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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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33/43

033・シーナの初陣

 最初に感じたのは、嫌な臭いだった。


 血と腐った何かの匂い。


(何だ、これ?)


 戸惑いながら、足音や服や装備の擦れる音に注意しながら、ゆっくり茂みを進む。


 草木の声も、



 ――気をつけて。



 と、警告してくる。


 やがて、見えた。


 進路上の森の木々が途切れ、小さな空き地になっている。


(あ……)


 そこに、いた。


 人間の子供ぐらいの大きさの、緑の肌をした人型生物――小鬼ゴブリンだ。


 数は……え~と、1、2、3、4……、


(うん、23匹だ)


 空き地の中央に、鹿の死体がある。


 手足が千切れ、内臓がこぼれ、血だまりが地面に広がっている。


 臭いの元はあれか。


 小鬼たちの口元は、血で汚れている。


 食事中だったらしい。


 強い血の臭いに紛れて、茂みに隠れる僕らの存在には1匹も気づいていなかった。


 観察して、気づく。


(へぇ……)


 小鬼の手には、武器があった。


 動物の骨、あるいは、石と木の枝、植物の蔓などで作った骨のナイフや石斧、木編みの盾など。


 他にも、獣皮の服。


 木枝や骨でできた歪な鎧なども身に着けている。


 ――凄い。


 道具を作り、使う知恵があるんだ。


(頭いいな)


 ただの動物とは違う。


 と、その時、


 クイッ


(ん?)


 後ろのクレティーナさんに服の裾を引かれた。


 軽く手招きされる。


(何だろう?)


 息を殺し、全員で空き地から少し距離を取る。


 声を潜め、


「無事、巣を見つけましたね」


「あ、うん」


 僕は頷く。


 彼女は空き地を見て、


「奴らを全滅させねばなりません。そこで、役割分担を決めましょう」


「役割?」


「はい」


 彼女は頷き、仲間2人を見る。


 そして、もう1度、僕を見て、


「まず、奇襲を仕掛けます」


「うん」


「小鬼の行動は、応戦、逃走の2種類に分かれるでしょう」


「うん」


「逃走されては厄介です。なので、それを防ぐために、レオとパルには空き地の反対側で待機してもらいます」


「あ、待ち伏せ?」


「はい」


 美人先生は微笑む。


 出来の良い生徒を褒めるような笑顔である。


 僕は聞く。


「じゃあ、僕は?」


「私と一緒に、奇襲を担当しましょう」


「奇襲を?」


「はい」


 彼女は頷き、


「ですが、私は当てにせずに」


「え?」


「もしもの時は助けます。ですが、私たちは今のシーナの能力を知りたいのです」


「あ……」


「だから、極力、シーナ1人でやるようにしましょう」


 と、僕を見つめる。


 レオナックさん、パルシュナも僕を見ている。


(そっか)


 これは、試験。


 僕、シーナが彼女たちの仲間に相応しいかどうかの。


 ――うん。


 僕は頷き、


「わかった」


 クレティーナさんを見つめ返した。


 彼女は笑う。


 何も言わず、


 ポン


 僕の肩に1度、優しく触れる。


 その後、レオナックさん、パルシュナは空き地の反対側に移動するため、この場から去ろうとする。


 去り際、


「ではの」


「ま、精々、がんばんなさいよ」


 とのお言葉。


 そして、物音も立てず、草木の茂みの奥に2人の姿が消えた。


 僕は、息を吐く。


 1~2分後、


 ピ~ ヒョロロ


 鳥の鳴き声のような音が、遠く2方向から聞こえた。


「合図です」


 2人とも、配置についたようだ。


 僕は頷く。


 小剣の柄を握り、


 シャン


 鞘から抜く。


 危険な刃が、一瞬、陽光を反射する。


 その重さが頼もしい。


(――よし)


 空き地を見据える。


 頭に生えた『葉っぱ』からも、全身に熱い力が流れてくる。


 僕は息を吸い、


 タッ


 止めると同時に地面を蹴り、隠れていた茂みから飛び出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『光合成』による脚力だ。


 僕の小さな身体は、弾丸みたいに飛び出す。


(ん……!)


