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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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29/43

029・始まる新生活

 クレティーナさんが扉を開き、僕らは家に入る。


(お~)


 広い玄関。


 奥には、廊下が続く。


「靴はここで脱いでくださいね」


「あ、うん」


 おや、靴、脱ぐんだ?


 中世ヨーロッパ的な異世界では珍しい、室内も土足で歩く訳ではないようだ。


 全員、室内履きに履き替える。


 ちなみに、僕は客人用の室内靴を借りた。


 廊下の先へ。


 辿り着いたのは、広いリビングだ。


 大きなテーブルとソファー、奥には台所があり、調理具の棚や食器棚がある。


 天井には照明具。


 台所の床下には、食材用の保冷庫もあるらしい。


(綺麗だなぁ)


 上品な感じ。


 室内もきっちり掃除されている。


 姉妹は、買ってきた食材を保冷庫にしまう。


 リビングから先にも廊下は伸びていて、クレティーナさんがそちらを指差す。


「あちらには、私とパルの自室があります。あと、洗面所とトイレもありますね。お風呂場は横の階段を下り、その地下にありますよ」


「へぇ~?」


「2階は、倉庫と客間がいくつかあります。その客間の1つを、シーナの部屋にしましょう」


「僕の部屋? いいの?」


「もちろん」


「やった、ありがとう」


 笑う僕に、彼女も微笑む。


 妹の方は「汚すんじゃないわよ」と注意してきた。


 うん、気をつけるよ。


 彼女たちは1度、自分たちの部屋へ引き上げる。


 僕は、リビングで待機。


 5分ほどで、武器や防具を外し、荷物などを降ろして身軽になった姉妹が戻ってきた。


(あれ?)


 パルシュナ、眼鏡をしている。


 驚く僕に、


「何よ?」


「ううん。……いや、知的少女に見える詐欺だと思って」


 ゲシッ


(痛っ)


 詐欺師に軽く足を蹴られました。


 少女は、そっぽを向く。


「ふんっ。冒険中は魔力で視力強化もされるから必要ないけど、普段は使ってんのよ。悪かったわね」


「そっか。でも、結構、可愛いよ」


「…………」


「?」


「ふんっ」


 ゲシッ


 赤面した少女にもう1度、足を蹴られました。


 痛い~。


 年少組の僕らのやり取りに、クレティーナさんはクスクスと笑う。


 そして、


「お待たせしましたね。では、シーナの部屋に案内しましょう」


「うん!」


 僕は頷き、全員で2階へと上がった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 2階に到着する。


 来客用の部屋は、2部屋あり、


「その1部屋は、レオ専用になっていますね。彼女も泊まりに来ることがありますので」


「へ~?」


 そうなんだね。


 僕は頷き、ふと思う。


「レオナックさんは、どこに住んでるの?」


「ギルドの用意した専門の高級住宅塔ですね。一部の選ばれた冒険者しか暮らすことのできない場所です」


「へ~」


「昔は、持ち家もあったらしいですが」


「が?」


「有名人なので、大挙して人が押し寄せたらしく」


「え……」


「借金の申し込み、有象無象の者からの求婚、名も知らぬ団体からの寄付願い、複数の傭兵団からの勧誘、他色々、昼夜問わずで……結局、高額で手に入れた豪邸を手放したそうです」


「…………」


 ひ、酷い話。


 と、妹の方が言う。


「レオって『金印』でしょ」


「あ、うん」


「だから、嫌でも注目を集めて、その分、アタシら姉妹は目立たなくてさ。おかげで平穏に暮らせてんのよ」


「へ~、そっか」


「でも、姉上も『銀印』だし、知らない奴らに簡単に住所とか教えちゃ駄目よ? いい?」


「あ、うん。わかった」


 指を突き付けられ、僕は生真面目に頷く。


 前世と違い、写真や映像のない世界だ。


 冒険者の頂点の『金印』はともかく、姉妹はまだ世間的に顔や名前は知られてないのかもしれないね。


 だからこそ、


(僕からバレないよう、気をつけよう)


 そう心に刻む。


 クスッ


 クレティーナさんは優しく笑い、


「では、シーナの部屋に入りましょう」


 と、1つの扉を開けた。


 キィ


 軽い音と共に、木製扉が動く。


 促され、僕が先頭で3人で室内へ。


(おお~)


 思ったより広い部屋だ。


 室内には大きなベッドがあり、壁際には上質な机と椅子がセットで置かれている。


 手前の壁は、両開きの収納棚。


 角部屋なのでカーテン付きの大きな窓ガラスが壁2面にあり、そこからは広い芝生の庭と王都フィーンドリアの絶景が見渡せた。


 凄~い。


(まるで、お高いホテルの1室だ)


