026・ケーシャン・オーリア
僕ら4人は食事を切り上げ、階段を登っていく。
登りながら、
「ギルド長ってどんな人なの?」
と、僕は聞いた。
3人は顔を見合わせる。
代表して、赤髪のお姉さんが、
「我の前の担当ギルド員だった女じゃな」
と言った。
(え、レオナックさんの?)
しかも、女性?
「7年前、ティナとパルの登録も行ったの。白塔の第3ギルド長に抜擢されたのは3年前だったか」
「ですね」
「そうね~」
「へ~?」
じゃあ、イリオナさんの前の姉妹の担当ギルド員でもあったんだ?
その姉妹の姉が言う。
「若いのに聡明な方でした」
「うん」
「王都支部のギルド長です。多くの人が望む地位でしたが、若い彼女が抜擢されたのは、担当した冒険者が皆、優秀な実績、結果を残したからです」
「結果?」
「『金印』となったレオを筆頭に、多くの『銀印』『白印』の冒険者を輩出しているんですよ」
「おお~」
そうなんだ?
僕は、先の階段を登る赤毛の美女を見る。
彼女は苦笑し、
「手腕は見事じゃったの」
「手腕?」
「実力を見極め、その冒険者に適切なクエストを振り分ける。気づけば実力も上がり、昇印している。上への根回しや周囲への立ち回りも見事じゃったよ。我も気づけば『金印』じゃった」
「へぇぇ~?」
「3年前、ティナも『銀印』になった」
「うん」
「登録して4年目じゃ。本人の資質もあったが、あの女の手腕もあったろう。――その功績が、ギルド長就任の最後の決め手となったらしいの」
「へぇ、クレティーナさんの昇印が?」
僕は、その本人を見る。
彼女は、少し照れ臭そうに笑う。
「全ては、ケーシャン様の実力ですよ。私はただ、自分のことに必死なだけでしたから」
と、謙遜する。
妹は「昇印は姉上の実力よ」と言う。
(ふむ……)
つまり、人を見る目があるのかな。
レオナックさん、クレティーナさん、そうした稀有な才能を見抜き、きちんと磨き上げる能力がある、と。
…………。
僕は、どう見えるのだろう?
(むむ……)
なんか、ドキドキしてきた。
僕は、深呼吸。
気づいて、
「大丈夫。怖い人ではありませんよ」
「そう?」
「はい」
最後に育てられた冒険者の美女は頷く。
付き合いの長そうなレオナックさんは、小さく笑い、
ポン
僕の頭を軽く叩く。
「ま、気負うな。会えばわかるのじゃ」
「ん……。そうだね」
彼女の手の感触を感じながら、頷く。
ちなみに、意地悪な少女は「失礼なことして、クビにならないようにね」と怖いことを言ってたけど……。
ともあれ、僕らは階段を登る。
やがて、『ギルド長室』があるという塔の5階に辿り着いた。
◇◇◇◇◇◇◇
階段を登り切ると、
(あれ、人がいる?)
階の入り口に、3人の人影があった。
2人は制服に帯剣をした警備員っぽく、もう1人はギルド職員らしい女の人。
彼女は頭を下げ、
「お待ちしておりました。皆様、どうぞこちらへ」
「うむ」
「はい」
「…………」
大人の2人が応じ、少女は無言。
何となく、
(ギルド長の秘書さん?)
って感じ。
その秘書さんに先導され、絨毯の敷かれた長い廊下を歩く。
廊下の先に、白い木製の扉があった。
(ギルド長室かな?)
と、推測する。
装飾も施された立派な白い扉を、
コンコン
秘書さんがノックする。
「ギルド長。レオナック様、クレティーナ様、パルシュナ様、シーナ様が参られました」
と、室内に伝える。
(シーナ様?)
様付けに、僕、びっくり。
扉の向こうから、
「――お通しして」
と、返事がする。
上品な、声だけで美人だと想像できるような綺麗な声だ。
秘書さんが扉を開ける。
ギィ
少し重そう。
頭を下げたままの彼女の前を通り、僕ら4人はギルド長室へと入った。
(へぇ……?)
室内は、円形の造りだった。
石の壁や絨毯の床は全面が真っ白で、半球状の天井から吊り下げ式の照明が数本、輝いている。
壁には、埋め込み式の本棚もある。
中央に、執務机。
手前に、応接用に背の低い机とソファーがあった。
……何となく、空気が違う。
こう、神社、仏閣みたいな清浄な感じ?