 景色が弾け、風圧を感じる。


 走りながら小剣を振り被り――瞬間、振り返った小鬼の1匹と目が合った。


 ドクン


 心臓が跳ねる。


 同時に、


 ドシュッ


 小剣の刃は、その肩口から袈裟斬りに深く食い込んだ。


 肉を裂き、骨を砕く感触。


(あ……)


 小鬼は、驚きの表情で血を吐いた。


 何が起きたか、わかっていない――わからないまま、小鬼の目から光が消え、絶命した。


 トサッ


 その小さな身体が、地面に崩れ落ちる。


 それを見て、一瞬、立ち竦む。



 ――殺した、僕が。



 目の前の生物を。


 その事実を、両手に残る感触で理解し、実感する。


 ほぼ同時に、周囲の小鬼全てが僕に気づき、驚愕と仲間を殺された憎悪の表情を浮かべた。


『ギギッ!』


『ホギャアアッ!』


 武器を手に、一斉に吠える。


 凄まじい圧力。


(み、耳が……!)


 鼓膜が痺れる程の大音量だ。


 そして、目の前の3匹が一斉に襲いかかってくる。


(……っ)


 反応が遅れた。


 まずい。


 避け切れない。


『光合成』で上昇した動体視力が、それを理解させる。


 身体が強張り、


 ヒュパン


 その3匹の首が、同時に刎ね飛ばされた。


 ……え?


 僕は、茫然。


 その耳に、


「落ち着いて、シーナ。私がいます」


 背後から声がした。


 振り返ると、白い槍を振り抜いた体勢でその人が立っていた。


 あ……。


(クレティーナさん)


 僕は、目を丸くする。


 彼女は静かな表情で、


「魔物は人を襲います。その小鬼を倒したことで、シーナは未来の人々を守ったのです。――だから、迷わずに」


 と、言う。


 その凛とした声が、深く胸に響く。


 心が落ち着く。


「――うん」


 僕は頷いた。


 小鬼の方を向き、小剣を構え直す。


 もう、迷いはない。


 タッ


 僕は走り出す。


 小剣を振り被り、


「やっ!」


 バキャッ


 振り下ろした刃は、防ごうとした骨のナイフを砕き、小鬼の頭蓋を叩き潰した。


 血と脳漿が噴き出す。


 グッ


(む?)


 刃が抜けない。


 構わず、力任せに振り回す。


 小鬼の死体がすっぽ抜け、他の小鬼たちにぶつかる。


『ギャッ!?』


『ギギ……ッ!?』


 驚く小鬼たち。


 怯んだそちらに駆け寄り、小剣を振る。


 ドパッ サキュン


 小鬼たちの手が、足が千切れ、胴体が切断される。


(ん……)


 血の臭いが凄い。


 でも、心を殺し、剣を振る。


 1度、手を止めてしまったら、動けなくなってしまいそうだったから。


 ザン ドシュ


 殺戮が続く。


 時折、小鬼も反撃してくる。


 でも、


(見える)


『光合成』の動体視力で。


 だから、迫る石斧を簡単に小剣で弾き、あるいは回避する。


 ドパン


 下段から振り上げ、小鬼を上空に吹き飛ばす。


 空中で、2つに千切れた肉体が血と内臓を撒き散らした。


 顔に、かかる。


 頬についた返り血を腕で拭い、


「はぁぁっ」


 僕は、熱い息を吐いた。


 頭の上では、2枚の葉っぱが神々しい光を放っている。


 ヒィン


 力が湧く。


 ああ……うん。


(負ける気がしないや)