 僕は、青い目を輝かせてしまう。


 クレティーナさんは微笑み、


「少し留守にしていたので、しばらく換気をしましょうね」


 カチャン


 と、窓を左右に開ける。


 吹き込む風が柔らかく、彼女の長く美しい髪を舞いあげた。


 う~ん、絵になる人だ。


 パルシュナが言う。


「気に入った?」


「うん!」


 僕は全力で頷いた。


 その答えに、彼女も「そう」とどこか満足げな顔である。


 クレティーナさんも笑う。


「よかった」


「ありがとう、クレティーナさん。――これから、お世話になります」


 ペコッ


 頭を下げる。


 紫水晶の瞳を細め、


「はい、こちらこそよろしくお願いします。ですが、どうか気兼ねなく、何かあればいつでも声をかけてくださいね?」


 と、家主のお姉さんは言ってくれた。


 本当、優しいね。


 妹の方は、両手を腰に上げ、


「ふふん、居候らしくしてんのよ?」


 なんて言う。


(へいへい)


 似合う姿に、僕は苦笑しちゃう。


 姉の方も微笑み、


「では、旅の疲れを癒すため、皆、お風呂に入り、そのあと少し早いですが、夕食作りを始めましょうか」


「あ、うん」


「はいよ~」


 家長の言葉に、僕らは頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 姉妹に続き、僕もお風呂を頂くことになった。


 地下への階段を降り、


(おお~)


 洞窟を削り出したような空間に、湯船があった。


 床面は平らで、排水溝と換気扇もあり、天井には丸い照明具が吊られていた。


 水道の蛇口もある。


 でも、浴室の一角から筒が伸び、先端からずっとお湯が流れていた。


 クンクン


 匂いに気づく。


 かすかに硫黄っぽい。


(まさか、温泉?)


 高級住宅地みたいだし、もしかしたら、王都の地下から湧き出る温泉水を各家々へと流しているのかもしれない。


 やば~い、凄~い。


 驚きながら、髪や身体を洗う。


 かけ湯し、湯船へ。


 んん……熱い。


 でも、しばらくすると慣れてくる。


(ふぃぃ、気持ちいい~)


 地下洞窟っぽい温泉、なんか最高じゃないか。


 湯船のお湯を、


 チャポ


 と、肩にかける。


 その時、気づく。


(……この湯船に、あの美人姉妹も入ってたんだよね?)


 ドキドキ


 急に熱くなってきた。


 ま、間違ってこのお湯、食べない(・・・・)よう気をつけよう。


 色んな意味でのぼせた僕は、湯船を出る。


 身体をタオルで拭き、買ったばかりの服に着替えて、階上へ。


(ふぅ、暑い)


 汗がじんわり。


 そうだ、お水もらおうっと。


 と、台所に向かう。


 すると、


「おや、シーナ」


「あ、クレティーナさん」


 がいた。


 どうやら、夕食の準備をしてくれている様子。


 でも、風呂上がりの玉の肌に、濡れ髪を頭の後ろに結い上げ、お団子にしていて……うん、まさに温泉宿の若女将さんみたいだ。


 彼女は笑い、


「温まりましたか?」


「うん、ありがとう。いいお湯だったよ」


「ふふ、よかった」


「あれ、温泉?」


「え? ああ……。ええ、そうですよ。北のフィーン湖の地下水が地熱で温められ、湧いてくるんです。王都の土地は、大抵、深く掘れば温泉が出てきますね」


「へぇ~?」


「24時間、入れますよ」


 と、楽しそうに教えてくれた。


(そっか)


 僕も笑う。


「所で、シーナはどうして台所に?」


「あ、お水が欲しくて」


「ああ、はい、どうぞ」


 と、コップに水を入れ、渡してくれる。


 僕は、


「ありがと」


 笑顔で受け取る。


 ゴクゴク プハッ


 うん、美味い!


 冷たいミルクもいいけど、僕は葉っぱが生えてるからか、お水でも美味しかった。


 コップを返す。


 受け取るお姉さんに、


「料理してるの?」


「はい」


「じゃあ、僕も手伝うよ」


「え?」


「居候だしさ。それに、何かしていないと、なんだか落ち着かなくて」


 と、訴える。


 彼女は「シーナ」と目を細める。


 頷き、


「わかりました。では、一緒にやりましょう」


「うん」


 僕らは笑い合った。


 一緒に作業を開始する。


 僕は、サラダ担当。


 買ったばかりの葉物野菜を洗い、微妙に痛んだ部位を取り除く。


 人参らしい野菜は細く千切りに。


 胡瓜っぽい野菜は薄い輪切りに。


 プチトマトっぽい野菜もヘタを取り、1個ずつ、包丁で半分にしていく。


 お皿に花のように並べ、


「どう?」


「まぁ、いいですね」


「えへへ」


 褒められて、嬉しい。


 その間に、クレティーナさんは白米を研ぎ、五徳式のコンロ台で土鍋で炊く。


(コンロ、あるんだ?)


