031・小鬼討伐クエスト
(明日、クエストを?)
僕は驚いてしまう。
でも、対照的に、姉妹は最初は驚いたものの、すぐに納得の表情になった。
姉の方が頷き、
「確かに。いきなり私たちのクエストに同行させるよりは、その方がシーナも経験を積めるでしょう」
「そうね~。まずはお手並み拝見って感じ?」
と、妹も同意する。
(あ、いいんだ?)
でも、そうだね。
僕、まだ実戦経験ないし。
王国最高位の『金印』が受けるような高難度クエストより、まずは初心者用のクエストの方がいいかもしれない。
(うん)
現状の目標は、冒険者としての自立。
その勉強にもなる。
レオナックさんの提案は、きっと渡りに船だろう。
僕も頷き、
「うん、やりたい」
と、答えた。
僕の答えに、彼女も満足そうに笑う。
「そうか。ならば、このあと、我はギルドで適当なクエストを受注しておく。明日、朝5時にギルド集合じゃ。――皆、良いの?」
「うん!」
「はい」
「オッケー、了解よ」
僕と姉妹も頷いた。
その後、言葉通り、レオナックさんは帰ってしまう。
一応、クレティーナさんがお昼ご飯を一緒に食べていかないか提案したんだけど、残念ながら断られてしまった。
彼女曰く、
「すまぬ。今日は、次の予約されたクエストの打ち合わせがあっての」
とのこと。
(忙しいんだねぇ)
と、去っていく背中を見送った。
その玄関で、
「アンタ、感謝しなさいよ?」
「え?」
「金印のレオは、本来、王侯貴族からの指名依頼が入るような立場なの。2年ぐらい、クエスト予約も埋まってるんだから」
「え、そうなの?」
「そうよ」
「…………」
「そのレオが自分の時間を割いて、アンタの面倒見ようとしてんだからね」
「……うん」
パルシュナの言葉に、僕は頷く。
そっか。
(僕、幸運なんだな)
今更、実感する。
彼女の消えた方向を見て、
「――明日はがんばるよ」
と、口にした。
そんな僕に、緑髪のお姉さんも何だか優しい眼差しをしていた。
◇◇◇◇◇◇◇
あっという間に、翌日だ。
昨日の夜は、
(う~、眠れないなぁ)
と、若干、寝不足。
遠足前の子供みたいで……いや、まぁ、前世の自分は覚えてないし、今の僕は子供なんだけど。
ともあれ、3時半時起床。
軽く朝食を食べ、準備する。
真新しい旅服に小剣を装備すると、うん、
(――身が引き締まるね)
自分が冒険者だと感じるよ。
姉妹と家を出たのは、4時半前。
太陽はまだ東の山脈に隠れ、でも、山の端が白く輝いていた。
街灯に照らされる道を歩く。
到着したのは、5時の10分前だ。
冒険者ギルドの白い塔に着くと、こんな早朝なのに何人もの冒険者が出入りしていた。
1階ロビーに入る。
視線を巡らせると、
(あ、いた)
ロビー左奥の待合席の1つに、赤毛の美女が座っていた。
「お、来たの」
向こうも気づく。
待合席には、彼女以外にも何人かいる。
どうやら待っている間、知り合いの冒険者たちと談笑していたみたいだ。
僕と姉妹が近づくと、
「時間じゃ。皆、またの」
と、輪の中心にいた美女が言う。
周りの人たちは残念そうに立ち上がり、去っていく。
すれ違い様、お互い会釈。
「初クエストだってな」
「がんばってね」
と、声をかけられたり。
(あ、ども)
慌てて頭を下げる。
レオナックさんも笑って立ち上がり、僕らに言う。
「3人とも、待っておったぞ」
「うん」
「はい」
「お待た~」
「歩きながら、クエストの説明をする。まずは獣舎の狗竜を受け取りに行くぞ」
と、歩き出した。
僕らもあとに続く。
戦斧を背負い、赤毛の髪が流れる背中を追いながら、説明を受ける。
最初に、
「今回のクエストは『小鬼討伐』じゃ」
と、言われた。
(おお、定番だね?)
