その最中、


「え? シーナ君1人で、20匹倒したの?」


 伝えたら、とても驚かれた。


(えへへ)


 がんばりました。


 僕は照れながらも、胸を張る。


 でも、彼女は、


「ちょっと! 3人とも、何、新人に無茶させてるの!? シーナ君、昨日、登録したばかりなんだよ?」


「ぬ……?」


「え……?」


「へ?」


「育て方、自分たち基準で考えてない? 3人は才能あるからいいけど、普通は違うんだよ?」


「…………」


「…………」


「…………」


「シーナ君のこと、もっと大事にしてあげて」


 と、担当さんに怒られる。


 3人は顔を見合わせる。


 で、僕を見る。


(ええと……)


「だ、大丈夫。大事にされてるよ」


 と、答えた。


 3人もコクコク頷く。


 イリオナさんは「本当~?」とジト目である。


 僕は「うん」と答え、


 ニコッ


 と、笑顔を作る。


 イリオナさんは数秒、無言。


 そして、嘆息し、


「何かあったら、すぐ、私に相談してね?」


 と、言ってくれた。


(は~い)


 優しい担当ギルド員さんでよかった。


 で、最後は報酬だ。


 報酬金額はパーティー全員で均等に分配され、ギルドの口座に入金されるとのこと。 


 へ~、口座?


 冒険者登録すると、自動で作られるらしい。


 イリオナさん曰く、


「王国銀行とも連結してるし、国内外の冒険者ギルドならどこでも引き出せるよ。あと一般の商店でもギルド提携店なら、現金じゃなくて『冒険者印』で支払えたりもするからね」


 とのこと。


(おお……)


 異世界もキャッシュレスの時代なのか。


 凄いものだね。


 ちなみに今回の小鬼討伐、報酬は500リドだとか。


 日本円で、約5万円。


 1人当たりだと、1万2500円ぐらい。


 少女は、


「うわ、安ぅ」


 と、呆れたように言った。


 あと、ゴブリンの耳が1枚1リドで買取されて、2300円の追加報酬がある感じ。


 これは3人が遠慮し、全額、僕がもらえることになった。


(みんな、ありがとう)


 と、感謝。


 計、約1万4800円。


 決して高くはないけれど、これが僕の冒険者としての初報酬だと思うと……うん、少々、感慨深いや。


 で、報酬も入金され、個室から退室だ。


 部屋を出ると、


「シーナ君」


「?」


「今回は初クエスト、お疲れ様でした。よくがんばったね」


 と、イリオナさんに頭を撫でられた。


(あ……)


 なんか、沁みるね。


 僕も「うん」と素直に答えられた。


 3人の仲間も、僕を見ていた。


 やがて、イリオナさんに見送られながら、冒険者ギルドをあとにする。


 白い塔の外に出ると、


(わ……もう夕方だ)


 太陽は西の空に沈みかけ、空は赤く夕焼けに染まっている。


 全員、目を細めて夕日を見つめる。


 そして、


「ティナ」


「はい」


「今日はこのまま、我もそなたの家に行ってもよいか?」


 と、レオナックさん。


(え?)


 僕は驚き、青い目を瞬く。


 でも、家主の美女は落ち着いた表情のまま、頷いた。


「ええ、構いませんよ」


「そうか」


「やだ、レオ、うち来るの? じゃあ、夕飯も一緒ね!」


 と、妹も嬉しそう。


 そんな少女に、美女たちも微笑む。


 そして、レオナックさんは赤毛の髪を揺らしながら、こちらを振り返る。


 金色の瞳が僕を見つめ、


「シーナ」


「あ、うん」


「今日の件を見て、そなたに話しておきたいこともある」


「僕に?」


 何だろう?


 彼女は、金色の瞳を細める。


「そなたには死んで欲しくないからの。口うるさく感じるかもしれぬが、どうか聞いてくれ」


「…………」


 その眼差しに、声に、誠意を感じる。


 だから、


「うん」


 僕は、素直に頷いた。


 彼女も頷く。


 姉妹は顔を見合わせる。


 そうして僕ら4人は、夕暮れの道を姉妹の家目指して歩いていったんだ。

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― 新着の感想 ―
レオナックの言う「遠からず死ぬ」というのは躊躇いの事を指摘するのかな?
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