 多分、電気やガスでなく『魔力式』かな。


 驚いている間にも、彼女は赤身の肉を切り、塩胡椒で下味をつけ、フライパンで焼き、残った油で豆と茸を炒めたりする。


 更に、林檎っぽい果物もカット。


(作業が早い……)


 見ていて、惚れ惚れする手際の良さと無駄のなさ。


 見惚れちゃうよ。


 僕はつい、


「クレティーナさんって、いい嫁さんになれるね」


「!?」


 ザクッ


 あ、果物1切れ、不格好になった。


(あらら)


 目を丸くする僕を、彼女は恨めしげに見つめる。


 息を吐き、


「急に何を言うのですか」


「え?」


「……いえ、いいんです。何でもありません」


「???」


 サクッ


 不格好な1切れを、彼女は半分に切る。


 その半切れを摘まみ、


「はい、シーナ」


(むぐ?)


 僕の口に突っ込まれた。


 目を白黒させる僕に、クレティーナさんは悪戯っぽく笑う。


 そして、


「パルには内緒です」


 パクッ


 残った半切れを、今度は自分の口に運んだんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 やがて、料理が完成し、僕は姉妹と食卓を囲んだ。


 ちなみに、


「ごめん、寝ちゃった!」


 と、調理終盤、パルシュナが台所に駆け込んできた。


 紫色の髪には寝癖が残り。


 衣服も乱れ、肩がずれて、ちょっと胸元が見えそうだった。


(…………)


 い、いや、まな板だから。


 要するに、普段は彼女も料理を手伝っているようだと、少女の名誉のために言いたかったのです、まる。


 姉も笑い、


「大丈夫ですよ、今日はシーナもいましたから」


「うん」


 僕も頷く。


 でも、彼女は「うぐぐ……」と悔しそうに僕を睨む。


 う~ん、難儀な少女だねぇ。


 ともあれ、食事だ。


 リビングに集まり、テーブルに並んだ料理を口に運ぶ。


(うん、美味し~!)


 白米ほかほか、お肉も柔らかジューシー、煮物も味が染みてホクホク、野菜も彩りよく(自画自賛)、デザートの果物も爽やかな酸味と甘さで最高だった。


 姉妹も満足そう。


 妹の方も、機嫌が直った様子である。


 だけど、


(2人とも、1人で2~3人前は食べてるね)


 凄い食欲。


 肉体労働者だからかな?


 まぁ、出身も影響してるんだろうけど。


 家長のお姉さんは、


「シーナはそれだけで大丈夫ですか? おかわり自由ですからね?」


「あ、うん」


 むしろ、心配されちゃった。


(いや、普通に1人前、食べてるんだけどなぁ)


 妹にも、


「アンタ、食が細いわねぇ」


 と、呆れられた。


 …………。


 僕が間違っているの……?


 ともあれ、食事の時間は楽しくて、雑談しながらあっという間に終わる。


 食後は洗い物。


「今日は私1人でやるわ!」


「まぁ?」


「え、いいの?」


「ふんっ。チビシーナに借りは作りたくないのよ」


 と、ツンデレ少女。


(おやまぁ)


 本当、不器用な優しさの女の子だよね。


 僕とクレティーナさんは顔を見合わせ、何だか笑い合ってしまったよ。


 結局、パルシュナに任せることにして。


 僕は、自室へ。


 優しいお姉さんは、階段下まで見送りに来てくれた。


 2、3段上がり、


「じゃ、おやすみなさい」


 と、僕は振り返る。


 若女将っぽいお姉さんは、柔らかく笑う。


 頷き、


「今日は、お疲れ様でした」


「うん」


「…………。シーナ」


「ん?」


「一緒に暮らす以上、私たちは家族です。最初は難しいかもしれませんが、どうか私たちを頼ってくださいね」


 僕は、青い目を瞬く。


 彼女の紫水晶の瞳は、僕をジッと見つめていた。


(…………)


 僕は、


「うん」


 小さく頷く。


 クレティーナさんも微笑んだまま、頷く。


 優しい声で、


「おやすみなさい、シーナ」


 と、言った。


 僕は階段を登る。


 姿が見えなくなるまで、彼女はずっと階段下にいてくれた。


 そして、自室へ。


 パタン


 部屋に入り、扉を閉める。


 室内は暗い。


 ただ大きな窓から紅白の美しい月の光が、淡く差し込んでいた。


 ポフッ


 大きなベッドに倒れ込む。


 柔らかい。


 目を閉じると、あの姉妹や赤髪の美女の姿が浮かぶ。


(……参ったなぁ)


 1人、笑う。


 新しい環境。


 新しい自分の部屋。


 新しい……家族……。


(さて、明日は何があるんだろうね?)


 深く息を吐く。


 真新しい布団の匂いを感じながら、やがて、僕はゆっくりと眠りに落ちていった。

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― 新着の感想 ―
パルシュナ、実はメガネっ子なのか・・・普段は必要だけど依頼等の時は魔力で補強できるから必要ないって所がなんか、「運転する時は眼鏡必須だけど、日常生活を送る際はかけなくても一応大丈夫」という感じがしてて…
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