異世界の代表モンスターの1種である。
しかも、初心者にぴったりな印象だ。
僕は「うん」と頷く。
姉妹の姉が、
「数と場所は?」
「推定20。場所は、北東の小村が面した森じゃ」
「小村ですか」
「うむ。森に入った村人が目撃し、村長が王都の役所に連絡したそうじゃ」
「おや、役所に?」
「本来、地域の安全を守るのは国の役目じゃからの。じゃが、王国兵を動かすのは時間と費用がかかる。そのため、役所は王国を依頼主として冒険者ギルドに依頼を出したのじゃよ」
「なるほど」
「ま、国から民間へ、仕事を斡旋する目的もあるのじゃろう」
と、彼女は言う。
(へ~、そんなこともあるんだね?)
今度は姉妹の妹が、
「遠いの?」
「王都から3万メードほどじゃ。日帰りできるの」
3万……。
(約30キロか)
でも、姉妹は驚いた顔をする。
「3万っ?」
「そんなに近いのですか?」
と、聞き返す。
(え?)
2人の様子に、僕は戸惑う。
レオナックさんも難しい表情で頷き、
「そうじゃな。この距離での目撃報告はあまり聞かぬ。やはり、『護国の神樹』が枯れた影響が出ておるのかもしれぬ」
「…………」
「…………」
「…………」
皆、深刻な雰囲気だ。
(う、う~ん)
空気が重い。
僕も何か言い辛く、全員で黙り込んでしまう。
10秒ほど沈黙があり、やがて、レオナックさんが長く息を吐く。
気を取り直すように、
「まぁ、よい」
「…………」
「難しい判断は上の人間に任せよう。今日はシーナのためにやるぞ」
ポン
と、僕の頭を叩いた。
(あ……)
姉妹も僕を見る。
「ま、そうね」
「ええ、今日はシーナの大事な冒険者デビューの日ですものね」
と、妹は軽く、姉は生真面目に頷く。
僕も頷き、
「うん、がんばるよ」
と、答えた。
3人も笑った。
やがて、獣舎に辿り着く。
飼育員に声をかけると、彼は奥へ向かう。
やがて、
(あ……)
手綱を引かれ、懐かしい3頭の竜が顔を出した。
竜たちも3人を見つけ、
クルル
と、少し嬉しそうに鳴く。
そうして再会した3頭の狗竜に乗り込み、僕らは王都の通りを走り出したんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
大通りの車道を、東へ向かう。
やがて、辿り着いたのは、王都フィーンドリアの東大門だ。
(わ、おっきい)
まるで巨人用のサイズ。
王国の権威を示すためか、重厚で、かつ美しい。
その正面には、クォレンの街に入る時同様、手続き待ちの人と車両が列をなしていた。
(ひぇ~)
数が多い。
クォレンの何倍だ?
(まだ5時台なのに、みんな早起きだね……)
と、呆れちゃう。
僕の様子に、同乗する美女が笑う。
「日中はもっと混雑しますから。今は空いている方ですよ」
と、教えてくれる。
(ええ?)
これで空いてるの?
僕、唖然です。
やがて、30分ほどで順番が来る。
代表のレオナックさんが冒険者印を光らせ、外出の理由を説明し、2~3分で大門を通れることになった。
待ち時間との落差よ……。
で、王都の外に出る。
(おお……)
草原の平野だ。
地平線まで広がり、遠くに森と山脈が見える。
その広がる草の大地に、1本の街道が伸びていた。
石畳で、幅のある道。
その上を、たくさんの人と車両が移動しているのが遠目にも見えていた。
(広いなぁ)
狭い日本とは違う。
なんか、景色のスケール感が違う。
その草原の街道を、僕らを乗せた3頭の狗竜も走っていく。
トットッ
風で、僕の金髪もなびく。
(んん~、気持ちいい)
しばらく、走りを楽しむ。
すると、
(お?)