そして、執務机の椅子に座っていた女性が、衣擦れの音と共に立ち上がった。
(わ……美人)
年齢は、レオナックさんと同世代ぐらい?
亜麻色の長い髪に、足元まで隠すロングスカートのワンピースを着ている。
肩には、純白のショール。
アクセサリーとして、青い宝石の首飾りが胸元で揺れている。
目は、薄い水色。
上品な微笑みを湛えながら、彼女は、僕らの方へと歩いてくる。
手を広げ、
「いらっしゃい、みんな。急に呼び出したりして、ごめんなさいね」
と、第一声。
(……甘い声だね)
深い母性と慈愛を感じさせる素敵な声。
姉妹が、
「お久しぶりです、ギルド長」
「……ども」
と、挨拶する。
「ええ、お久しぶり、クレティーナちゃん、パルシュナちゃん。――レオナックちゃんに聞いたわ。今回のクエストでは、クレティーナちゃんが少し危険な目に遭ったそうね」
「はい、多少。少し油断をしました」
「そう……。でも、無事でよかったわ」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げるクレティーナさん。
ギルド長の美女も微笑み、頷く。
一方、妹の方は、
「…………」
何も言わず、少し居心地悪そう。
(おや、人見知り?)
意外だね。
その時、
「ケーシャン」
と、レオナックさんが口を開く。
視線が集まる。
「話に出ていた小僧、シーナじゃ」
ポン
背中を叩かれた。
(わ?)
ギルド長、ケーシャンさんの水色の瞳が僕を見る。
綺麗な目。
でも、深い。
吸い込まれそうな、心を見透かしそうな美しい深さがあった。
ドキドキ
少し緊張しながら、
「こんにちは」
と、僕は言った。
彼女の水色の瞳が細まり、柔らかく微笑む。
「こんにちは。貴方がシーナ君?」
「うん」
「そう。初めまして、私はケーシャン・オーリア。この冒険者ギルド第3支部のギルド長をしているの。よろしくね?」
と、右手を出される。
(あ、ども)
その手を握る。
彼女は、嬉しそうに笑った。
…………。
う~ん?
なんか彼女、幼い子供を相手にしている保育士さんみたいな印象だ。
とりあえず、
「うん、こちらこそ」
と、僕も答えた。
やがて、ケーシャンさんは僕らを応接用のソファーに座らせた。
対面に、彼女が座る。
秘書さんが、
コト コト
クッキーなどの入ったお皿と紅茶のカップを並べ、一礼して去っていく。
ギルド長は、
「どうぞ」
と、笑った。
僕は「うん」と頷き、クッキーを1枚、頬張る。
パクッ
ん、甘くて美味しい。
サクサクだ。
つい、笑顔がこぼれちゃう。
(ん……?)
気づけば、全員が僕を見ていた。
え、何?
年上の美女2人は苦笑し、同い年の少女は呆れた顔である。
ギルド長は、
「ふふ、素直ないい子ね」
と、楽しそうに笑う。
…………。
何でよ?
◇◇◇◇◇◇◇
「じゃあ、お話を始めましょう」
パン
両手を合わせ、ギルド長のお姉さんは笑った。
僕らを見回し、
「まず、全員に確認ね? レオナックちゃんに聞いたけど、フィーンレイド王国の『護国の神樹』は黒い竜を使役する何者かに、人為的に枯死させられた……で、いいのかしら?」
と、問う。
僕は顔を見合わせ、頷き合う。
「うん」
「うむ」
「はい」
「……です」
「そう……。残念な事実ね」
認める僕ら。
ケーシャンさんは頬に手を当て、悩ましげにため息だ。
(ん~?)
僕は、少し考える。
手を上げ、
「はい」
「あら? 何かしら」
皆が僕を見る。
僕は言う。
「人為的って言うけど、犯人は『人間』じゃないかも」
「え?」
ギルド長さん、目が丸くなる。
パルシュナも驚いた顔をし、年上組の2人は視線を合わせる。
「うむ、確かに」
「可能性はあります」
「あらあら、どうしてかしら?」
ケーシャンさんは困惑した表情を作りながら、1番最初に言い出した僕に続きを促した。
(……話してもいいよね?)
