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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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027・神樹の若葉

(わからないことは、素直に聞こう)


 僕は正直に、


「聖気って何?」


 と、自身の無知を晒した。


 でも、ケーシャンさんは甘く微笑んだまま、優しく教えてくれる。


「『護国の神樹』の宿す特殊な力よ」


「護国の神樹の?」


「ええ。魔を退け、人を癒し、心を安らげる不思議な力ね。教会曰く、神の慈愛の心。魔法研究院曰く、目に見えないほど非常に微細な神性のエネルギー粒子なのだとか」


「へぇ~?」


 彼女は、灰色の枝を見る。


 僕もつられる。


「護国の神樹は、地下に伸ばした根から大地の霊脈を通し、周辺一帯の土地に『聖気』を広める。それにより、魔物が弱体化したり、近寄らなくなったりするの」


「…………」


 僕は、自分の手を見る。


 顔を上げ、


「その聖気が、僕に?」


「ええ、多分ね」


 彼女ははにかんだ。


「じゃなければ、少なくとも枝は反応しないわ」


「…………」


「きっとシーナ君の頭の葉っぱは、小型の『護国の神樹』――要は神樹の『若葉』みたいなものなんだわ」


「若葉……」


 僕は目を丸くする。


 クレティーナさんたち3人も驚きの表情で僕を見ている。


 ヒラヒラ


 頭の葉っぱが揺れる。


 ケーシャンさんは微笑み、


「その若葉の根を通して、シーナ君の体内にも『聖気』が流れるのでしょう。それが君の不思議な力の正体じゃないかしら?」


 と、締め括った。


(…………)


 なんか、言葉がないや。


 転生した僕は、『神樹の若葉』だったらしい。


 本当に……?


 長い沈黙のあと、


「つまり、シーナ自身の肉体は、本来、普通の人間の子供のものなのか?」


 と、レオナックさん。


 ギルド長さんは、少し考える。


 そして、


「そうね。でも、頭に『神樹の若葉』が生えてしまったことで、人間をやめてしまったのかも……?」


「…………」


「私も専門家じゃないから、ただの推測よ?」


「う、む」


「ただ、生えた理由は不明よね」


「…………」


 全員が僕を見る。


 あるいは、僕の頭上の『葉っぱ』を。


 理由……。


(やっぱり、転生した時の夢かなぁ?)


 巨大な光る大樹の雫が、僕の頭に落ちた出来事を思い出してしまう――つまり、あれが『葉っぱ』の素だったのか。


 僕は、ふと思って、


「そもそも『神樹』って何なの?」


 と、聞く。


 彼女たちは意表を衝かれた顔だ。


 ケーシャンさんが苦笑し、


「そうね。教会の聖書によると、大昔、まだ力も弱く数も少なかった人類を哀れに思い、神々が植えた『聖なる樹木』らしいわ。そして、現代まで生き残った樹木が『護国の神樹』と呼ばれているそうよ」


「へ~、神々が?」


 意外と由緒正しいんだね?


 僕は、紅茶のカップを覗く。


 赤い水面に、頭に葉っぱを生やした少年の姿が見える。


(……うん)


 やはり、今の僕、シーナだ。


 顔を上げ、


「ま、僕は僕だね」


 と、笑った。


 全員、呆気に取られた顔をする。


 僕は言う。


「いや、その、『葉っぱ』のことを教えられても、結局、僕は僕で何も変わらないしさ。正直、あ~、そうなんだ? ぐらいの感想しかないんだよ」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 4人は顔を見合わせる。


 やがて、


「そうですね」


 と、クレティーナさんが笑った。


 赤毛の美女とギルド長は苦笑し、同い年の少女は「アンタねぇ……」と呆れた顔だ。


 でも、


(僕は僕、シーナだ)


 何を知っても、何者でも関係ない。


 聖気があろうとなかろうと、僕自身の心は変わらないから。


 だよね?


 頭を左右に揺らす。


 ヒラン ヒラン


 合わせて、頭の『葉っぱ』も踊るように左右に揺れた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「シーナ君は逞しいわね」


 クスクス


 ギルド長のお姉さんは、おかしそうに笑う。


 やがて、頷き、


「でも、そうね。例え、神樹と同じ『聖気』が操れるとしても、それもシーナ君の個性の1つでしかないわね」


「うん」


「ふふっ、シーナ君の人柄も知れたし、今回は話せてよかったわ」


「うん、僕もだよ」


 と、笑う。


 おかげで自分のこと、少しわかったしね。


 彼女は笑みを深くし、


「今後、シーナ君は『冒険者』として活動をするのよね?」


「うん」


 僕は頷き、3人を見る。


 パルシュナは唇を尖らせるけど、年上2人は頷いた。


 リーダーである美女が、


「当面は、我らと行動を共にする予定じゃ」


「はい。冒険者としての基礎を教え、彼の独り立ちの手助けをする、と、シーナと約束しましたので」


 クレティーナさんも続ける。


 亜麻色の髪を揺らし、ケーシャンさんも「そう」と頷いた。


 形の良い顎に白い指を当て、少しの間、考え込む。


 やがて、


「わかりました」


「…………」


「私たち冒険者ギルドも、1人の『冒険者』としてシーナ君をサポートします。でも、特別扱いはなしよ?」


「うん」


 もちろんだ。


(別にそんなの、望んでないし)


 平然と僕も頷く。


 その様子に、彼女も微笑む。


 それから、


「ただ、王国や教会には、神樹関連の内容は報告する義務があるの」


「あ、うん」


「だから、シーナ君のことも伝えるわ。その結果、もしかしたら今後、関係各所からシーナ君に接触があるかもしれないの」


「へぇ……」


 そうなの?


 でも、護国の神樹が枯れ、王国の一大事だ。


 僕が『聖気』を操れると知ったら、その原理を調査したがったり、利用したいと考えるかも……?


(ま、仕方ないか)


 嫌なことされないなら、許そう。


 僕は寛容なのだ。


 と、


「その時は、すぐ連絡してね」


「え?」


「私たち冒険者ギルドが間に入って、できる限り、シーナ君にとって良いようにしてあげるから」


「…………」


 僕は、青い目を瞬いた。


 目の前の美女を見つめ、


「どうして?」


「ん?」


「どうして、僕を助けてくれるの?」


 と、聞く。


 ケーシャンさんは、柔らかく笑う。


 

「――シーナ君が冒険者だから」



 と、言った。


 彼女は、豊かな自身の胸元を白い両手で押さえる仕草をする。


 僕を見返したまま、


「それが、冒険者ギルドの役目」


「…………」


「そして、この白塔所属の冒険者は、皆、ケーシャン・オーリアの子供も同然なの。母が子を守るのは、当然でしょう?」


 と、言い切った。


 水色の綺麗な瞳。


 そこに嘘はなく、ただ誠実さがあるように思えた。


(……うん)


 ケーシャンさん、いい人だね。


 クレティーナさんたち3人も、元担当ギルド員だった彼女のことを認めている様子だったし、きっと信頼できる人なんだろう。


 僕は姿勢を正した。


 彼女を見つめ、


「ありがとう、ケーシャンさん」


 ペコッ


 と、頭を下げる。


 そんな僕に、彼女に育てられた3人の女冒険者は――2人の美女は微笑み、少女の方は小さく肩を竦める。


 そして、当のギルド長のお姉さんは、


「あらあら?」


 その頬に白い手を当てると、少しくすぐったそうに笑ったんだ。

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― 新着の感想 ―
神々が植えた神木・・・それが神樹、なればシーナがその力を得たのもやはり・・・?
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