前方の街道が枝分かれした。
片方は石畳の広い本流で、もう片方は土で作られた狭い支流――僕らは北方面に向かう支流の街道へと入っていく。
見かける人と車両の数も減る。
その後も、分岐は何度か。
分かれることも、合流することもあった。
景色も草原から木々の生える林の風景に変わり、その林の中に小川が見えたりした。
水面が反射し、綺麗。
やがて、王都を発ち約1時間後。
(あ……)
街道の先に、村が見えた。
林の中を開拓し、作られたような小村だ。
木造の家々を中心に畑が広がり、更に周囲を簡素な柵がグルっと覆っている。
畑仕事中の村人が僕らに気づく。
赤髪のリーダーの美女が、
「仕事中、すまぬ。我らは王都から派遣された冒険者じゃ。小鬼の件で話を聞きたいのじゃが、村長宅はどこかの?」
と、問いかける。
村人は驚いた様子。
(見た目、女子供の集まりだもんね)
でも、レオナックさん独特の貫禄もあってか、素直に教えてもらえる。
村の中を通り、村長宅へ。
村で1番大きな家――ただ、結構、造りは簡素。
村長は、50代ぐらいの男の人だった。
来訪の理由を伝えると、
「おお、よく来てくだすった」
と、歓迎してくれた。
家の中に案内され、話を聞く。
話の内容は、事前の情報と大差なく。
2週間ほど前、村人が狩猟や採取のため森に入り、そこで小鬼を見かけたのが始まり。
その時は、2~3匹。
でも、数日後、再び10匹以上の群れが目撃された。
さすがに危機感を覚え、王都の役所に連絡し、村人同士交代で自衛のための村の見回りをしながら国の対応を待ち続け、ようやく今日、僕らが来たという感じらしい。
レオナックさんが聞く。
「被害は?」
「畑の作物が少々。人の被害は、今の所、まだねえですが……」
「ふむ、そうか」
その答えに、彼女は頷く。
少し安心したようにも見える。
やがて、目撃した場所を教わり、深々頭を下げる村長に見送られながら、僕らは村長宅を出た。
村の敷地を抜け、目撃された森に向かう。
その移動中、
「――小鬼は、繁殖力が強いのです」
と、クレティーナさんが言う。
(え?)
僕は、鞍上で後ろを振り返る。
彼女は前を向いたまま、
「少数の内は良いのですが、数が増えると森の食料では足りず、畑の作物や家畜を狙います。やがて、それを守る人間が襲われる事態へと発展するのです」
「……あ」
「男は殺されるだけで済む」
「…………」
「ですが、女はそれ以上の酷い目に遭うこともあります」
彼女の声は、淡々と。
けれど、静かな嫌悪と怒気がある。
と、妹も言う。
「悪知恵も働くし、好奇心も強いの。遊びで人を襲うこともあるしね。――だから、早期の駆除が必須なのよ」
「……そっか」
僕も頷く。
結構、軽く考えてた。
初心者用のクエストだから。
でも、違う。
依頼者にとっては切実で、実際は命の危険もあるものなのだ。
(――意識を改めよう)
と、自分を戒める。
そんな僕の表情の変化を見ていたレオナックさんが、かすかに笑う。
落ち着いた声で、
「そのために、我らが来た」
「…………」
「人々を守るため、魔物を討つ――それも『冒険者』の仕事の1つじゃ」
「うん」
僕も頷いた。
新米だけど、僕も冒険者になったのだ。
(うん、やるぞ)
グッ
拳を握り、気合を入れる。
やがて、彼女たちと共に、僕は小鬼の群れが生息するという森へと入っていったんだ。
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