多分、彼女も聞いてるだろうし。
僕は答える。
「あの時、僕、石を投げてアイツのお腹に穴を開けてやったんだ。これぐらいの」
と、両手で大きさを示す。
彼女は「あらあら」と驚く。
僕は続ける。
「その時、口から吐いた血は赤じゃなくて真っ黒だったよ。それに最後は、全身が黒い煙みたいになって、死体も残らずに消えちゃったんだ。……僕が知らないだけで、そういう人種っているの?」
「いないと思うわ」
「じゃ、やっぱり人間じゃないと思う」
「そうね」
頷くギルド長さん。
レオナックさんも言う。
「視界の隅であったが、我も見たの」
「私は吐血の色までは見えませんでしたが、黒い煙状となったのは目撃しました」
「そう」
重ねたクレティーナさんの言葉にも、彼女は頷く。
チラッ
少女を見る。
「わ、私は見てないです……」
小声で、恐縮したように答えるパルシュナ。
元担当ギルド員だった美女は、そんな少女を安心させるように微笑み、
「そうなのね」
と、優しく言った。
それから頬に手を当て、「う~ん?」と悩ましげに呟く。
手を離し、
「わかりました。依頼主の王国への報告書にも記しておくわね。でも、犯人が人間以外だとすると管轄はもしかしたら教会の方かもしれないわね」
と、言った。
教会?
(まさか、犯人は幽霊とか?)
あはは、まさかねぇ。
……でも、異世界だし、あり得るかも?
怖~。
と、ギルド長の水色の瞳が、再び僕を見る。
(ん?)
「さて、シーナ君?」
「あ、うん」
「レオナックちゃんから聞いてるわ。その犯人を攻撃した時も含めて、シーナ君は何か不思議な力があるそうね」
「…………」
おお……来たか。
僕は頷く。
彼女は、甘く微笑む。
自分の頭をチョンと触り、
「葉っぱ?」
「うん」
「私にも見せてもらっていいかしら?」
「うん、いいよ」
3人にも知られてるし、
(多分、彼女にも知ってもらい、味方になってもらった方が今後のためにもいいと思う)
僕は深呼吸。
一緒に座る3人も僕を見ている。
「シーナ……」
少し心配そうなクレティーナさん。
クスッ
僕は笑う。
(うん、もう味方もいるしね)
だから安心して、
ニョキッ
自分の頭から、2枚の『葉っぱ』を生やした。
◇◇◇◇◇◇◇
「あらあら、まぁまぁ?」
ギルド長のお姉さんは、水色の目を見開いた。
席を立ち、
「本当に頭から生えているのね……」
と、上から僕の頭を覗き込む。
(…………)
す、少し恥ずかしいぞ。
彼女は言う。
「……そう。この葉っぱが生えると、シーナ君は怪力を出せたり、人を癒せたりするのね?」
「うん」
「でも、記憶がない?」
「うん」
僕は頷き、
「気づいたら、あの森にいた。で、クレティーナさんに出会ったんだ」
と、その美女を見た。
緑髪のお姉さんは、僕の視線に微笑む。
ギルド長さんは少し考え込む。
やがて、扉の方を向き、
「ケティちゃん。例の物、部屋に運んでくれる?」
と、室外へと声をかけた。
秘書さんの「承知しました」という声が返る。
(例の物?)
ギルド長以外の全員がキョトンとする。
やがて、秘書さんと男性ギルド職員が、室内に大きな台車を運び入れた。
台車の上には、
(あ……『護国の神樹』の枝だ)
と、灰色の枝があった。
長さ2メートルぐらい、太さも電柱みたいにある。
ギルド長が僕を見る。
(ああ、はいはい)
見たいのね?
僕は席を立ち、枯れた灰色の枝に触った。
ピトッ
途端、
パアッ
神樹の枝が光り出し、神々しく輝く。
頭の葉っぱも、
ピカァ
と、光る。
それらの輝きに、秘書さん、男性ギルド職員さんが目を見開き、ケーシャンさんも「まぁ……」と口元を両手で押さえた。
う~ん?
(本当、何で光るんだろうね?)
本当に不思議。
やがて、秘書さん、男性ギルド職員さんが退出する。
ちなみに、
「口外禁止ね」
「はい」
「わかりました」
と、出る前に、他言無用を命令されていた。
僕らは、席に戻る。
ケーシャンさんは胸に手を当て、長く息を吐く。
頬が少し赤い。
僕を見る。
ドキッ
その水色の瞳には、強い興奮が宿っていた。
(???)
戸惑う僕。
彼女は笑う。
「わかったわ、シーナ君」
「うん?」
「その頭の葉っぱは、恐らく『聖気』を発生する器官なのね。だから、枝も光るし、シーナ君の肉体にも影響が出るんだわ」
「…………」
ええと……。
聖気って何?