 最初は怖かったけど、でも今は、自分が死ぬイメージが湧いてこない。


 僕は、強者だ。


 小鬼は、弱者。


 もう、弱い者いじめだ。


 見れば、クレティーナさんも僕の一方的な戦いに、少し驚いた表情をしていた。


 あはは……。


 小鬼たちも気づいたみたい。


 僕を見る目に、怯えや恐怖が宿る。


 ジリ


 1歩、近づく。


 瞬間、小鬼たちは逃げようとする。


(――逃がさない)


 無意識に、左手が伸びる。


 手のひらを向け、


 ザザザッ


 周囲の植物が伸び、逃げようとした小鬼たちの足に絡まった。


『ギャギ!?』


『フ、フギョオ……ッ!?』


『ギッ!? ギッ!?』


 全員、焦った顔。


 ドパン


 僕は、その首を小剣で刎ねる。


 1匹ずつ。


 ドパン ドパン


 順番に。


 ドパン ドパン ドパン


 死の行進を歩み、やがて、僕は全部の小鬼の首を刎ね飛ばした。


 そして、


 パキィン


(――あ)


 最後の1匹を斬ったと同時に、小剣が折れた。


 ありゃりゃ?


 僕の腕力に、耐え切れなかったのか。


 残念。


 勿体ない……。


 少し落ち込みながら顔を上げれば、空き地は血の海だった。


 動く魔物はいない。


 23匹、全て死んでいる。


「…………」


 一瞬だけ、心に冷たい風が吹く。


 でも、一瞬だ。


 その時、


 ガサッ


 奥の茂みが揺れ、見れば、レオナックさんとパルシュナが現れた。


 2人は、少し驚いた様子。


「ふむ、全滅か」


「嘘ぉ」


 と、呟く。


 2人は、こちらに歩いてくる。


 気づけば、クレティーナさんも僕の隣に移動していた。


 少女は、


 ゲシッ


 足元に転がる小鬼の頭を蹴る。


 僕を見て、


「ふん、素人の癖にやるじゃない」


 と、言った。


 その大きな紫色の瞳には、珍しく僕を認める輝きがあった。


(…………)


 少女の姉も笑う。


「ええ、私のサポートも最初だけでしたね。初めてだというのに、実に見事でしたよ」


 と、褒めてくれる。


 レオナックさんは、僕の手の小剣を見る。


 刃は、根本付近で砕けている。


「ふむ?」


 と、唸り、


「なるほど、大したものじゃ。じゃが、課題は多そうじゃの」


 と、少し辛口だ。


 でも、全員、僕を認めてくれている感じ。


 だけど、


「シーナ?」


 僕の様子に、クレティーナさんが気づく。


 僕は、答えない。


 答えられない。


 手が震えている。


 戦っている間は平気だったのに、終わった途端、震え出したんだ。


 他の2人も気づく。


 顔を見合わせ、そして、クレティーナさんが優しく微笑む。


 僕の手に触る。


 ピクッ


 少し、反応する。


 強張った僕の指から、彼女は丁寧に小剣を外してくれた。


 僕を抱き締め、


「がんばりましたね、シーナ」


 と、耳元で囁いた。


(……っ)


 彼女の体温が伝わる。


 温かくて、甘やかな香りがして、何だか落ち着く。


 一瞬、涙が出そうで、


 グッ


 僕は唇を噛み、何とか耐えた。


 少しだけ力を抜き、彼女に身を委ねる。


 その腕の中で、


「……うん」


 短く答え、頷いた。


 僕、シーナの冒険者としての初陣は完勝で……でも、少しだけほろ苦い味がした。

ご覧頂き、ありがとうございました。


次回更新は来週6月1日(月)0時以降を予定しています。

どうぞよろしくお願いします。


※本作は、月水金の週3回更新です。

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― 新着の感想 ―
光合成による能力に頼っている部分はあるけれど、初陣は最初のアシストを除いて自力で討伐出来たのはグッド。だけど、精神的に乗り越えられるか(ゴブリン等の魔物相手とはいえ、○しを割り切れるか)が課題・・・か…
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